頂上

連載『オスカルな女たち』

《 秘密の効用 》・・・10

「オレは、見られたくない場面を見られたってことです」
それほど差し迫った状況だったのか…と言いたい口をつぐむ織瀬(おりせ)。
(見られたくなかったのは、こっちなんだけど…)
 むしろ真田の目にはどう映っていたのだろうか。

「いつからあそこにいらしたのかは知りませんが、オレとしては…」
「あなたは、ただ、若い女の子と話していただけ…じゃ、ないの?」
 織瀬はあえて「若い」を強調し、そうじゃないの?…と、真田の横顔を見上げた。
「好きな女性に、他の女に腕を掴まれていたところを見られた…。誤解されたくないって思うのが、男の本音でしょう…?」
「誤解? されたと思ったの? わたしに? 彼女とか…そういう風に?」
 今度は真田が言葉を失った。
(わたしがうろたえる姿を見たから、追いかけてきたわけじゃなく…?)
「むしろ、誤解されない方がショックです」
「なぜ?」
「だから『気にしてください』と言ったんです。あの状況で、あなたを好きだと言っていながら他の女に絡まれてるオレを見て、なにも感じないってことは…オレのこと、なんとも思ってないってことですから。ひとりでうろたえて、考えすぎて仕事も手につかない自分がバカみたいじゃないですか」
「あ…えっと、」
充分うろたえて、だからこそあの場から逃げるように帰った…とは言えない。
(考えすぎて仕事も手につかなかった…の…? あたしのこと…)
 こちらはこちらでそれどころではなかった。若い女の子に腕を掴まれている真田の姿を目の当たりにし、初めて自分の複雑な想いに気がついたのだ。
自分を「想っている」という彼に、自分以外の女の影を疑わなかったおめでたい自分を恥じ、うろたえ、あの場で冷静に留まることすらできなかったのだから。

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