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微生物と一緒に造る酒

「ものづくり」と聞くと、人の働きによってものを生み出すことを想像する人が多いだろう。
一方で、「微生物がお酒を造ってくれるんです」と話すのは、旭日酒造の女性蔵人 寺田栄里子さん。

寺田さんは、旭日酒造有限会社(島根県出雲市)の蔵の長女としてこの世に生を受け、進学を機に京都に移り住むも、実家からの要請で再び出雲に戻って13年が経つ。
現在は、嫁ぎはしたものの旦那さんと一緒に家業の日本酒造りを支えている。
 

広大な平地の多い出雲市は、お米やお茶づくりなど農業も盛んな地域である。
旭日酒造は、その出雲に明治2年に創業し、大正15年に建てられた木造、土壁、石州瓦と「天然」を多く使って建築された蔵で先祖代々10代に渡って日本酒の仕込みを続けてきた。
 
大切にしているのは微生物と素材の力を「人は手伝っているだけ」という考え方。
人が少し手を入れ、あとは目に見えないものの力を借りながら微生物と一緒にお酒を造っている感覚なのだそう。
そこに蔵(建物)の「天然」が相まって人がコントロールできない変化を重ねてできた味わいこそが、旭日酒造の日本酒の要と言ってもいい。
寺田さんが、酒の味わいの個性は「微生物のいたずら」と表現されている姿がなんだかかわいかった。
 

 
微生物、酒米、水とうまくお付き合いをしながら、忍耐強く続けることで出来上がる旭日酒造の酒だが、酒を絞ったあとの副産物「酒粕」にも注目したい。
 
酒をつくるという目的を果たしているのになお、絞った後に残るものまで活かそうとするとは、モノを粗末にしない、使い切るという心構えを大切にしてきた日本の生活文化の財産だと思う。
さらに、酒を絞った後に残るものだからと言って酒粕を侮ってはいけない。酒粕にもしっかりと栄養素が残っている。その酒粕の余剰廃棄も密かな問題となっている。
 
 
今回は、旭日酒造さんから酒粕を分けていただき、石見銀山にある群言堂本店カフェで酒粕チーズケーキが開発された。
東京でも食べていただけるよう、群言堂 西荻窪(暮らしの研究室)でも提供を開始している。
 
 
寺田さんの言葉を借りれば、きっと西荻窪のこの家屋にも目に見えない微生物がいるはずだ。
「なんか安心する」「寛いでしまった」「心が浄化されました」とおっしゃる方が多いのは、その微生物たちの“いたずら”なのかもしれない。
旭日酒造の蔵には及ばないが、この家屋も昭和初期から約100年、西荻窪の町を見守ってきた。

この家に住む目には見えない仲間たちに包まれながら、酒粕チーズケーキを味わってほしい。
 


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Interviewee 寺田 栄里子さん-旭日酒造有限会社
Recipe 畑本 真衣-本店カフェ
Photo 鈴木 良拓-SUZUKI FARMS/根のある暮らし編集室
Research 三浦 類-根のある暮らし編集室
Writing 樽川 美穂-西荻窪(暮らしの研究室)

石見銀山 群言堂 西荻窪(暮らしの研究室)
東京都杉並区松庵3丁目38-20
11:00〜18:00(火水定休日)
根のあるくらしを軸に衣食住から暮らし方を考える場所。
ー 衣服 暮らしの雑貨 お昼ごはん ー

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