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TSMCは過去何十年も台湾の環境汚染の大きな原因の一つになってきた

TSMCは環境問題に熱心に取り組んでいるように宣伝しているが、台湾現地の人の認識は大きくかけ離れているようである。この企業は台湾で数多くの、大気汚染、水質汚染、有毒廃棄物汚染などの環境問題を引き起こしてきた。


2014年にTSMCの産業廃棄物処理を担当していたXinying Technologyは、有害な廃棄物を河川(高屏渓)の上流や農地に廃棄し、少なくとも100万人の健康を害したとして訴訟された。この時、TSMCの環境工学分野の最高経営責任者であるXu Fangming氏は、雑誌「Tianxia(天下)」の記者の取材に対し、自分たちは詐欺にあったと答えている。だが、本当に何も知らなかったのだろうか。TSMCほどの大企業が、目と鼻の先の場所で起きている大規模な汚染問題について何も知らないことなどあり得るのだろうか。

ハイテク産業の廃棄物が招く環境クライシス

https://www.cw.com.tw/article/5065630


2015年6月6日、台中市でTSMCの工場の拡張に対して抗議活動が起こった。

抗議の内容は、TSMCの台中市の既存の工場では、「再生エネルギーを100%使用し、森林伐採は行わない」というApple社(TSMCはApple社の下請けである)の原則に違反しているだけでなく、大気汚染、水質汚染、有毒廃棄物汚染などを引き起こしながら、57箇所の石崗ダムから水を大量に消費し、年間 1.8万トン以上の有毒廃棄物を生成していたというものである。煙道GC/MSの調査でも多くの試験結果において発がん性物質が検出され、数多くの調査結果が2004年に承認された環境影響評価の基準を上回っていた。

しかし、台湾の環境影響評価の機関(EIA)はそれを否定した。工場拡張による汚染、電力消費量、水消費量の「増加分」の調査結果のみを評価し、環境影響評価の基準を超えないとして、TSMC工場の煙道の発がん性物質も非発がん性だと記載された。EIAは不正の疑いがあり、環境保護団体の代表者らはEIA会議でこの問題を明らかにするよう求めたが、魏国燕委員長(環境保護庁長官)が警察を派遣して現場を撤去させ、最終的にEIA委員会の秘密室での議論を経て環境影響評価が承認されたという。工場を段階的に拡張し、「増加分」のみを環境影響評価の対象にするいうのは、TSMCの常套手段であり、E I Aは半導体企業の汚染を黙認してきた。

このように、台湾政府はTSMCの環境問題を容認する傾向があるため、抗議活動家たちはApple社に対して環境汚染について調査し、違反を公に説明することを要請したのだ。

台中市でT S M C の環境汚染問題のためにApple社を巻き込み抗議活動

実はこの抗議活動の1ヶ月前の5月8日に、「主婦連合環境保護財団台中支部」などの団体や、東海大学や東海台湾文化研究院の学生が集結してTSMCの工場の拡張に反対した。「TSMCは環境評価報告書に5000本の樹木を伐採すると記載されているが、実際には約15万本の木を伐採している」と「台灣護樹團體聯盟」の張美輝氏は訴えた。「台灣護樹團體聯盟」は台湾のNGOであり、Facebookに17万人のフォローワーを持つ。台湾の人口は約2,000万人なので、同団体は非常に大きい団体だ。同団体は Facebook上でも「TSMCが密かに新工場を建設していたことを知りました! 保存するはずだった森は伐採され、残った森は公園になってしまいました!」と怒りを露わにしている。開発地域の風下に位置する東海大学の学生は、「学校からは台中盆地全体を覆う霧と黒い排ガスが見える」「(サイエンスパークの)多くの製造業社が夜中に密かに排ガスを放出しており、その臭いは焼けた金紙より刺激が強い」と述べ、別の学生は、「周囲の友人が皮膚や呼吸器のアレルギーに悩んでいる」「10〜20万人の住民を犠牲にしてまで、7000人の雇用機会を獲得すべきではない」と指摘した。

東海市社会学部の学生は、雇用の機会のために住民の健康を犠牲にしてはならないとスローガンを掲げる

約2週間後の5月24日にも大雨の中、30以上の環境団体・市民団体と400人以上の市民が集結し、中科サイエンスパークのTSMC工場の拡張に反対する抗議活動パレードが行われた。スローガンは、「ブラックボックスの環境影響評価は拒否する!」「森林を返せ!」「汚染をするな!」。リレー演説で市民は、「水の消費量が多く、汚染度の高い工場を台中に建設して、市民には何のメリットがあるのか!」「自然林を伐採するな!」と叫んだ。工事の始まった山全体を空から見ると、鬱蒼とした森に大きな穴が掘られ、黄土層全体が露出していた。集まった環境保護団体や多くの市民団体がTSMCの工事を直ちに中止し、環境アセスメントの通過を取り消し、調査を再開するよう求めた。台中市の林嘉隆市長もこれに支持と肯定の意を示して、サイエンスパークとTSMCに対して排水と排ガスの適切処理、廃棄物リサイクルの促進、VOCの削減、地域の生態保全調査の実施を義務付け、「環境影響評価の撤回」について4つの行政訴訟が進められたという。


中科サイエンスパークのTSMC工場拡張に反対してパレードをする団体や市民
(蘇木春/西屯報導 原文網址: 30環團冒雨上街 反中科擴廠 | 好房網News)

結局、住民の猛抗議にも関わらず工事は再開されることになり、TSMCは住民を納得させるための方法として、環境保護の条件をいくつか提示した。だが、その内容は、首を傾げざるを得ないものであった。あたかも大気汚染の原因が藁の野焼きだとでも言うように、1000ヘクタール分の藁を購入するというものであったり、粉塵を減らすためとの名目で道路の清掃をするという、根本的な原因が全く解決されない、小手先の方法で住民を黙らせようとするものであった。植樹も約束されたが環境団体は、「草原にまばらに植樹をしても、失われた生態系が戻るわけではない」と肩を落とした。

このような経緯で住民は政府機関に落胆し、最後の頼みの綱として、Apple社に調査を訴えたというわけだ。



2021年11月18日、台中市議会にての林家隆(Lin Qifeng)市議会議員は、市民がTSMCの工場の拡張によって環境汚染がさらに悪化していく懸念持っていると指摘した。林市議は、特に正体不明の異臭を放つ有害物質の存在について言及。健康局のZeng Zizhan局長は、これらの臭気は人体に長期的な影響を与えうる揮発性の有害物質であると述べている。
林市議によると、TSMC工場のある台中工業団地と中科公園に挟まれている東海大学のキャンパスでは、悪臭が日に日に酷くなっており、大気汚染の可能性もあるという。実際に環境保護庁は、大学の寮区域でPVC、トルエン、塩化メチレンなど、10種類以上の有機化合物を検出した。検出量は基準値を超えなかったものの、大気による希釈を考慮すると相応の量の化学物質が飛散していた可能性がある。

台中市 林市議が市議会でTSMCの環境汚染に懸念


他にも、2022年、TSMCが高雄市の高雄製油所の跡地に新工場の建設を開始した際にも住民による抗議活動が起きている。

新工場の建設予定地の高雄製油所の跡地の土壌汚染のレベルは非常に高く、台湾史上最大の土壌および地下水汚染サイトであり、汚染面積は176 ヘクタールもある。TPH (全石油系炭化水素)、ベンゼン、トルエン、ナフタレンおよびその他の化学物質によって汚染された土壌は、360 万立方メートルに達すると推定された。

高雄市の陳志梅市長は、TSMC誘致のために林欽栄副市長、廖泰祥経済発展局長らを率いてTSMC幹部らを訪問し、蔡英文総統にも協力を要請した。そして、TSMCに土地を引き渡すために、CNPCの見積もりでは汚染を基準以下にするには17年はかかるといわれていた汚染処理をわずか2〜3年で行うと発表。2023年までに作業を終えるようにAECOMなどの土地汚染修復業者に要請した。AECOMの中国・台湾環境部の副部長であるチャン・シェン氏は、「ミッション・インポッシブルだ」「基本的に、これは前例のないことだ。世界中でこれまでにこれを行った人はいないし、参考にできる成功例もない」と、計画の無謀さを吐露した。

『台灣民衆電子報』によると、高雄製油所の跡地の責任者らはTSMCの工場建設に反対して回っていたという。彼らは、「土壌浄化計画は市が行い、環境影響評価も市が行い、工事も市が請け負った。」「誰が信じられるだろうか、誰が安心できるだろうか」と指摘した。つまり、計画を推進している側が、環境の影響評価をしたところで、公正な評価は行われないだろうということだ。『自救會』のメンバーらは、高雄製油所の土地は本当に有毒であると発表し、「今度はさらに有害な企業TSMCがやって来るということは、近隣の住民をどれほど当惑させていることか」と最後まで戦うことを誓ったという。

『大社環境保護同盟』の呉忠英氏は、TSMCが高雄で行政手続きを完了するのにわずか6ヶ月しかかからなかったことを指摘し、国民の健康と環境に対する政府の姿勢に疑問を呈した。

さらに『台灣民衆電子報』は、高雄の土地汚染の犯人は中国人民公社であり、土壌汚染法では汚染者に責任があるため、これまで土壌浄化作業は中国NPCの土壌・水利局が実施していたのだという。それが、今回のTSMCの誘致のために高雄市政府が土地の整地事業を請け負うことに疑問を呈している。そして中国人民代表大会と高雄市政府が締結した土壌・地下水整備に関する管理契約書は機密文書に指定されていることを示し、なぜ事務委託契約が秘密にされなければならないのかと政府の不透明さを指摘している。

実際に工事が開始されると、近隣には住宅街があるにも関わらず、無茶な作業スケジュールのため24時間無休でピーク時には数百台の掘削機と運搬機が同時に使用され、土壌を掘って、燃やしたり、排土を埋め戻したり、運び出したりした。『台灣民衆電子報』によると、2021年11月24日には労働安全事故も発生したが、公共事業局と労働局は詳細な説明や調査、対応はしなかったという。土壌汚染対策を2022年2月に完了させるために作業を急かされ、AECOMの浄化工場職員が砂利運搬車に押しつぶされるたという悲惨な事故であった。しかしながら、陳市長は病院にも訪れなかったという。記者は、「必要な時には作業を中断して調査すべきではないか」と述べている。

近隣住民は2022年3月、政府の対応や土埃、大気汚染に耐えきれず、抗議の横断幕を掲げて環境アセスメントを通過させるなと抵抗した。

抗議の様子は台湾のCTINewsで報道されている。これを受けて、一旦は環境アセスメントの通過を許可されず、住民は安堵したものの、2回目の環境アセスメントでは、高雄南芝工業団地は科学工業区設立管理条例に基づく「科学工業区」ではなく、高雄市政府が産業革新条例に基づいて設立した地方レベルの「科学工業区」であるという環境アセスメントの抜け穴を利用して、科学工業区政策の環境アセスメントを必要とせず、地方政府による開発面積の審査は30ヘクタールに限定され、異常に早い速度、1か月半で審査を通過し、TSMCは工事を続行した。

この環境アセスメントの通過は、台湾政府と高雄市側がTSMCに配慮したためだとも言われており、『新新聞』では、台湾政府が率先してサイエンスパーク開発の法の抜け穴を利用して、2回目の環境評価を回避したと報じている。

CTI NEWS 高雄市のTSMC工場の近隣住民 TSMCの環境アセスメント通過に抗議


台湾のこれらの事例からも、TSMCが環境に関心のある企業とは思えない。自国、台湾の環境や住民の健康にすら無関心な企業であるならば、日本の環境や日本国民の健康など気にも留めないだろう。

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