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山ノ家カフェ&ドミトリー

圧倒的な美意識とこだわり

山ノ家カフェ&ドミトリーは新潟の山間部、松代(まつだい)という豪雪地帯にあるゲストハウスだ。いや、ここをゲストハウスと言ってしまっていいか、少し躊躇する。確かに名前にあるようにドミトリー(相部屋)がある宿だけれど、ふつうの人が想像するような「共有ラウンジとキッチンでわいわい」というのがない。

ゲストハウスを紹介するメディアをするのは決めた。WEBだけのほうが簡単にできるけど(もともとWEBディレクターもやっていて、自分のサイトはすべて自作だ)どうせなら宿のラウンジで読んでもらいたいから「紙モノ」もやろう。でもどこのゲストハウスからスタートすれば良いのだろうか?

つくったことはないけれど、たぶん創刊号というのはすごく大事で、今後の方向性がきっとここで決まってくるはずだ。


親しくしていたゲストハウスのオーナーに相談してみたら、「山ノ家さんがいいんじゃないですか」とアドバイスをくれた。こういうメディアをやりたいんだ、と説明した後の言葉だったので、そこで半分は決定したようなものだったけれど、まだ少し迷っていた。なぜなら、泊まったことのない宿だったこと、あとは経営者のお二人がどうにもすごい人に思えて、ライターや編集者の経験もないわたしが、(そう、単なる文章書くの好きな素人)いきなり訪ねて話をきかせろなんて言っていいのだろうか?という躊躇。

オーナーは後藤寿和さん・池田史子さんというご夫婦。ちょうどその頃山ノ家は月刊誌ソトコトの特集にも掲載、ロハス大賞などというものも受賞されていた。恵比寿にオフィスを構え、アートやデザインの世界で賞を取り、大きなクライアントと仕事をするような最先端な人たち。そんな人が新潟の古民家でカフェとドミトリー宿を? やっぱりこれは行って直接見てみたい。

そう思っていると、驚くべきことが判明した。彼らはわたしのボディセラピーサロンのクライアントの長年の友人だったのだ。なんでも音楽バンド仲間だったらしい。なんと!取材を迷っていると話すと「一緒に泊まりにいきましょう」と誘ってくれ、友人夫妻とわたしとで取材の旅に出ることにした。

その時は車で行ったけれど、公共交通機関で山ノ家に行こうと思ったら、上越新幹線経由JR十日町駅からほくほく線と言うローカル線に乗っていく。まつだい駅からは徒歩5分くらいで到着する。

訪れたのは宿がオープンして1年ほど経った頃。
山ノ家の大きな特徴は、外観は美しく整えられた昔ながらの古民家だけれど、中は「シンプルシック」と言う言葉がぴったりくる、隅々まで心が行き届いた空間というギャップ。そしてもうひとつ、ここには彼らが「ダブルローカル」と呼んでいる二拠点居住の基地としての役割があるということだ。

一階はカフェになっていて、夜はそこで食事をとることもできる。メニューは和食じゃなくてほんのりエスニック風な洋食。自分たちが東京で食べてるようなものがここでも食べたいと思ってと話してくれたような気がする。
それらはこの地では珍しいものだったので、遠く隣の県から車で1時間位かけて来店する人もいると聞いた。確かに魚沼産こしひかりの産地でピタパンは普通はあまり食べないかもしれない。でも、だからこそ欲しい人には届く。

2階に2部屋。二段ベットのドミトリーがあって、シャワーとトイレは外。ベッドに置かれているタオルがものすごく質が良くてピシッと折りたたまれているのがとても印象的だった。連泊してほしいからとドミトリーとしては少し料金は高めだけれど、まるで質のよいホテルのようなあつらえと思えば割高とは感じない。

掃除が結構大変で、蜘蛛の巣がすぐ張ってしまう。朝掃除しても夕方にはまたできてたりするから、ほんとうに戦いですよね。

池田さんは透明感のある声でそんなふうに話してくれた。それってほとんどずっと掃除してるってことですよね・・・。でも、そうでもしないとこの凛とした空気感は保てないような気もして納得。圧倒的な美意識とこだわりが随所に感じられる空間だった。

当時の安宿、ゲストハウスというと清潔感より親しみやすさ。毎日オーナーさんやお客さん同士で飲み会、みたいなイメージがある人もいたけれど、ここはそういうおもてなしとは真逆の、クリンネスが常に保たれつつ、ゲストを優しく放っておいてくれるタイプのあり方なのだ。

彼らは越後妻有アートトリエンナーレ・大地の芸術祭のそのあとも、イベント以外の時にも楽しんでほしい、と、通年型のワークショップイベントを開催していた。そしてその手の抜かなさ加減がハンパない。レストランにしても空間作りにしてもイベントでも「この場所だから、田舎だしこんなもんでしょう」という妥協が一切なかった。クライアントがNikeでも地元のおっちゃんの頼み事でも同じテンションで仕事をする彼らが圧倒的にすごかった。

昼も夜もあまり道路に人通りがなく、お店もそれほど・・・いやほとんど空いてない。それが2013年夏の山ノ家周辺だった。

おまけー編集長おすすめの行ってよかったベスト3!

何といってもここはアートイベントの先駆けの土地。世界一の豪雪地帯に立つ縦長の建物や、田んぼの真ん中に突然現れるオブジェなど、ここでしかない景色に会うことができます。

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フリペとWEBをつくる人。ゲストハウスと旅にまつわるお話を書いています。ただいま書籍出版に向けて準備中!少額でもサポートしてくださると全わたしが泣いて喜びます。ニシムラへのお仕事依頼(執筆・企画・編集など)はinfo@guesthousepress.jpまでお願いします。