見出し画像

「複雑怪奇」な国際情勢を見抜く知恵―中ロ艦隊日本一周と衆議院選挙に寄せて①

[画像]10月18日の中ロ合同艦隊で確認されたルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦。画像は9月13日に沖縄本島と宮古島の間を航行した際のもの。([出典]防衛省「自衛隊・防衛省ウオッチャー「時々刻々」2021.9.3-9.9」https://dailydefense.jp/_ct/17479986 )

■「複雑怪奇」な国際情勢と付き合うために― 

 与野党がいつにもまして激戦を繰り広げる2021年10月の衆議院選挙では、外交・安全保障が隠れた争点となっています。自公連立政権と、共産党と閣外協力を結んだ立憲民主党が対抗する勢力関係から、安全保障政策の安定性に焦点が当たっています。

 戦前日本の首相だった平沼騏一郎は、国際情勢は「複雑怪奇」と言い残して首相の座を去りました。共産主義に対抗するためにドイツとの軍事同盟を模索していた矢先に、ドイツが独ソ不可侵条約を結んだためでした。

 多数の国家のエゴがぶつかり合う国際社会は、荒れ狂う海に見えます。そんな国際社会にも、流れを左右する一定の傾向があります。その潮流を読み解く知恵があれば、グローバル化時代の荒波も乗りこなしていくことができます。

 衆議院選挙を目前に中ロ艦隊の日本一周というホットなニュースが入ってきたので、日本周辺の国際環境を理解するTipsをご紹介します。選挙はもちろん、日ごろのニュースを理解する手がかりになったらうれしく思います。

 安全保障とは、どんな国家を作りたいかを決める政策です。平時には考える機会がありませんが、秩序が乱れた時には不安や恐怖が事態を悪化させる結果を招くリスクが付きまとう政策分野でもあります。
 地球がどんどん小さくなっていく時代に、異なる存在の対立は大きく見えるようになりました。そんな対立の陰に隠れた平和への水脈を見つけるべく、国際情勢を読み解く知恵をお届けします!

■複数のニュースを「合わせ読み」《ケース》中ロ合同艦隊日本一周


 「軍事とか政治って専門用語が多くてちょっと……」と思う人でも、ニュースアプリなどを駆使すれば誰でも「目利き」になれます。一時の不安で勇ましい声の虜にならないよう、今回はこのTipsをご紹介します。

★Tips「同じ出来事を書いた複数の記事を合わせ読みする」

 題材は、10月18日に発生した中ロ合同艦隊による日本一周です。

 中国と周辺国の海をめぐる摩擦は、尖閣諸島のある東シナ海から南シナ海まで広がっています。そんな情勢の中で、これまでにない動きが10月18日に見られました。中国海軍の艦隊にロシア海軍艦艇が合流し、合同で日本列島を一周したのです。

 通過した地点は北は青森県と北海道を隔てる津軽海峡、南は鹿児島県の大隅海峡です。いずれも自由な航行が許されている公海であるものの、これまでにない動きに注目が集まりました。

 独自の解説に定評があるジャーナリスト長谷川幸洋氏は、次の記事で通過された海峡の位置づけを変えるよう主張します。

 なぜ、こんな事態になったかと言えば、日本が領海法で両海峡を含めた5海峡について「領海は3カイリ(約5・5キロ)まで」とし、中間を公海扱いにしているからだ。本来、国際法が認めている12カイリ(約22キロ)よりも狭く設定しているのだ。 
 
 なぜかと言えば、核を積んだ米国の原子力潜水艦がこれらの海峡を通過すると、12カイリだと「日本の領海に侵入した」かたちになってしまう。非核3原則の「核を持ち込ませず」を守るためには、「公海部分を残した方がいい」という判断があったからだ。

「高い関心を持って注視している。警戒監視活動に万全を期す」というコメントを発表した首相官邸には危機感がないと批判し、領海法の改正も視野に入れた対応を促します

 長谷川氏が知見のあるジャーナリストであることに疑いはないのですが、領海法改正に慎重な意見も読むと、この問題はより包括的に理解できます。

 ひるがえって、現状の津軽海峡においては、こうした潜水艦による潜没航行や航空機による上空通過の自由は海峡中央部にある公海部分に限られ、その外側の領海部分ではこうしたものは認められません。しかし、もし津軽海峡全体を領海としてしまえば、海峡全体でこれが認められてしまうことになるのです。

 軍事ジャーナリスト稲葉義泰氏は領海法の枠組みを踏まえ、領海法自体を変更することがかえって外国軍間の無秩序な航行を招くリスクに警鐘を鳴らします。彼は、一時の感情に流されない長期的な視点に立った判断を訴えたのです。

 論調の異なる新聞社や、政治的主張の違う評論家の記事では、同じ事象でも全く異なる主張が展開されることがあります。一見すると読者を混乱させるだけのようですが、読み比べた時の混乱が高いことはその時の社会のあり方に関わる重要な争点であることを物語っています。異なる意見を読み解くことで、この記事の書き手は誰にどんな行動を期待しているのか、政治的な立場の違いを読み取ることができます。

 日本でアメリカのCIA(中央情報局)と比較されることもある内閣情報調査室(以下、内調)の室長を務めた大森義夫氏は、私たちでも触れる公開情報を丹念に読み解く重要性に度々触れています。それは情報分析の世界の鉄則でもあります。

「情報の95%は公刊資料から入手する」と言ったら「お前は役所で新聞ばかり読んでいるそうでガッカリした」と怒った人がいたが、公刊資料についての発言はCIA長官のセリフを引用したのである。
([出典]大森義夫『日本のインテリジェンス機関』文藝春秋 2005年 P.66)

 内調室長は、内閣総理大臣に二人きりで内外の重要情報を報告するための「総理報告」を30分間できる職権があり、当時の霞が関では貴重なものでした。その報告作成のために大森氏は膨大な新聞、週刊誌などの切り抜き、ニュースや特番のビデオ、講演録を読み解き、国際情勢の変化の兆候など政策決定のヒントを報告に盛り込みました。

 今も世界の政策決定を支えるオープン・インテリジェンスという手法は、このような地味で平凡なプロセスで成り立っています。私たちは情報を読み比べる習慣をつけるだけでそのエッセンスを学び、情報過多社会とも言われる現代を生きる武器を手に入れることができます。

 投票という政策決定に役立てていただければ、幸いです!

■次回は、中ロ両国のパートナーシップを読み解く知恵へ

 時間をさかのぼれば、日本はイギリス空母クイーン・エリザベス寄港の際に米英等5か国と共同演習を実施しています。中ロよりも充実のパートナー数です。

 こうしてみると、中ロは時間差があって対抗アピールしているようにも見えます。そんな彼らのパートナーシップは充実しているのでしょうか。そして対抗する背景には、何があるのでしょうか。

 同床異夢の中国、ロシアの関係を読み解くのは、次のTipsへ!

【作者プロフィール】
小山森生(こやまもりお)
平日日中は恩のある会社に仕える一サラリーマンだが、プライベートでは本業を抱える人間も世界平和に貢献できる社会実現のために東奔西走する29歳男性。
任意団体「道しるべ」で代表を務め、志を共にする仲間と平和に貢献する様々な社会貢献活動を支える活動を展開中。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?