バラ風呂

連載『オスカルな女たち』

《 水曜日。家出。》・・・9

「お待たせしました」
「お待ちしてました」
 真実(まこと)がオウム返しに返すと、ベ―ルがかき分けられた。

「今日は時間制限なし?」
 すかさず店員に聞き及ぶ真実に「本日はこのあとの予約はありませんので…無制限で大丈夫ですよ」と、即座に返事が返ってきた。
「こちらは店長からのサ―ビスだそうです…」
 と、ココナッツの実でできた容器に入れられたナッツが差し出された。

「あら、わるいね」
 それはいつも4人が集まると必ず注文する〈おつまみ〉だった。予約のオ—ドブルには含まれないものだったが、真田が気を利かせてくれたらしい。

「さすが、あたしら常連じゃん…」
 得意気に答える真実に、つかさが微笑む。
「当然…」
「ほら、じゃんじゃん飲むよ」
 空いた皿を店員に手渡しながら、玲(あきら)は3人にそう言った。
 その夜は、いつもより長い時間をかけてくだらない話をした。

 帰り際、支払いを済ませたあと、カウンターの真田と視線を合わせた真実は、
「織瀬(おりせ)に、疵を作るなよ」
 と、真田にだけ聞こえるようさりげなく言い放った。
「それを言うなら、傷をつけるな、なんじゃ?」
 同じく真田もグラスを磨く手を留めず、独り言のように淡々と返した。

「どっちでも同じだよ。…泣けるくらいならまだいい、あたしらがいるから。でも疵は、自分じゃないとどうにもできないから…」
 そう言い捨てて真実はカウンターを離れた。

 4人が出ていく後ろ姿に、真田は、
「キズをつけるな、と作るなじゃ、全然意味が違うと思いますけどね…」
 そう、言い訳のようにつぶやいた。

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