ヴァン2

連載『オスカルな女たち』

《 ありのまま 》・・・8

「そう? 前の店はさ、オーナーが『ラ・ボエーム』?…が好きでね。『冷たい手』を『やさしい手』って記憶してた、っていう…オチが由来なの」
 店内の電気をつけると、同時に軽快なギター演奏が流れ出した。
「へぇ…ボエームねぇ…」
「クラッシックはガラじゃないし。名前くらいは自分らしくしたいと思って…まぁ全部がイチからじゃないだけありがたいけど。向こうでもチラシ配って、宣伝する手間も省けてるから」
「つかさはどちらかというと『ツィゴイネルワイゼン』って感じだけど」
 店内の隅に簡易的に設置してあるサークルの中に3匹を放すつかさを見て、玲(あきら)がそう言った。
「ぇ、なに? ちごい…?」
「バイオリンよ。『ツィゴイネルワイゼン』…知らない?」
 歩を進めながら、店内の様子を見回す玲。
「あぁ、クラッシックはまるでダメなの、あたし。ボエームだって、店のことがなきゃ知らないままだったもん」
「なかなか聞きごたえのある曲よ。気まぐれな犬…は、彼ら?」
 新しいサークルの中、すっかり慣れた様子でそれぞれのおもちゃを振り回す3匹を見て玲が問う。
「そうよ、気まぐれでもらった犬だから」
 弟たちと同じ名前の愛犬たちは、必然的に看板犬になりそうだ。

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