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榎本さんに会えたらよかった

社内の他の事務所で用事を済ませて自部署に戻る帰り道、榎本さんを見かけた。
いつも自部署の人数人で楽しそうに話しながら歩いているので、今日は1人なんだと珍しく思った。

榎本さんはよく飲み会を開いていて、私にも声をかけてくれる。
私と違って社交的で先輩からかわいがられるタイプだ。

榎本さんと仲良くなりたいなと思ってはいるが、話の輪に入る勇気がなくていつも話しかけられないでいた。

でも今日は話せそうだ。
前方後方に人がいないことを確認。
榎本さんはまだこちらに気づいていない。
私有地の歩道は開けていて、遠くの榎本さんの視線の先まで見えた。
榎本さんが歩く先と私が歩く先があの曲がり方でちょうどぶつかる。
私が榎本さんを見る視線を線で繋げば直角三角形。榎本さんがあのペースで歩くと、すれ違うまであとどれくらい?
最初の一言は?無難にお疲れ様ですと言おう。
そのあと雑談できたら嬉しい。なにか言えることないかな。
今日も笑顔が可愛いですね。
本当は言いたいけど、そんな直球なこと言ったらすごい好き感出てしまう。
さりげなく褒めるけど直球ではなく、話が弾むような、

もう榎本さんに気づかれた。
視線が合った。
会釈してくれた。

私も会釈して数歩あるく。

そろそろ声を発しないと雑談が始まらない。
掠れた子音が母音にのって空気を振動させようとした。

榎本さんの声が先に空気を伝わってきた。
「中嶋さんこの時間によく自販機行ってるんですか?」

「いや、管理部門に用事があって行っていたんです。榎本さんはこの時間休憩行くこと多いんですか?」

「10時と15時にだいたい自販機行きますね。」

「じゃあその時間に行ったら会えるってことですか?」

え、急に距離縮めすぎたのでは。
榎本さんに会いたいですってことじゃん。
なんかあざといな自分。
こんなこと言えるんだ。

榎本さんの返答が聞こえてきた。
「そうっす。覚悟してきてください。盛り上がりすぎて帰れないかもしれないですよ。」

わ、うれしい。
私もずっと話してたいです。

と言いたかったけど、あざとすぎるので却下した。また今度とかうやうやしたことを言ってしまって雑談は終了した。

榎本さんと話せた。
冗談かもしれないけれど、この雑談のオチとして言っただけかもしれないけれど、盛り上がりすぎて帰れないくらい長く話しても嫌じゃないってことなのかな。

榎本さんともし会えたら、ゆっくり話せるなら、何を話そうかな。
YouTubeでよく見るものとか知りたいな。
私が好きなものも知って欲しいな。

いつもしている単純作業も、頭の中がお花畑なのでまるで楽しい作業に感じた。
榎本さんは偉大だ。



この人と話すと元気が出るな、癒されるなと思う人が誰にでもいるのではないかと思います。
その人のことを思い出すきっかけになれたらいいなと思います。
実際には起こらなかったけど、起きてたらうれしかっただろうなあ。
本当のことじゃないけど、これを考えている間、私が経験したうれしい気持ちを思い出せて楽しかったです。

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