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【黒木啓司さん芸能界引退に寄せて:⑦】ROCKYの拳、SWORDの魂【HiGH&LOW】

Deep underneath your skin
There lies a new sin,
that’s life we’re living in

君の身体のずっと奥底には
新たな罪が横たわっている
そういう人生を、僕たちは生きているんだ

But I’ll be standing strong in all the fights I’ve lost

だけど、僕は強く立ち続ける
全ての敗北を乗り越えて

‘Cause that’s, that’s just who we are

そうすることが、
それだけが僕たちだから

第4章:再武装される拳、不壊の魂

前章では、開戦前からROCKYが窮地に追い詰められるところまでを解説してきました。本章ではいよいよ後半戦、援軍の到着から戦いの決着までを振り返ります。

まずは、ハイローシリーズを通じて自分が立てた仮説について、ここで一度お話しさせてください。

それは「拳の損傷・流血」=「心・魂が傷つきダメージを受けて苦しんでいる、精神力を削られている描写」というものです。

例を少し挙げると、ノボルの大学生たちへの報復、獄中で怨みを募らせる日向が床に拳を叩きつける場面、ザムでの琥珀さんと元ムゲン3人の決戦、更には記憶が若干曖昧なのですが、雅貴が上園会長を追い詰めた末に撲殺しかける場面もそうだったように記憶しています。また、矛盾が指摘されまくり「読切版」と呼ばれていることでお馴染みですが、ドラマS1第1話でのノボルの喧嘩シーン(出所直後と思われる)もそうかもしれません。

逆にS2で村山と轟がタイマンを張ったときには、両者の拳が正面衝突しますが、どちらも一歩も退かない気迫で戦っていることの表現として、一切拳にダメージはありません。ファンタジックで、現実にはちょっと有り得ない場面ですよね。これは漫画などでもよく見られるシーンですが、今回の記事では特に重要なので思い出しておいてください。

また、先の展開ではありますが、この最たる例はFMで心を折られそうになったコブラの「もう拳だけじゃ解決できねえ」でしょう。仲間を失い、街を破壊され、自身も敗れて囚われ、間に合わずスモーキーを死なせてしまい、極限まで追い詰められた結果、彼は一度拳を握ることすらできなくなってしまいます。

このときはコブラの拳自体が傷ついているわけではありませんが、「拳」=「精神力の象徴(魂)」と考えれば、拳を振るえなくなり、その意味さえも自ら否定してしまうというのは、彼が味わった作中最大の絶望感を強烈に表現していると言って差し支えないでしょう。

さて、それでは話をEOSに戻します。少し展開を巻き戻しまして、本作のROCKYが身につけたあるものに注目してみましょう。それは白い衣装を身に纏った彼の身体にあって一際目立っている、赤いグローブです。

このグローブは、常に罪悪感に苛まれ、己に重責を課しながら戦い続け、ギリギリのところで踏みとどまってるROCKYの拳=魂を武装しています。

真紅のグローブは、拳から流れる血を覆い隠します。また、敵を殴りつけてどれほどの返り血に塗れようとも、その色が変わることはありません。逆に言えば、既に鮮血の色に染まったグローブは、彼がこの戦いでどこまで手を汚すことも厭わない覚悟も表しています。

そして、手の甲側には道化師のような、歪な歯並びで笑う口が刺繍されています。鬼神の形相で戦いに来たROCKYは、絶望的な戦況を理解しながらもなお、この口を顔に重ねることで、強引に歪んだ笑いを見せます。たとえそこが死地であっても、白の軍団の王として、彼は笑って開戦を宣言しなければならないからです。

そんなグローブで武装した拳を、蘭丸はいとも容易く、狂喜しながら貫きました。その刃はギリギリで繋ぎ止めているROCKYの精神力と戦意もろとも切り裂き、覚悟を砕き、彼の存在そのものを破壊する一撃でした。この瞬間、蘭丸はROCKYを完全に否定し、己の暴力の美しさに酔いしれました。

拳を貫かれ、物理的なダメージは無論のこと、その精神までもがまさに限界を迎える寸前。

再三にわたって協定の件や彼らからの助力を拒み続けたにもかかわらず、山王連合会が乱入し、コブラはROCKYを守るように立ちはだかりました。

そして、作中最大の名シーンが訪れます。

「随分やられてるみてえだな」

「うるせぇ、バーカ」

悪態をつくコブラに、言い返すROCKY。しかし、それが今の彼ら2人にとっては何よりも信頼の証であると、我々は知っています。そして初めて握られる両者の手。地に臥した白の王が、ついに再び立ち上がりました。

ROCKYの破れたグローブと砕かれた拳の上に、コブラの手渡したハンカチが巻かれます。彼ら2人の絆の……否、それだけでなく、SWORD協定の象徴であるハンカチは、千切れかけたROCKYの闘志を繋ぎ止めました。こうして、彼の魂=拳は一度破壊されたものの、再び武装をまとって強く握り締められます。

ハンカチがROCKYの拳を固め、再び戦う力を与える様子。それはまさに、長きにわたって傷つき、苦しみ、時には互いに争いながらも戦い抜いてきたSWORDのチームたちが、協定によってついに結束して敵に挑む、その姿と重なるものでした。

Whenever I feel like I’m alone
I’ll find the glory deep inside my soul

自分がたった一人のように感じるときはいつも、魂の奥深くにある栄光に目を向けて

And I’ll fight for my passion in life
Give everything I have in me

生命を懸けられる情熱のために戦うんだ
僕の中にある全てを差し出して

その後も各チームが援軍に現れるたび、ROCKYとラスカルズは力を取り戻していきます。ついにはあの日向までもが、口は悪くとも自分なりにROCKYを激励し、そしてSWORD協定の完全成立を高らかに叫びました。

さて、分量に際限がなくなるため、ROCKYvs蘭丸以外の戦いは今回泣く泣く全てカットすることにしたのですが、コブラvsジェシーでは重要なやりとりがあるため、そちらにだけ触れることにいたしましょう。

なおも劣勢が続き、廃電車の窓ガラスを突き破って吹き飛ばされるROCKYを見て、ジェシーは「蘭丸の方はもう終わりそうじゃねーか」と嘲笑います。しかし、コブラは彼が負けることは絶対にないと言い放ちました。

「アイツはハナから腹括ってる。それだけの覚悟が……お前らにあんのか?」

生命を懸けて戦う人間の危うさを知っているがゆえに、「自分で立つ」と言い切られても、コブラは駆けつけずにはいられませんでした。しかし同時に、決死の覚悟を決めた者の本当の強さを、その精神が肉体の傷を凌駕することを、きっとコブラ自身も琥珀とのあの死闘を経て、誰よりも知っていたのでしょう。

そのコブラの言葉は、現実になっていきます。何度倒されても立ち上がり、食らいついてくるROCKY。肉体が受けたダメージは遥かに軽いはずの蘭丸を、次第に未知の感情が覆っていきます。それは、自分が壊したと思ったものが壊れていなかったことへの困惑であり、生きていられるはずのない人間が自分に立ち向かってくることに対する、本能的な恐怖でした。

悪の才能と戦いの素質の双方に恵まれ、それを自然に成長させてきた蘭丸。しかし、SWORDの戦士たちが乗り越えてきたような、魂を削り合い、信念をぶつけ合い、死力を尽くすような戦いを彼が経験したことは、恐らく一度もなかったでしょう。彼にとって戦いとはどこまでも遊びであり、喧嘩などという概念は存在しなかったのですから。

蘭丸は本気でROCKYの存在を壊しにかかっていましたが、それも彼にとっては遊びの延長に過ぎず、そこにコブラが言うような覚悟はありませんでした。そのため、一度恐怖を感じた蘭丸を支えるものは何もなく、加えて仲間など不要と断じてきた彼は、ROCKYの強さの源を理解できません。

そしてついに、砕けて使えなかったはずのROCKYの拳は、蘭丸の拳を正面から粉砕しました。

No, I’m not gonna give up
Oh, no, not gonna give up
I’m gonna give it my all

僕は諦めない
決して諦めるつもりはない
そのために、僕の何もかもを投げ打とう

Rise above the ground
No more looking down and shine

大地から上へ昇っていくんだ
もう決して下を向くことなく
輝いてみせるよ


激突させた拳から血が流れても、ROCKYは決して歩みを止めません。彼の魂は、傷と痛みを超えて輝き、決着をつけるために身体を動かし続けます。

完全に破壊したはずの拳がなぜかぶつかってきて、自分の拳を逆に砕いた。ここに至り、蘭丸は完全に心を折られました。恐怖と錯乱に飲み込まれ、子供が泣きわめくような必死の顔をしている彼には、悪のカリスマとしての気迫はもはや残っていませんでした。

そして、夜の世界を守ってきたROCKYがその瀕死の身体で決着をつけんとするとき、まるでそれを見届けるかのように、彼を暖めるかのように、輝く陽光が差し込みます。

そして、太陽の煌めきとともに、その瞬間は訪れました。

And break into the dark
I’ll break into the dark, oh
闇の中へ踏み込んでいく
僕は、暗闇の中へと突き進んでいくんだ

I’ll give everything I have
and everything I had
僕の持っているものも、
昔持っていたものも、
全てを差し出して

I’m one step closer to the light
一歩でも近く、光の方へ

I’ll break into the dark 
I’ll break into the dark
僕は、暗闇の中へ踏み込んでいくよ
暗闇を切り裂きながら 突き進んでいく


白の王は、痛みと苦しみに喘ぎ、血と泥に塗れながらも、ついに自分と鏡写しの宿敵、黒の王を完全に討ち滅ぼしました。

尚も周囲では乱戦が続く中、たった一人で決着をつけたROCKYは精魂尽き果て、横たわると一人つぶやきました。

「あー、疲れた……」

その声には、いつもの彼の力強さや鋭さは全くありませんでした。

それは、強くなることを誓ったあの日から片時も気を緩めることなく、傷つき苦しみながら走り続けてきた一人の少年が、やっと横になって休むことを許された瞬間の、安堵の声でした。

こうして、SWORDの中でも一足早く、ROCKYはEND OF SKY=青春の終わりを迎えたのです。



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