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山崎ナオコーラ著『趣味で腹いっぱい』 と 山口周著『ビジネスの未来』 を読んで思うこと 成熟した社会におけるこれからの趣味と経済

山崎ナオコーラさんの本は、エッセイ以外初めて。
著者の目標は、「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」とされるだけあって、なるほどこの作品も非常に読みやすく、児童書にも近いような気もする。
しかし、奥は深かった。私は読んでいて、独立研究者・著作家として活躍される山口周さんの『ビジネスの未来』という本との共通点を感じたのでここに記したい。

肩身の狭い「専業主婦」として

物語は、結婚して専業主婦になった鞠子とそれを経済的に支える小太郎との趣味の発展を淡々と描いていく。やがて彼らは趣味が高じて大きな変化を迎えることになる。考え方も大きく変わってくる。

なぜこの本を選んだかというと、私も専業主婦だからだ。
夫はお茶も入れずゴミ捨てもしないけど、「働いていないのに」と言われてしまう状況にある。
派遣でフルタイム働いている時ですら、「僕の方が◯万円多く稼いでるんだから」などという道理の通らない理由で家事全般を私が担当する羽目になっていた。
夫婦は一緒になるときによく話し合わないと不満が募るので、もう遅いけどこれからの人にはご注意いただきたい。

成熟した社会のこれからの経済

働く人は確かに偉いかもしれないけど、働きたくても働けない人や、趣味が仕事になったような人、家事が仕事の人、と、世の中の人たちは多様性に満ちている。
趣味で社会性を広げるのは、誰でもやりたいことかもしれない。問題は、それを許す環境だ。つまり、夫がお金を出してくれるとか、文句を言わず経済的に支えてくれるか、世間的な立場を保てるかにある。
その考え方として、山口周さんの言説が思い出されたのだ。
彼のベストセラー著書『ビジネスの未来』には、経済的に満ち足りて成熟した「高原社会」には、「経済性から人間性への転換」が必要とある。経済的な報酬よりも、高い精神的報酬を得ることが、これからは大事になると彼は説いている。
例えば、広告関係の仕事を「欲しいものを新たに作り出す」奢侈(過剰な贅沢・無駄)な「ブルシットジョブ(クソ仕事)」と彼は呼ぶのに対し、例えば、「壮麗な聖堂を作り、人々によろこばれること」は精神的報酬が高いとする。

世の中には、人の何倍も稼いでいる人がいる。そのお金はもちろん彼1人では使いきれない。無尽蔵な宇宙開発、奢侈な建築物に向かうのも自由とされてきたが、これからは社会的・精神的価値の高いものに投資されるべきだと私は個人的にも思っている。

つまりは、経済には繋がりにくくとも障がい者の支援をしたり、環境問題を改善したり、社会問題の解決につながる仕事をしている人たちや、働きたくても働けない人にも(社会とつながることを条件として)富を再分配する緩やかな社会主義を目指しているのである。
社会主義というとドン引きしてしまう人が多いと思うけど、資本主義の成長がどん詰まりに来ているのは皆さん感じていることだろう。環境的にもこれ以上の消費は先が見えない。
そして支援を受ける障がい者や弱者も社会とつながることがこれからは重要になるのではないだろうか。

鞠子たちに「できること」

『趣味で腹いっぱい』のなかで、鞠子が友人と共に文芸イベントを開き、数十人の参加者があった。その参加者の1人、ミキという女性は、最近夫を突然に亡くし、家に閉じこもっていたが、文芸イベントがあるなら、とイベントに参加しようと思ったという。そしてこのようなイベントを開催してくれた鞠子たちに感謝を表すくだりがある。
「何も教えない、夢中にもさせない作家もいいもんだなあと思って」とミキは言う。
鞠子たちはイベントを開くことで(開くだけで教えを説いたりはしていないのに)「自己満足・自己顕示」だけでなく、人助けのようなものを自然と成し遂げてしまったのである。

大事なのは社会とつながること

『趣味で腹いっぱい』の中では、趣味を実践するときに、インターネット上に書いてみる、繋がってみる、仲間を募る、展示会を開く、絵手紙なら投函してみる、などといった、趣味といえども社会とつながることがキモであるような気がする。

私も趣味の絵画を数年続けていた。
展示会はその絵画会のメインイベントで、半強制的に参加させられたのだが、今考えると、そういう社会性を持った部分というのは大事なのだな、と思ったりした。会のメンバーは当然ながらお年寄りが多い。そのご友人も皆さんご年配だ。そのお爺さんたち、お婆さんたちが「あなたの絵を見て若い人のパワーをもらった」などと言ってくれるのがこそばいかったが、今考えると大事なことであったんだなと思う。

そして、こうしてnoteに読書の感想や創作を上梓することも、意味のあることだと改めて思うに至るのであった。


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