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あるある甲子園2022で惜しくも本戦出場を逃した佳作3選


優勝は、三輪高校——!

日本中を熱気に包んだあるある甲子園2022は、四連覇がかかった絶対王者、私立アルプスの麓でスポーツ&スポーツ高校を、ダークホースの佐賀県立三輪高校が下すという劇的な展開で幕を下ろした。

三輪高校へのインタビュー一色に染まったキー曲の報道番組を見ながら、私はある使命に駆られてnoteを立ち上げた。

あるある甲子園は、本戦のみが大々的に放送される。予選でどれだけ良いあるあるを出しても、各種メディアを流し見している人たちには届かないのだ。

届けねば。

noteという自由な媒体を通し、脱落こそしたものの本戦に引けを取らないクオリティだったあるあるたちを成仏させなければ。

それが毎年欠かさず予選からチェックしている私の使命なのだ。

本当は良いあるあるを全て紹介したいのだが、どうしても入りきらなかったので、ここでは3選に絞らせてもらう。

これを読んで、競技あるあるを志す子どもたちが増えたら幸いである。

聖籖ヶ梨々高校(徳島)・3回戦第1試合


まず紹介したいのは、四国予選から、聖籤ヶ梨々(せいくじがりり)高校、略してセイガリが繰り出したあるある。

ちなみにセイガリは本戦常連の強豪校。理事長の「せがれいじり高校」と言い間違えるボケがツルッツルに滑り、そのあまりのつまらなさに実況の古舘伊知郎がマイクONのまま実際に吐くというのが恒例行事となっている。

さて、ここであるある初心者のために、大会のルールを説明しよう。

二つの高校が先攻と後攻に分かれ、タイトル→解説VTR→補足の流れであるあるを発表する。

両者の発表が終わり次第観客投票に移り、より多くの共感が得られた方が勝ち。これを2ラウンド先取で行う。

重要なのが、投票の際に共感率100%となってしまった場合はドボンとなり、無条件で失格となる。このルールに涙を飲んできた強豪校は数知れない。

ご理解いただけただろうか。

ご理解いただけていないとしても、ご理解いただけているほうが都合がいい、というかご理解いただけていないと話が進まないので、ここはご理解いただけたものとして話を進めていく。

では、本題に戻る。行ってみよう!

「先攻、石石熨石(いししのしし)高校」

10年分の芹那の声を丹精込めてデータ化した機械音声が告げる。

「後攻、聖籤ヶ梨々先攻、いや高校」

静まり返る会場に、古舘伊知郎のちょびゲロの音が響き渡る。

「えー、一つ目のあるあるは、こちらです」

先攻のイシノシのキャプテンが壇上に立ち、映写機のスイッチを入れる。

《勝手に動いてどっか行っちゃった味噌汁、武蔵小金井に居がち》

「なんだ、ヒョロガリじゃねえか」
「今年も本戦は頂いたな」

舞台袖のセイガリ生が呟く。

解説VTRが流れている間も、観客の反応はイマイチ。

とぼとぼと帰ってくるイシノシのキャプテン。

続いてセイガリのキャプテンが壇上に立つ。

「えー、ひ、一つ目のあるあるは、こ、こちらです」

(キャプテン! 緊張伝わってんぞ!)

舞台袖からの声に、キャプテンは放送できないハンドサインで返し、映写機の画面を切り替える。

《カラオケで勝手にハモってくる店員、スーパー銭湯で入店拒否されがち》

客席がどよめいた。正直私も驚いた。今までのセイガリの傾向からあまりにも逸脱している。もうワンランク上に行くという、強い克己心を感じた。

キャプテンはしたり顔で解説VTRの再生ボタンを押す。

A「花が叫ぶ愛の世界で♫」

二人の男子高校生がカラオケを楽しんでいる。Aが歌っているのはSEKAI NO OWARI「虹色の戦争」だ。

A「鳥籠の中で終わりを迎えた自由は僕になんて言うだろう♫」

Bは軽快に合いの手を入れる。

A「生物基礎たちの虹色の戦争 あんたが殺した♫」

B「あ、お前また歌詞間違えてんじゃん」

A「え? ああごめん、俺文系ガリ勉だから」

B「関係ねえし、ガリ勉かどうかは知らねえよ」

突然、扉が開いた。

店員X「The war of the rainbow color♫」

A「やい店公!勝手にハモって来んない!」

B「ガリ勉の語気じゃない」

店員Y「物理化学たちの虹色の戦争♫」

店員Z「貴方が殺した自由の歌は♫」

B「二人三人と来ることないだろ、お前の歌詞もなんなんだ」

店員Y「え、あの、さっき、生物基礎って歌ってましたよね?」

店員Z「てことは文系すか?笑 実質Fランすね笑」

B「筋金入りかい」

A「く〜っ、ここがカラオケだからそんな呑気でいられるんだ、お前らなんて、駿台に行けばイチコロなんだからな!」

B「駿台が一番地の利無いだろ」

店員X「ふう、今日も一日働いて歌って、いいベソかいたなあ」

B「お前は限界だよ」

店員Y「スーパー銭湯でも行きますか!」

Aと店員Z「應ッ!」

B「なんなんだこいつら」

スーパー銭湯に着き、更衣室に入ろうとすると……。

受付「お待ちください、お客様!」

店員X「なんスか?」

受付「お客様もしかして、ミッシェルガンエレファントの生き写しじゃありませんか!?」

店員X「そ、そうですけど」

B「違うだろ」

受付「当スーパー銭湯では、タトゥーのお客様をお断りしております。ミッシェルガンエレファントがタトゥーの代役として用いられているのは周知の事実! よって!入店を!!拒否いたします!!!」

B「いつまで擦るんだ」

入 店 拒 否
(ババーン)
(店員Xのちょけてる卒アルの写真が表示される)

店員X「くっ……」

A「じゃあの ノシ」

店員Y「よし、あいつのことは忘れて、俺らはひとっ風呂——」

受付「お待ちください、お客様!」

店員Y「今度はなんスか?」

受付「お客様もしかして、恥を知れ!の子供じゃありませんか!?」

B「だったら何なんだよ」

店員Y「そ、そうですけど」

B「なんの嘘だよ」

受付「当スーパー銭湯では、価値観をアップデートし、デジタルタトゥーのお客様もお断りしております。お客様が居たという記憶は、インターネットの人たちの走馬灯に必ずや登場することでしょう! よって!入店を!!拒否いたします!!!」

B「それみろ」

入 店 拒 否
(ババーン)
(乗馬にかまけて爺とのスポッチャをブッチするお嬢様の写真が表示される)

店員Y「なぜ……」

B「なぜかは言ってくれただろ」

店員Z「三人に……なっちゃったね」

A「♡」

受付「お待ちください、お客様!」(ダンガンロンパみたいなカットイン)

店員Z「え……何スか」

受付は店員Zの浴衣をバッと開ける。

A「チ……チンポが、二つ……?」

受付「ほらやっぱり!」

店員Z「なぜばれたし……」

受付「それだけじゃない!」

受付は店員Zの金玉のシワで迷路をする。

受付「やっぱりだ……」

店員Z「な、なんだよ」

B「本当に何だよ」

受付「完全一致! お前の金(キャン)紋は、中山秀征のそれと完璧に一致している! 間違いない、お前はダブ金(キャン)だ!」

店員Z「ハッ……!」

B「だから何なんだ」

受付「よって双チンダブ金の陰一色(インイーソー)、天和かつ秀ちゃんで66000点! 私の負けだ!! 出入り禁止!!!」

出 入 り 禁 止
(ババーン)
(井上陽水「夢の中へ」をバックに徐々に老けていく上地雄輔が表示される)

B「やりたい放題か」

店員Z「分かったよ、帰るよ」

受付「俺も帰る」

A「俺も帰る」

Aの弟「僕も」

Aの姉「私も」

Aの父「俺も」

Aの犬「A様には逆らえないのです」

いかりや長介「じゃあ俺も」

全員「ってなんで長さんが!?」

B「……だめだこりゃ」

VTRを見終えた客席は、盛大な拍手と歓声に包まれた。

今年のセイガリは、本気だ。

しかし、イシノシ渾身のWAIROにより敗北してしまった。

こんな感じで紹介してくよ!

薔薇蕾華高校(福井)・5回戦第2試合


続いて紹介するのは、北陸予選から、薔薇蕾華(ばららいか)高校が繰り出したあるある。

バラ高はお世辞にも本戦常連とは言えないが、進出すれば決まって大きな爪痕を残し、過去には三度の優勝経験もある、トリックスター的な位置付けの高校である。

そんなバラ高が1試合目を取られた上で出した切り札的あるある、これを紹介しないわけにはいかない。

バラ高のキャプテンが壇上に立つ。

「我々の二つ目のあるある、こちらです」

画面が切り替わる。

《東京の奴ら、なぜか防犯ブザー早々に捨てがち》

会場はざわめく。

それもそのはず、本戦は東京にある、テレコムセンター駅で行われる。彼らは、本戦では一切使えないあるあるを、切り札として提示してきたのだ。

観客は大いに盛り上がっているが、それが「ある」と「ない」どちらの意味なのかは分からない。

流石はトリックスターのバラ高キャプテン、落ち着いてVTRを再生する。

「はい、おはよう、おはよう、着席してー」

バラ高の教室。先生が扉を閉め、朝のホームルームが始まる。

「えー、今朝、気象庁から発表があった通り、今年も桜前線が我が県を通過した。みんな、防犯ブザー、ちゃんと持ってきたか?」

先生が呼びかけると、生徒たちは各々が持ち寄った防犯ブザーを掲げた。

「よし、よし。もうちょっとで放送が入るはずだからな」

生徒たちは防犯ブザーを机の上に置き、じっと待つ。教室内には高揚感が充満している。

「えー」

スピーカーから校長の声が流れだす。

「花冷えの日が続いておりますが、わがバラ高の皆様におかれましては、溜池山王駅前でペペロンチーノを拾い食いしているおじいちゃんのパンッパンのウン便(べん)のごとく、お元気でお過ごしのことと存じます。春もたけなわ、佐賀にははなわ、歩く姿は山瀬まみの番宣コメント、3問正解なので15秒でお願いします! 何?15秒じゃ語りきれない? でも大丈夫、けしかけマジックでけしかけてやるのさ! 私の名前はギバちゃんです。レインボーブリッジ封鎖できませ〜ん! 以上、平野レミのドキドキ⭐︎ボブスレー王国でした、明日に向かって〜、(せーの)、Direct SHOT!!!(拳を突き出す)」

放送が終わる。

なお、バラ高の生徒には予備催眠がかけられているので、今の放送は全てマイク・ワゾウスキーが喋ったものだと思い込んでいる。

「はい、いま放送があった通り、今年も開催します」

黒板の前に吊り下げられた幕が開く。

「変な人を沸き潰せ、第45回チキチキ!春の不審者狩り〜〜〜〜〜」

先生がタイトルコールをすると、カラスが一斉に飛び立ち、学校の壁が倒れて、防犯ブザーを握りしめた生徒たちが街に繰り出された。

A「不審者でておいで〜」

B「これ毎年大変なんだよな」

カメラは二人の男子高校生を追う。

A「ここなら、不審者がいそうだぞ」

二人はラーメン屋に入った。

B「失礼だろ」

カウンター席に、客が一人。

店主「お客さん、ご注文は」

客「醤油。あと……」

客は店主の目をじっと見つめる。

客「真心……一つ」

店主は一瞬手を止め、客の方を振り返る。

店主「……あいよ」

店主は醤油ラーメンを提供した。客はそれを黙って平らげる。

客「……注文、通ってるよな?」

店主「……」

客「真心、一つ」

店主「……あいよ、真心」

店主が渡したのは一枚のCD。

客「こ、これ……」

店主「ああ」

客「ヤンデレの妹に死ぬほど愛されて……」

客はCDを両手で持ち、穴を開ける勢いで見つめる。

店主「そう、ヤンデレの妹に死ぬほど愛されて一人前の料理人になったお前は、もう俺の弟子なんかじゃないCD」

店主は鼻をすする。

店主「師匠、俺の妹も料理人だっての知ってやがってさ、独立するときにそれ、着払いでくれたんだ。口は悪ぃし頑固で俺への当たりも強かったけど、なんていうか、不器用で、優しすぎる人だったんだよなあ。俺のラーメンが妹にこき下ろされてるときに、そんなことねえって、師匠だけがいっつも言ってくれた。俺、忘れらんなくてよ。こうして今も、そのCD、裏メニューっつって提供してんだ」

客「泣かせんなィ……」

店主「注文したからには、そいつ、可愛がってやれよ」

客「あたぼうよ……」

客はCDを両手で持ち、じっと見つめる。

そして……

客「いただきまーす」

店主「えっ」

パクッ

ビーーーーー!!!

A「やったぜ!」

【CDを美味しくいただく人】
 通 THE 報
(月島きらりの「バラライカ」がちゃんと流れる)

B「不審とかじゃないだろ」

ラーメン屋を後にした二人は、次なる不審者を求めて伝統芸能劇場に向かった。

B「だから失礼だって」

只今の公演内容は、まちカドまぞく歌舞伎。客席は超満員である。

A「いい席空いてたね」

B「超満員なのにな」

二人は真ん中の席に座る。

役者「シャ〜ミ〜子〜も〜、悪〜よ〜の〜う〜〜〜〜〜〜」カンカンカンカンカン、カカン!

役者が大見得を切ると、観客のおばあちゃんたちが大拍手で返す。

B「なに見せられてんだこれ」

A「他の公演も見てみようか」

席を立って劇場前の看板を見に行く二人。

A「う〜ん、面白そうなのあるかな……」

本日のラインナップは
・おでんくん歌舞伎
・金曜朝の八重洲口のリアルな雰囲気歌舞伎
・夏の石階段で乾き果てているミミズ狂言
・きれぼし能
・シンプル浄瑠璃

B「シンプルとか言うな」

A「あ! 隣の劇場でこんなのやってるよ!」

『伝統芸能 × 手コキカラオケ!? 徳井義実のチャックおろさせて〜や歌舞伎』

B「冒涜の中でも特に最悪の部類」

A「気になるものあった?」

B「全部気にはなる」

A「じゃあランダムで決めるね! てんのかみさまの……」

B「待て」

A「なのなのな! きれぼし能に決定!」

B「九死に一生を得た」

二人は劇場に入っていく。

役者X「侮るなかれ、旦那の動きはかのKGBに読まれておりまする」

役者Y「あなグろし!」

B「すゑひろがりずだろ」

A「おもしろいねー」

公演は何事もなく終わり、劇場を後にする二人。

A「そういえば劇場の前の道って、桜が植わってるんだねー。あっ!」

何かを発見したA。

Aの指差した先には、ババーンという文字とともに桜の木の根本に埋められている人が。

A「見つけたっ!」

ビーーー!!!

【折部やすな】
 NOT 通 BUT 報
(♫加山雄三 全曲同時再生)

B「時間の無駄だったわ。古いし」

A「あと1人ぐらい行きたいね!」

B「好きにしてくれ」

A「最後は、鉄板のあのスポット!」

劇場を後にした二人は、中高一貫の私立女子校の正門前にやってきた。

B「ここは別に失礼じゃない」

A「あ!早速!」

ビーーー!!!

【多頭飼いおじさん】
 NO MORE 通 THAN 報
(分かってくれよ)

A「もう一人!」

ビーーー!!!

【多頭飼育崩壊おじさん】
 NO LESS 通 THAN 報
(お互い様やん)

A「乱獲だ!」

ビーーー!!!

【せっかく犬に生まれたのに、なぜか砲丸投げ一本に絞った犬】
 IF 通 SHOULD 報
(〇〇ちゃん)

ビーーー!!!

【せっかく七色なのに、なぜか鋭角の虹】
 IF 通 報, 通 WOULD (SHOULD / COULD / MIGHTなど ) 報
(夜行バス)

ビーーー!!!

【キスのうまさだけで登り詰めたボス猿】
 HARDLY/SCARCELY + HAD + S + p.p. 〜 WHEN/BEFORE + 通 + 報(過去形)
(幸せになりたい)

ビーーー!!!

【押し入れに泉こなたの抱き枕が入っている民宿】
 マ通ケンサンバ報
(強がりました)

ビーーー!!!

【人志松本のありえない寝相】
 ああ恋せよ通ミーゴ 踊ろうセ報リータ
(ナウなヤングにバカウケするのは当たり前だのクラッ歌)

ビーーー!!!

【DAOKO 本人】
 痛   風
(貴方解剖純恋歌〜死ね〜)

通りがかった女子校生「いやあいみょんの1stインディーズミニアルバムじゃねえか!!!!!!」

 げ ん
 こ つ 町 の プ ペ ル

B「滝のようだな」

A「不審者狩り完了、これにて一件落着〜!」

ホワンホワンホワン……

A「みたいなこと、高校のときあったよねー」

東京人X「いや、ないけど」

A「えっ」

東京人Y「てか防犯ブザーとか小1で捨てたべ」

A「うそっ」

東京人X「な。捨てたっていうか、どっか行ったわw」

A「えっ、えっ、」

東京人Y「分かるー笑 知らん間に消えてたよな笑」

A「えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?!?」

Aの雄叫びは世界にこだまし、バラ高関係者全員に共鳴した。

世界中から叫び声が鳴り響く地球は、星というより最早大きすぎる防犯ブザーだった。

【スペースデブリ】
 通 報
(めっちゃ笑顔で真っ赤の太陽)

VTRが終わる。

観客は圧倒され、誰一人として声を出せない。拍手することすらできない。

そのまま夜になり、バラ高は流れるように失格となった。

夢星花蹴鞠足立潤区高校(北海)・9回戦第3試合


最後に紹介するのは、北海道予選から、夢星花蹴鞠足立潤区(むすたふぁけまるあたてゅるく)高校が繰り出したあるある。

学校名が異常に長いため主催者側から疎まれがちなムス高だが、なんと附属中学校があり、その正式名称は函館市立夢星花蹴鞠足立潤区高校附属夢星花蹴鞠足立潤区中学校である。在校生たちはこの校名について、圧倒的すぎて何の感情も抱いていない。

そんなムス高は二代目チャンピオンでもある。しかし最近の戦績は低迷している様子だ。

では早速、あるある紹介といこう。

これで勝敗が決まるという局面で、ムス高キャプテンは緊張しながら画面を切り替える。

《回転寿司では一皿目を醤油皿にするけど、回らない寿司では全皿を醤油皿にしちゃいがち》

会場の反応は芳しくない。私もこの時点では、今年は捨てたかと失望していた。

重い空気の中でもキャプテンは動じず、解説VTRの再生ボタンを押す。

舞台は東京・新橋の高級寿司店。

寿司は回らないが経営は回る、女房は泣かせても閑古鳥は鳴かせない。そう書かれたTシャツを全員が着用している、ごく普通の寿司屋である。

大悟「あらじゃい」

ノブ「あらじゃい!?」

隣の和食屋から響いてくるそんな声にも動じず寿司を握り続ける職人たち。

彼らは中学卒業後すぐに弟子入りし、店内の掃除、師匠の車の運転、大手電機メーカーへの就職、「博士ちゃん」への丸腰出演、笑点の司会、おっパブのこども店長、千日回峰行を経て、厨房に立って寿司を握っている。

そんな彼らが握る大トロは、専ら「脂っこい」と評判である。

A「今日は俺の奢りだぞ〜」

B「いいんですか? すごいお値段しそう……」

スーツを着た二人の客が暖簾をくぐった。同じ会社の先輩と後輩だろうか。

A「大将、マグロ一丁」

大将「へいらっしゃいあいよ!」

B「銀シャリだ」

A「Bも、値段は気にせず好きなものを頼んでくれ」

B「まず席に座りましょう」

二人が席を決めると、大将はマグロを二皿提供した。

A「大将?」

大将「兄ちゃん、新卒だろ? 就職祝いのサービスだ」

B「大将……」

大将「なぁに、気にすんな」

二人はマグロを口に運ぶ。

A「美味しい……!」

大将「だろぉ? このマグロ、今朝獲れたてだからな」

B「そうなんですか?」

大将「そうそう。うちはな、独自の釣法を採ってんだ。まず、とくダネ!のスタンバイ中の天達をさらって、海中に小一時間沈める。そんでもって浮き上がってきた天達の腹を押して、口や鼻から水をドバーッと吐かせる。天達はな、水と一緒に魚も呑んじまうんだ。だからそん時に、新鮮なネタをボッロボロッ吐いてくれる。すげえだろ? 特許にも何遍も申請してんだ。でも取れねんだよなあ。なんでかなあ」

B「特許庁に荒らしだと思われてるんじゃないですか」

A「やはり省庁さんはお堅いですなあ」

Aはマグロの皿を醤油皿にする。

A「カンパチ一丁」

大将「あいよ!」

〜Now Loading…〜
Tips : スズメバチに刺されそうになったとき、大きな声を出し続けることで、ごく稀に”勝つ”ことができる。

大将「へいおまち!」

A「あざす。うめ〜」

Aはカンパチの皿を醤油皿にする。

A「コハダ一丁」

大将「あいよ!」

〜Now Loading…〜
Tips : 身体の大きな人にカツアゲされたら、自慢のスニーカーでそっと脛を蹴ってみるのも手だ。

大将「へいおまち!」

A「あざす。うめ〜」

Aはコハダの皿を醤油皿にする。

A「ブリ一丁」

大将「あいよ!」

〜Now Loading…〜
Tips : 見知らぬ豪邸を食べログに登録すると、星の数に応じて目が良くなる。

B「この店のロード画面、無責任すぎる」

大将「へいおまち!」

A「あざす。うめ〜」

B「それしかねえのか」

Aはブリの皿を醤油皿にする。

A「アジ一丁」

大将「あいよ!」

〜少女握寿中…〜
Tips : ユーミンは、周囲と違う方の手を振った客に対し「地獄に落ちてちょうだい」と言い放ったことがある。

大将「へいおまち!」

A「あざす。うますぎ〜」

Aはアジの皿を醤油皿にする。

A「エンガワ一丁」

大将「あいよ!」

〜少女握寿中…〜
Tips : コブクロ小渕は、マラソン大会の国歌斉唱をなぜかギリギリの裏声で歌いきり、ウケながらスベったことがある。

大将「へいおまち!」

A「あざす。うますぎ〜」

Aはエンガワの皿を醤油皿にする。

A「ヤリイカ一丁」

大将「あいよ!」

〜少女握寿中…〜
Tips : 陣内智則は、たむらけんじの犬を電子レンジで温め、ホワホワにしたことがある。

B「もうTipsでもなんでもない」

大将「へいおまち!」

A「あざす。うますぎ〜」

Aはヤリイカの皿を醤油皿にする。

A「漬けマグロ一丁」

大将「あいよ!」

B「いつまでやるんだ」

〜少女握寿中…〜
Tips : タバコは肺に悪く、肺は原田泰造に悪く、原田泰造はタバコに悪い。これが俗に言う三すくみである。

大将「へいおまち!」

A「あざす。うますぎ〜」

Aは漬けマグロの皿を醤油皿にする。

B「全部醤油皿にするんですか」

A「あ? そういうもんだろ」

B「なんで喧嘩腰なんだよ」

A「金目鯛一丁」

大将「あいよ!」

〜少女握寿中…〜
Tips : ビートたけしの表彰状は、2001年あたりから全て畑亜貴が書いている。

B「言うことないのか」

大将「へいおまち!」

A「あざす。うますぎ〜」

Aは金目鯛の皿を醤油皿にする。

大将「お次は何にいたしやしょう」

A「もういいよ」

大将「え?」

テーブルの上にある八つの醤油皿。よく見ると、四皿ずつが互いに接着し合い、四角が二つできている。

A「ありがとな、大将」

醤油皿たちは高速で回転し始め、四角はゆっくりと地面に垂直になっていく。醤油は一滴もこぼれない。

B「うわっ」

Bを背負ったAは、回転する醤油皿たちの上に足を乗せる。

大将「あ、あんた……」

A「そうだ。俺は一見すればただのサラリーマン、しかしその正体は世界を股にかける醤油皿セグウェイスト。見くびったな、大将! 俺は先に行かせてもらうぜ」

B「何?」

Aは走り出す。ハンドルに見立てた醤油皿を持ったBを乗せて。

輝く瞳。きらめく灯。

地球は回る。小森純と、小森純2を乗せて。

いつかきっと出会う、僕らを乗せて——。

A「夜景がきれいだなぁ!」

B「空を駆けている……」

A「B、今何キロ!?」

B「危ない!」

A「えっ」

直撃したのは、豪速の硬球。おそらくは、真下に見えるスタジアムから飛んできた場外ホームランだろう。

A「まずい、どうしよう……」

B「何なんですかずっと!」

A「こんな状況、のびハザで習ってねえぞ……」

B「当たり前でしょ! とにかく、姿勢を水平に保って!」

A「おう、こうか?」

Bはスタジアムに目を向け、次の球を警戒する。

キャッチャーは壇蜜、ピッチャーはNOVAうさぎ、そしてバッターは——

ハッ!

B「先輩! そのまま姿勢をキープしてください!」

A「分かった!」

BはAの両腕を曲げる。

A「何してんだ!」

B「動かないで!」

続いてAの足、腹、そして頭部を変形させ、B自身は大きな空気の球になる。

二人は高度を下げていく。

色は徐々に奪われ、純白に近づいていく。

球場の声が鮮明に聞こえる高度まできた。

野球ファンたち「かっとばせー、326!」

その声援と、応援歌の19を浴び、二人は紙飛行機になった。

UFOと見紛うほどに大きな紙飛行機。

スタジアムを吹き飛ばし、ビルをなぎ倒し、ときには立ちションを暴きながら、つくばエクスプレスを北上していく。

風に削られ、ちっちゃくなった紙飛行機が、とあるテレビスタジオの頭上を掠めた。

疲れた遠藤憲一「写真で一言。なぜ?」

疲れた松本人志「ぐ〜。これはビチ糞に次ぐビチ糞やね〜。日本男児は出たとこ勝負! 伊東四朗の尿道が鉄骨造なわけないもんな〜」

オードリー若林「磯野貴理子、磯野貴理、磯野貴理子」

 I P P O N

湧き上がるお台場笑おう会。彼らの物語は、まだ始まったばかりである。

VTRが終わった。

8時間にも及ぶ審議の末、ムス高は失格となった。

しかし、彼らは確実に伝説になった。

まとめ


以上、三つのあるあるを紹介した。

ここに書ききれなかった秀作も大量にあるので、少しでも興味を持った読者はぜひ予選に足を運んでほしい。

では、よきあるあるライフを。

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