連載『オスカルな女たち』
《 内緒話と捨て台詞 》・・・13
玲(あきら)がひそやかな楽しみにしていた〈赤い部屋〉のあるマンション。
だがここには今、友人であるつかさが住んでいて、これまで使われていなかった1階の商業用スペースは、つかさの経営する〈トリマーサロン〉になった。
店がひとつ立ち上がるだけでその土地の空気や雰囲気は、良くも悪くも大げさに変わるということを玲は知っている。
(ちょっと、惜しい気もするけど…)
もうここでの秘密は自分だけの楽しみではなくなる…そう思いながら玲は、まっすぐとつかさの店に向かって歩いた。
ちょうどカウンター付近にいるつかさを見つけた玲は、店内には入らずに「コンコン…」とつかさにだけ聞こえるよう窓ガラスをノックした。
「あれ? どうした?」
すぐさまつかさが入り口のドアを開けて顔を出す。
「少し、抜けられるかしら?」
いつもとは違う神妙な面持ちで答える玲に「うん。いいけど」と、つかさもどこか緊張を覚えた。
「明日はまこちゃんの誕生日だね。くるでしょ?『kyss(シュス)』…」
「えぇ、そのつもりだけれど…」
なんとなく歯切れの悪い玲に、つかさはそれ以上話を続けることはせず、黙ってあとをついて行った。
つかさがマンションのエレベーターを使うのは初めてかもしれなかった。
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