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おはぎ職人は一人もいない ー「タケノとおはぎ」小川さんが届ける日替わりの感動。祖母のおはぎをずっと

行列必至の日替わりおはぎでファンの心を掴んで離さない「タケノとおはぎ」。かつてはお酒も飲めるデリカテッセンを経営していた代表の小川さんに、おはぎ専門店に特化し日々違った顔を見せる商品に込めた想いをうかがいました。

小川​寛貴さん
おはぎ専門店「タケノとおはぎ」代表。 スペインバルで働いたのち、2010年から桜新町で、​​お惣菜を取り扱うデリカッセン​​をはじめ、数年かけ、おはぎ専門店にシフト。昨年10月に​​工房つきの世田谷本店を移転オープン。

祖母のおはぎの味を残すために

—「タケノとおはぎ」はどういった経緯で始められたんですか?

小川さん:
最初は洋風の惣菜や自分が海外で見てきたものだったり、興味があるものを全部詰め込んだ「町の惣菜屋」を経営していました。日本だと、たとえばオリーブのペーストの缶詰などの輸入食材を手に入れられるのは、どうしてもデパ地下などに限られてしまうところがあるじゃないですか。そこだけでなく、もっと日常的に手に取れるような、気の利いたものをメイン料理の足しとして買っていただけたらと思って、2010年ごろにお店をオープンしました。

当時はパンも焼くし、輸入食材やワインも出すスタイルだったのが、少しずつ日本のものを海外向けに発信していきたいと思うようになったんです。そんな時に隣の物件がたまたま空いて、そこで何かできないかを考えた時にふと、祖母がよくおはぎを作ってくれていたな、ということを思い出しました。

ーおばあさまとの思い出が今の商品に繋がっていたんですね。おはぎを出したのはいつごろからですか?

小川さん:
子どもの頃は和菓子より洋菓子の方が好きだったのですが、祖母のおはぎだけはちょっと違って。スイーツというよりも、甘いおにぎりを食べているような感覚になるお菓子だったんです。子どもの頃はおかずのようによく作ってくれて、その思い出からお店の名前には祖母の名前の”タケノ”を入れています。

おはぎ屋は2016年から始めました。最初の3年ほどは惣菜屋と二足のわらじで営業していたのですが、2019年ごろからおはぎ屋一本に絞りましたね。

ーあえておはぎに絞って商品を展開するにあたって工夫したことはありますか?

小川さん:
全体のバランスを非常に大事にしていますね。デザイン、味、食材。これらをひとつも抜けることなく、かつ調和し合っているおはぎを心がけています。

さらにここ(桜新町の本店)は、「おはぎの工房」としてお客様がおはぎの製造工程を見ていただける内装にしています。和菓子って製造過程を見せないイメージがありましたが、もっとポップにたくさんの人に知ってもらいたいなと、工房をガラス張りで開放的な見せ方にしているんです。

もう一つこだわって実践していることとして、良いものを作り、より多くの方に知っていただくために、SNSを工夫して投稿しています。
日替わりメニューやセットを更新したり、季節の商品を出すなどして商品の魅力を伝えています。

ーおはぎだけの工房は他にはなく珍しいですね。

小川さん:
おはぎだけの工房は他にないと思います。一つの商品を、それぞれの工程を任されている職人が役割分担をして作り上げていく。あんこを作る、丸める、あんこをつける、トッピングする…というような工程を手作業で、10人近くで流れ作業で回しています。一つ一つの工程のスペシャリスト全員でおはぎを作る、チームワークがものを言う製造工程をぜひ楽しんでください。

四季折々の変化や自然の情景を味わう、おはぎのメニュー開発

ー特におすすめとする商品はなんでしょう?

小川さん:
日替わりセットの7種類のうち5種類は、毎日違った新しいものを取り入れて見ても食べても楽しんでいただけるものを作っています。例えばその季節に咲く花を想起させたり、蓋を開けたときに四季折々の変化や自然の情景も味わっていただけるようなものなど。

ーメニューについてはどういう風に考案しているのですか?

小川さん:
ほぼ毎日のように考えています。

今年もいちごは使うけど、去年とは違うものを作りたいね、のように同じ名前の商品だけど変わることもありますし、他にも桜の時期のおはぎは、お店の前に八重桜が咲いたらつくりはじめて、花が散ったら店頭に出すのは止める、というようなこともしていましたね。

ー季節の変化を感じられるおはぎ...とても素敵です。

小川さん:
ただメニューを考えることにあまり時間は使わないようにしています。どれだけ悩んでも3回くらいで、一週間以上決まらないようなら無し。

スタッフに味見はしてもらいますが、えいや!とその日に出してしまって、(もう少し工夫したいな)と思ったらその日のうちに手を加えて変えたりもしています。

まちへ、暮らしの味や思いを伝えてゆく

ーgrow up commonsのあるたまプラーザに対しての印象はありますか?

小川さん:
レストラン事業の会社が独立してスペインバルを開いたのを機に、一時期たまプラーザで働いていました。たまプラーザは新しいお店や古いお店、百貨店、全てが共存しており、それを住民が楽しんでいるし、新しい若い家族も来る、とても魅力的な街だと思っています。

ーおはぎを通じて街や地域に伝えたいことはありますか?

小川さん:
当時90歳を過ぎた祖母が一人でおはぎを作れなくなってしまい、これでもう食べられなくなるのは嫌だ、寂しいなと思ったのが僕がお店を開いたきっかけです。

家族の誰もおはぎを祖母と作ったことがなかったので、祖母の味を引き継いでいきたいと母と製法を一から教わることにしました。

和菓子職人の技術継承や伝統なども大事ですが、僕らはもっと日常や暮らしに根付いた、「身の回りの味を残したい」とか「昔からあるものをつないでゆく」といったことが街に伝わったら嬉しいです。

ー街とどういうつながりを持ちたいと考えていますか?

小川さん:
ご来店される多くのお客様が、当店の季節のおはぎを楽しんでくれたり、僕らのスタイルを受け入れてくださっています。今では子どものおはぎづくり体験教室も月に2回やっていて、それも多くの応募をいただいているので、年齢性別問わずみなさんがお客様です。

いいお店があるとお客様が遠方からも来てくださいます。桜新町にも、学芸大学にも、たまプラーザにも素晴らしい場所はいっぱいある。そういう場所が多ければ多いほどいろんな人たちが街に来る。軸をもってしっかりお店をやっていけば好きな街に貢献できると思っています。

ー今後の展開や皆さんへのメッセージをお願いします!

小川さん:
SNS経由で知って、遠方からも来ていただいたりしますが、必ずしも「和菓子」だけで来たわけではなく、SNSでも届かないところに伝えてゆくためにはもっと街に出て行かなければいけないし、異業種の方とも新しい場所へ飛び出してゆくのは一つの手だと思っています。

おはぎと琴奏者とのコラボレーションイベントも開催予定です。オリジナルのこだわりを掛け算して、知らない場所や人や環境にも、僕らのおはぎを届けていきたいです。


「タケノとおはぎ」Instagram


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