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いち病院薬剤師が『アンサング・シンデレラ』を見て

見ました。
『アンサング・シンデレラ』

ドラマなので多少のデフォルメはあるが、概ねあのような感じである。あれだけの規模でよくドラマ撮影できるもんだな。すごい。

新人薬剤師の存在がさりげなく重要で、彼女に指導する、彼女が質問する、彼女が率直な感想を述べることによって、視聴者がより薬剤師の仕事を理解しやすくなるという狙いがあると見た。

私は卒後すぐに病院薬剤師になり、途中産休、育休等もありながらあしかけ25年以上同じ病院で働き続けている。
主に調剤畑で働いて来た。病棟薬剤師としての仕事もしている。

とにかく感謝されることに慣れていない。面と向かってありがとうと言われることはほとんどない。主人公葵さんからすれば、それが当たり前。もし、直接、あなたのおかげで助かりました、と言われたら、泣くか、恥ずかしくて照れるか、どちらかであろう。

実際に、若手の優しい医師から、薬剤師のおかげで助かったと教えられ、患者さんが直接葵さんにお礼を言う場面では、葵さん同様、肩が震わせて泣きそうになった。とにかく感謝されることに慣れていないのである。長年の苦労?が報われた気がした。労いの言葉を自分自身にかけてもらったような気がして、うれしかった。

歳の頃合いは真矢みきくらいなのだが、立場的にも仕事内容も石原さとみ演じる葵さんと同じような感じだ。

正直、薬の副作用ではないか?これは怪しい!と医師に相談し、医師にその提案を受け入れてもらい、患者さんの状態が明らかに良くなったという経験は、まれだが、ある。
心の底で、良かったな、多少は人助けになったかなと思うけど、誰からも何も言われず日々は過ぎ去って行く。その他の多くの日々は単調な日常業務として終わって行く。

時には細かいことで医師に疑義照会し、処方変更や中止、指示をしてもらわないといけない。正直、言いにくい。医師の機嫌を損ねず、どうすれば上手に話を持っていけるかばかり考える。心折れそうになり、やっぱり言うのやめようかな、と思いそうになる。でも、最後は、患者さんの状態に直結する可能性があるから、患者さんのためだと勇気を出して挑む。

でーんと立ちはだかる?主治医、数でのしかかる看護師パワーに圧倒され、病棟で、ただ肩幅だけは広く、身長は高いが小さく存在を消しながら黙々と仕事をしている(つもりの)薬剤師の私である。多分、そう思っているのは私だけ、だろう。

(あくまでも個人の感想です。医師、看護師のみなさん、偏見で言っています。)

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ここから下は専門的な話でさらにおもしろくなく、さらに長くなるので、耐えられる方だけどうぞ。

薬剤師の任務は薬剤師法第一条で謳われている。将来、AIが代わりにやってくれるかも知れないが、薬剤師にとって調剤は重要で代表的な仕事である。
また、第一条の条文の後半が、医師法第一条の条文と同じであることに、薬剤師はプライドを感じている。『国民の健康な生活を確保する』重要な資格なんだ!と。

そして、薬剤師が薬剤師たる所以の最も重要な条文が、薬剤師法第二十四条の疑義照会についてである。

医療従事者の法律の条文は、「人は間違える」前提で書かれていない。「医師の指示」という文言が使われるが、その指示が間違いであると根幹が崩れる。正しい前提でないと条文が成立しない。

薬剤師法第二十四条は、おそらく唯一、医師が間違いを犯す、かも?知れない?かもね?という可能性に触れた条文なのである。

「ちょっと待った〜!」を言う権利を法律で認められているのが、薬剤師なのである。とはいえ、時には重箱の隅をつつくようなことで問い合わせなければならず、コミュニケーションには苦労する。

苦労する、と言えば、患者さんとのコミュニケーションこそだ。葵さんのように患者さんに素敵な声かけができたらいいのに。参考にさせてもらいたいような言葉の数々を葵さんに教わった気がする。

薬剤師法
[ 薬剤師の任務 ]
第一条 薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする。
[処方せん中の疑義]
第二十四条 薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによつて調剤してはならない。

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ここからは、細々した薬ネタです。

○心臓マッサージしてもアドレナリン投しても改善に乏しい。グルカゴン持って来てーの場面に一言。

βブロッカーを服用中の患者にアドレナリンが効きにくいが、最近改定された厚労省の重篤副作用疾患別対応マニュアル(令和元年9月改定)からは「グルカゴン」の文言は消えている。臨床の救急の場面で、グルカゴンを使用する頻度は、そう高くない印象だが、いかがだろう。

○アロプリノールとアロチノロール、名前とシートのデザインが似ているから注意してねーの場面

名称やシートデザイン、力価相違の薬品棚の配置や注意喚起には本当はすでに対策されていると思われる。

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最後に、情勢的なことで私見を。

病院薬剤師が、病院の調剤室を飛び出して、病棟の詰所へ、患者さんのベッドサイドへと活躍の場を広げて来た。

それまでも薬剤管理指導等で徐々に実績を積んで来たが、大きな転機となったのが、平成22年4月30日の『医政局通知』である。

チーム医療を推進し、薬剤師を積極的に活用しようと文書の中に盛り込まれた。

さらに、平成24年の診療報酬改定で、病棟薬剤師業務実施加算が算定可能となった。これにより、チーム医療が推進され、薬剤師の病棟業務は本格的になった。

薬剤師の『アンサング・シンデレラ』視聴率は、異常に高いのではないか。内向きで、悶々としながら黙々と働いて来たから。

ここぞとばかりに、薬局、製薬会社等がこぞってスポンサーに名を連ねている。

このドラマを見て、薬剤師になりたい!特に病院薬剤師になりたい!と思う若者が出てきそうな気もする。

しかし、昨今の厳しい医療情勢を鑑みると、病院薬剤師の就職先って、あるんかな?まぁ、関東や関西ならたくさんあるか…とひとりごちた。

最後まで長々と付き合って読んでくれた方、ありがとうございました。私、書くのは好きだけど、読むのは苦手なんです。






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