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【店づくり相談室 vol.8】購買心理行動と色とギフトと


画像引用:RETRIP
画像引用:HILLSLIFE


街のクリスマスイルミネーションが眩く煌めき、なんだか意味もなくウキウキワクワクする季節になりました。光や色が気持ちを高揚させています。私たちの生活は色に囲まれていて、生活の中に色は相即不離の関係にあります。でも、なぜモノにはさまざまな色が付けられているのでしょうか。実は、この色というものは、私たちが思っている以上に人の心の働きに影響を与えているのです。


みなさんは1年の中で何月が一番好きですか。夏、真っ盛りの8月が好きな人や、紅葉がきれいな11月と答える人がいる一方で、5月や10月など過ごしやすい時期が好きな人が多いようです。日本人に限定すると「好きな月は5月」という人が最も多いそうです。それはなぜでしょうか。気候が穏やかであることも理由ですが、5月は青葉・新緑の季節で、一年で最も緑が深い月です。人が視覚で認識できる光のうち、緑という色が目への負担が最も少なく、心を穏やかにしてくれる色なのです。ですから、新緑の色というのは、潜在的に人が好む色なのです。



色については、さまざまな研究が行われ多くのエビデンスがあります。
人間の脳は文字よりも形、形よりも色を優先的に判断します。例えば、トイレの男女のサインの色を入れ替えて男子トイレを赤に、女子トイレを青にしてみた結果、ほとんどの人が間違えたという実験結果があります。人間が五感から受け取る知覚情報は、概ね視覚からが83%、聴覚11%、触覚3.5%、嗅覚1.5%、味覚1%というデータが一般的に支持されています。視覚からの情報のうち9割の要素は色だといわれています。つまり、人が受け取る知覚情報の70%以上は色による情報だということです。


画像引用:NISSAN SERENA

そこで、マーケティングでは視覚を最重要視した感性に訴える手法をとります。でも、なぜ理性ではなく感性に訴えるのでしょうか。例えば、車のCMを思い浮かべてください。車の機能をアピールするのではなく、その車があることで得られるベネフィット(便益)を訴えています。家族でキャンプに出かけるシーンや思い出を作るシーンです。機能が理性に訴えるのに対し、楽しいことや思い出は感性に訴えます。実は、人の好みは理性ではなく、感性が決めているのです。特に、女性は感性が優れているので、このポイントを大切にしています。


画像引用:中津川デザイン事務所



色には心理学的、生理学的にもさまざまな効果がある


ある精密機械を扱う工場で運搬を担当する工員からクレームが出ました。「運搬用の箱が重くてどうしようもないから何とかしてくれ」というものでした。その工場で運搬に使われている箱は金属性の黒い箱でした。その箱を薄い緑色に塗り替えたところ、クレームはぱったりとなくなったといいます。色には心理的な重さがあるということです。黒や赤、紫は重さを感じさせます。その心理的な重さは実際の約1.8倍。逆に薄緑や薄いブルーは軽く感じられます。


画像引用:東京ミッドタウン


重厚感は、高級感につながります。ラグジュアリーブランドの多くは、高級感を醸し出すためにパッケージやショッパーに黒や茶、バーガンディなどの重さを感じる色を使っています。ブランディング戦略の一環として色を使っているのです。


一方で、薄い水色を使っているブランドがあります。これは、敢えて逆張りをして軽さを強調しています。重大な買い物をしたと思わせるのではなく、カジュアルに親近感を感じてもらうための戦略と言えます。



この心理的な重さを事業に活用しているのが交通・運輸業界。例えば、街中を走るタクシーの色はグリーンやオレンジ、黄色等とてもカラフルで鮮やかです。一方のハイヤーは黒。この違いは何でしょうか。タクシーは、街で一般の車と見分けやすいようにするのと同時に、気楽にカジュアルに使ってくださいというメッセージが込められています。一方ハイヤーは高級感、重厚感を打ち出すために黒塗りになっています。



2020東京オリンピックを機に広まっているスライドドアの黒塗りタクシー。接客サービス向上のために、通常のタクシー車両より上級グレードの車両を使って差別化しようとはじまったのがきっかけです。 フォーマルな見た目や高級感のあるシートもあって、利用者からの人気も高く、その分営業収入(売上)も良くなったそうです。


色には温度がある


画像引用:インテリア・サプリ


画像引用:houzz


オフィスの冷房が強すぎて体が冷えるというクレームがありました。しかし、暑がりの方もいるので、すべての人が快適に感じる温度調整は難しい。そこで、オフィスの壁の色を白から柔らかいクリーム色に塗り替えると寒いというクレームはなくなったそうです。

また、スポーツ飲料は清涼感を伝えるために青いパッケージの商品が多くみられます。一方で、コカコーラのブランディングは、赤と白で若々しい熱気を伝えようとしています。

色の分類においても、暖色系・寒色系・中間色と分けるように、感覚的な温かさや冷たさを軸にしています。

色から受ける印象


画像引用: Canava


企業のCIカラーは、いつしかブルーが多数派になりました。高度成長期の主流は熱血、情熱の赤が主流派。今もNTTドコモなど青から赤に変える企業もありますが、パナソニックやアサヒビールのように赤から青に変えるのが時代の主流です。青は信頼、理性、技術など落ち着いた印象を醸し出し、人間の内面を表す言葉にも多く使われています。

また、青は冷静に落ち着いたパフォーマンスを発揮できるというデータがあり、陸上競技場のトラックの色も以前の茶褐色から青に変更されているところもあります。また、元ヤクルトスワローズの名キャッチャーと言われた古田敦也氏のキャッチャーミットはブルーでした。これは投手の集中力を高めるためだったと後に述べています。

病院のナース服についても、以前はそのほとんどが白でした。最近は薄いピンクやブルー、グリーンなどのパステル系が増えています。これはファッション性の観点からだけでなく、白衣が患者の緊張感を高めるというエビデンスに基づいています。

バーゲンセールの色は、赤と決まっています。赤は最も目立ち、人の行動意欲や購買意欲を掻き立てる色だからです。また、赤は、闘争心を掻き立てます。故人・燃える闘魂・アントニオ猪木さんのトレードマークは赤い手ぬぐいや赤いマフラーでした。

スポーツにおいても色は選手に少なからず心理的影響を与えています。裏を返せば、選手にとって色彩は自身の心理をコントロールし、勝負に挑む一つのツールであるともいえます。
例えば、色彩マーケティングの分野では、一般的に赤が勝負に用いるべき色であるといわれています。これは、2005 年にイギリスの科学誌<ネイチャー>で「赤は競技における選手のパフォーマンスを高める」という説を唱えた論文が掲載されたことに端を発しています。この論文では、2004 年に開催されたアテネオリンピックの格闘技種目のボクシングやテコンドー、レスリングのウエアの色と勝敗の関係を調査し、赤のウエアを着た選手の勝利数が多いと結論づけています。ウエアの色の振り分けは無作為に割り当て、ほぼ同レベルの能力を持った選手同士が戦った場合、赤のウエアを着た選手の方が20%も勝率が高かったと報告されています。


画像引用:花夢館


赤は六つの心理効果を与えるとされています。
1.アドレナリンを分泌し興奮を促す
2.気持ちをポジティブにさせる
3.熱や温かさを感じさせる
4.食欲を刺激する
5.時間の経過を早く感じさせる
6.目を引き 関心を集める


画像引用:武田勝頼(眞栄田郷敦)ら| NHK大河ドラマ公式サイト

赤は心理学的に視認性の高い色であり、購買欲を刺激し、他の色よりも圧倒的に注目を集めることができる色です。カラーマーケティングでは赤を入れるかどうかで売上が 20%も違うと言われています。強さや情熱を感じる色であり、人をポジティブにさせ、興奮させる赤は、アメリカの大統領選挙の演説時におけるネクタイの色としては定番になっています。さらに、日本でも赤は古来より戦の色として、戦国武将たちにも人気の色でした。赤が持つ色彩効果を最大限に活用した武将として最も有名なのは、「武田の赤備え」と呼ばれた武田信玄です。他にも真田幸村が兵装に赤を採用しました。赤を採用した理由として色彩効果が大きく影響しています。当時は「青備え」や「黒備え」などの部隊も存在していましたが、赤は前に出ているように見える「進出色」であり、実際よりも大きく見える「膨張色」として知られていました。それゆえ、戦場において青や黒よりも目立ち、実際の兵士の数以上に多くの軍勢を率いているように見せることができたのです。また、赤には興奮作用や士気を高める心理効果も持ち合わせているため赤に身を包まれた軍隊は精強さを誇示し、敵を威嚇するために適していたのです。

色は時間の感覚を変える

青は冷静なパフォーマンスを発揮でき、赤は人の情熱や意欲を掻き立てる色だとすると、時間の認識にも差が出るはずです。空間の色彩がヒトの時間的体感に及ぼす影響について、大手前大学の山下真知子氏による実験(日本色彩学会誌 第44巻 第3号(2020年))によると、赤は実際の時間よりその経過を速く感じ、青は実際の時間よりその経過をゆっくり感じるという結果が出ています。

色は食欲にも影響

画像引用:東工大Science Techno

欧米人は胃袋でものを食べ、中国人は舌で食べ、日本人は目で食べるといわれます。日本人が情緒を大切にする国民性だということの証でもあります。鮨や刺身も無色だと味覚や食欲が半減します。それは、目を閉じて食べてみると良くわかります。目隠しをした人に生のジャガイモを美味しいりんごだよといって食べさせたというエピソードもあります。暖色は食欲をそそり、寒色は食欲を減退させます。青い食紅を使ったダイエット法も存在します。おでんなどに入れてすべての具材を青色にするそうです。味は同じですが、あまり食欲がわくとは思えません。


企業はニューロマーケティングという方法で色を活用

ニューロマーケティングというのは、脳に与える刺激とそれに反応する脳の活動との関係から、商品が効果的に顧客に認知されることを目指すものです。人間は様々な情報を五感で受け取り、頭で解決し、イメージして商品を購入する判断をしています。物を買っていただくためには、消費者の購買心理を理解し、五感に訴える必要があります。

画像引用:THE GATE

例えば、伊勢丹では、「歩いているお客さまにメッセージを伝えるのは4秒が限界」との仮説のもと、色によるメッセージを発信することが重要な戦略として使われていました。しかし、人間は1日に1万色以上の色を目にすると言われています。そこで店舗では、色を整理分類することが大切になります。お客さまの視覚に訴える上で、その効果をより高めるためには、一貫性と継続性による統一感が重要になります。ですから、伊勢丹では、顧客導線から最も目立つ場所で決められた色を出すこと、そして色の並べ方を統一することが決められていました。そして、その色を基本的には2~3週間ごとに切り替えます。ではなぜ、2~3週間で切り替えるのでしょうか。それは、1ヶ月に1回から2回来店するという人の割合が多いという調査結果から、2~3週間に1回切り替えておけば、前回来た時と違うという印象を与えることができると考えたからです。これが、毎日が新しいファッションの伊勢丹の視覚化につながったのです。

ギフトパッケージにおける色の役割

商品パッケージの色はそれぞれの企業戦略に基づいていますが、これが売上にも大きな影響を与えます。例えば<夜のお菓子 うなぎパイ>。あの商品も発売当初は夜をイメージしたブルーの文字のパッケージでした。しかし、売り上げが芳しくなかったため、パッケージのデザインの変更を検討しました。もともと夜のお菓子というキャッチフレーズは、家族が揃う夜の団らんのときにみんなで食べてねというメッセージでした。このキャッチフレーズを残したまま、当時大流行していた<夜のドリンク 赤マムシドリンク>の赤と黒と黄色のデザインを参考にデザインを変更したとたんに大ヒット商品になったそうです。



ギフトの観点から捉えると、普段何気なく目にしているパッケージや包装紙などの包装資材。ここでも消費者の購買意欲を高める効果のある色が使われています。一般的に最もよく見かけるのが、赤・青・黄色です。お菓子などの食料品から生活用品まで幅広い商品に使われています。理由は、店頭での視認性の高さにあります。一方で、高級感のある食料品などのギフトに多く使われるのが、清潔感やフレッシュさをイメージさせる白をベースにして黒や金、銀などの色と組み合わせたものです。高級感を醸し出すために厚みや手触り、質感などの詳細にも拘っています。


画像引用:帝国ホテル
画像引用:プレジデントオンライン

商品パッケージの高級感を醸し出す色の要因は、主に明度で、深みのある印象との関連性が高いとされています。購買意欲との結びつきが強いのは「好き」「美しい」「暖かい」という印象であり、色要素としては赤みの強さが関連しています。また、購入意欲及びギフト性が高いのは高級感を感じる商品であり、その高級感を印象付けるのは黒っぽく金色が入った深みのある重厚な印象との結びつきが強いようです。さらに、見た目の高級感は、購入意欲とギフト性に影響を与えます。『高級感を醸し出す、赤みの強い暖かなデザインが商品評価を高める』という研究結果もあります。(商品パッケージの高級感を規定する色要素と購買意欲との関連性:広島大学大学院 総合科学研究科 栗田愛子・岩永誠/2017)




パッケージデザインは店舗のデザインと同様、商品を購入してもらうきっかけとなる重要な要素です。目に留まるパッケージデザインとは、どんなデザインなのでしょうか。一言でいうと「違和感」ではないでしょうか。これは良い意味での違和感です。当たり前の形やその商品をイメージする色ではなく、ちょっとデザインにひねりがあるとか、スピンがかかっているとか。例えば、6面体の角が1か所だけ落とされていたり、折り紙のようにたためたり、手で簡単につぶせたり。




色もその配色や紙質によって、消費者に対して商品イメージを明確に伝える役割を担っています。自社商品のペルソナに最適なデザインを選択することで、商品評価をより高めることができます。このように心理学的、生理学的にも購買心理行動に大きな影響を与える色やデザインを使いこなすことが、商品価値を高めるブランディングにおいてとても重要です。


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