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小説「ぼくはわるもの」

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小説「ぼくはわるもの」05最終話

ここまで僕の小説を読んでくれた方々、ありがとうございます。

また初めて僕の小説を読もうとして頂いてる方々、ありがとうございます。

「ぼくはわるもの」01も無料で公開しているでの、そちらも読んで頂けると嬉しいです。

05最終も無料で公開しようと思います。01・05、無料の部分だけでも

短編として楽しんで頂けるのではないかと思っています。

読んで頂いて、僕の文が暇つぶしにでもなれたら幸いです

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小説「ぼくはわるもの」02

小説「ぼくはわるもの」02

<二年前 上木勇人>

教員五年目の春を迎えた。校庭には散った桜が積り、薄桃色のカーペットが新入生の登校を歓迎している。昔、弟が「桜の花びらは枝から千切れる間際に痛みを感じるのだろうか」と言ったことを、ふと思い出した。そんなことを僕は気にもとめたことがなかったので、この季節になると、その言葉を頭に浮かべてしまう。口の中に舞い込んできた花びらが喉にペタッと貼り付いて、吐き出そうと試みたが、ことのほか

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小説「ぼくはわるもの」03

小説「ぼくはわるもの」03

<杉山紫央>

五月、湿った風が机の上に置いた教科書のページをペラペラと煽っている。窓際の一番後ろの席というのは、教室にいるようでいない感覚に陥ってしまう。いてっ。耳からイヤホンを無理やり引っこ抜かれた。取り返してやろうと手を伸ばしたが、机の上に置いていた小型の音楽再生機の本体ごと奪い取られた。「杉山さん、これは没収します」国語の教師が不服そうな顔で私を見下ろしている。上木友美という気の強い女の先

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小説「ぼくはわるもの」01

小説「ぼくはわるもの」01

世界がひっくりかえるのを待っている。
 五月、椅子の上で膝を抱えた弟はそう言ったのです。風船の空気が抜けてくような声が彼の顔を覆った前髪を微かに靡かせたのを覚えています。理解のできない言葉なのに怖がりな僕の体は鳥肌を立てていました。喉でつっかえた息を呑み込んで弟に目を凝らすと、頬まで髭を生やしているせいで表情はまったくもって分からなかったのですが、二つの黒く丸い瞳が潤んでいるようにみえました。

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