見出し画像

とあるバンドマンの官能夜話~第十三夜~「人間観察」

学生時代バンドマン>普通のサラリーマン>倒産解雇>独立開業>バンド再開>ライブバーのマスターと言うまっとうな人生を歩んでいる筆者です(笑)

さて、今夜は私のお店に集まるとてもとても個性的なお客様にスポットを当てて、カウンターの内側から見る人間観察から、その奇妙な生態を紐解いて行きたいと思います。

そもそもミュージシャンと言うのは、自分自身も含めて自己顕示欲が強く快楽主義で自信家が多いと思うのですが(俺は違うと言う方はどんどん反論してください)、ミュージシャンによくあるタイプは大きく分けて次のタイプに分けられると思っています。

・自称天才型

・出し惜しみ型

・様子見型

初対面の人間に向かって「俺は天才。凄い人間なんでちょっと歌わせてもらってもいい?マスター言っとくけど俺凄いよ!」とガンガン来る人が普通に居て、こちらもそういう人間があまりに多いので「また来たか」程度に感じてしまうところも、ちょっと考えると変なのですが、そういう自称「天才」系の人は99%位はとんでもなく歌も楽器も行けてない人が多いのが事実で、さっきの言葉は笑いを取る為のネタ振りか?と思えるような人が結構な割合で居るのです。そう言う人の多くは結構な歳(40代~60代)にも関わらずパッと見でロック系とか○○系とかわかるようなヘヤースタイルや服装、アクセサリーをしていて、話すときに身振り手振りがやたら大きく、落ち着きがないのが特徴です。ファッションでそう言うスタイルを取っていると言うだけの人や、ライブ帰りと言うような人は違うのですが、こと自称ミュージシャンと言う人に関しては、自分自身の中でのイメージだけが先行して、歌や楽器の実力が完全に乖離していることが多いのが事実です。

画像1

この天才型と全く逆なのが「出し惜しみ型」のミュージシャンです。この人たちの多くはカウンターに座った途端、静かなミュージシャンオーラを出していますので、こちらから「楽器をされている方ですか?」と訊ねます。このタイプの人の多くは「いえ、家でちょこっとイジる程度です」と言う答えが返って来るのですが、店の楽器を弾いてもらうとビックリする程素晴らしい演奏や歌を聴かせてくれる人が多いのです。皆さんどこかの店で定期的に出演しているようなレベルなので、行きつけの箱があるのか訊ねても曖昧な返事が返って来ることが多いですが、これらの実力のある人はあちこちのお店に出没して賞賛を浴びるのが好みのようで、常連になる人や定期的にリピートで来店してくれる人は少ないのが残念なところです。

「様子見型」の人はネット経由で問い合わせを入れて来られて、楽器を持参して来店されたのにもかかわらず、他の人の演奏を聴くだけ聞いて演奏せずに帰る人です。初心者の方や長年やっているけど自信のない方なのかと思いますが、うちのような小さな店で少しずつステージ度胸を付けて大きなステージに挑まれたら良いのにと、残念な気持ちになります。音楽と言うのは演り手と聴き手があって成立するものだと思っています。聞いてもらえない環境でいくら演奏していても、それは続かない、続けられないのです。自分を振り返ると就職してから楽器を弾かなくなったのは聞いてもらえる環境がなくなったからだと自分自身を分析しています、下手でも恥をかいてもいいじゃないですか、人前で演奏しましょうよ!

画像2

個性的な3タイプのミュージシャンをご紹介しましたが、普通に周りの人とコミュニケーションもできて、普通に楽器も歌もこなせる人ももちろん沢山居ますし、そう言う人の方が多いので安心してくださいね(笑)。

・プロミュージシャンと「自称」プロ

プロの演奏者の方のほとんどはオラオラ感なく、静かに自信に溢れたオーラを放っている人が多いですが、職業として演奏を続けておられる方は当然コミュニケーション能力もありますし、技術の裏付けもありますので当たり前ですね。プロミュージシャンにも色々な業態があると思いますが、プロダクションに所属していたり、メジャーデビューされている方や、有名な歌手のバックバンドやTVの歌謡番組(今はほとんどないですが)の伴奏をするようなフルバンドに入っていたり、教室で教えておられる講師の方や果ては大学で後進の指導に当たられている方などまでいらっしゃいます。それらの方のほとんどはまっとうな方が多いと感じます。

そんな本当のプロの方がいらっしゃる一方、「自称」プロと言う肩書きを全面に出してくる方がいます。簡単に言うと音楽で生計を立てている訳ではなくアルバイトをしながらライブ活動を続けている人ですね。確定申告の時にどちらをメインとして申告されるのか?そもそも音楽家として開業届を出しているのか?確認したい人が多いです。

画像3

また、「元」プロとか「元」歌手と言う方も沢山いらっしゃいます。これらの「元プロ」と自称される方は両極端で、なるほどプロ、元プロだと思わせる方と「絶対あり得ない」レベルの自称プロの方がいらっしゃいます。「昔取った杵柄」と言うやつですね。ちょっと厳しいかもしれませんが、「元」と言うのが何十年前とか、その時間的距離が長過ぎるなら「元プロ」を口に出すのは止めて、現在のレベルで語った方が格好いいのになと思います。

そう言う私も学生時代は楽器を演奏するアルバイト(当時はバイショーと言っていました)を大学時代ずっとしていたので、一応元プロと呼べるのかもしれませんが、当時も学生が本業なので自分ではプロではありませんと言っていました。大学を卒業する時に、親に「バンドマンなんてヤクザな道には進まないでくれ」と真顔で言われたのを思い出します。

余談ですが「バイショー」とはバンドマン用語で、バンドマン用語は順番をひっくり返したり数字をアルファベットで言ったりするのですが、「商売」をひっくり返してバイショーですね。これは自分のやりたい音楽とは違う音楽を、お金の為に不本意ながらも演奏することを自嘲的に表現したバンドマン用語です。

その後、幸いにもバンドマンなんて言うヤクザな道に進むことななく、普通に就職をして、普通に楽器を弾くことを忘れ、気がつけば普通の中年オヤジになっていたのですが、今のカミさんに出会ってから音楽再開、そしていつの間にかヤクザなライブバーのマスターへの道を歩み始める事になったのです。

(第十三夜 了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?