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学会でがっかりした話

コロナ騒動前はよく海外学会に参加していました。海外学会に参加してがっかりしたことはほぼありません。海外に行けただけでテンションも上がるし、たいてい海外学会で発表するには厳しい査読を通る必要があるので、発表できるだけで喜ばしいことなのです。さらに海外の方達とディスカッションできたりすると、さらにテンションは上がります。一方、国内学会は参加するといろんな意味で、がっかりすることが多いです。

1:前向きにがっかり

自分の専門領域の国内学会に参加した時はシンポジウムなどの大きな発表を聞きにいくことが多いです。そういう場では、たいてい若手のエースみたいな先生の発表を聞くことになります。
発表が始まると、膨大な実験データに圧倒され、中盤からスライドの右下に書いてあるNatureの文字が気になり出します。結語まで話した後、その先生はこんなことを言い出します。
「この結果は留学先で得られたものです。今度、研究室を持つので、やる気のある大学院生、ポスドクはぜひ連絡をください。」
するとすかさず座長の先生が話し始めます。
「このデータは先月号のNatureに掲載されていますので、興味のある方はぜひ読んでみてください。では質問を…」
完全に創作ですが、こういうことが時々あります。ここまでではないですが大学院生の発表がとんでもなく素晴らしいデータだったとか、その道ではあまり有名でない施設からの発表が、すでに一流誌に掲載された結果だったとかいうことも多々あります。そのたびに二流(三流?)研究者の私は自分にがっかりしてしまいます。自分ではがんばってるつもりだけど全然、だめだなと落ち込んでしまうのです。
しかしこれはある意味、前向きながっかりです。しばらくすると「よし、俺も頑張ろう」と奮起するからです。問題は後ろ向きながっかりです。

2:後ろ向きのがっかり その1

実際に経験した話です。大学院に入ってすぐくらいの時に学会で口演発表を聞いていました。教授からは何でもいいから、とにかく質問してこいと言われています。ある先生の発表後、勇気を出して、マイクの前に行き、質問をしました。
すると演者の先生が手持ちのメモを見ながら、黙りこんでしまったのです。
10秒、20秒、沈黙は続きます。
「何かまずいこと言ったか?」
座長もだんまりです。
30秒、40秒、会場は静かなままです。
「え、無視されてる?」
見かねた他の先生が私からマイクを奪いとり、
「途中のスライドで○○と提示していたので、いまの点はちゃんと示されていると思うんですね。それより…」と完全に別の質問をし始めます。
そしてなぜか、その質問には演者の先生もきちんと答えて、時が流れ出します。しばらく呆然としていた私もはっと我にかえり、誰にも気付かれないように自分の席に戻りました。
そして質問したことへの恥ずかしさ、後悔など、いろいろな感情が湧き起こり、最終的に落ち込みました。がっかりした瞬間です。
しかしこの後、色々と考えました。私の研究室では「大学院生はとにかく質問しなさい」という教えがあり、それまでも講演会などで頑張って質問していました。えらい先生に的外れな質問をして、不機嫌にしたこともありましたが、基本的には大人の対応をしてくれました。
そういえば私の先輩の大学院時代の伝説を思い出しました。先輩が教授主催の講演会に参加した時、特別講演の先生の話がまったく理解できなかったそうです。しかし教授は容赦なく質問しろプレッシャーをかけてきます。基本的に内容がしっかり理解できていないと質問はできません。しかし教授のプレッシャーもすごいです。結局、先輩は教授のプレッシャーに耐えきれず、特別講演の先生にこんな質問をします。
「その研究、なんの意味があるんですか?」
私はその場にいませんでしたが、教授は爆笑し、「核心をついたいい質問だった」と先輩をほめ、その先生も丁寧に答えられたそうです。もともと教授と特別講演の先生が仲良しだったということもあるのですが、大抵、こういう失敗はあたたかい目で見られ、許されることが多いです。
しかし私の場合は無視なので。
そんなに難しい質問はしていません。的外れな質問だったかもしれませんが「わかりません」でもいいじゃないですか。しばらく引きずりました。しばらくして医局のベテランの先生にこの話をしたところ「君は悪くないよ。どちらかと言えば座長が何やってんだって感じかな」と言ってくださり、少し救われました。その先生いわくは会を円滑に進めるのが座長の仕事なので、変な空気になったら座長がフォローすべきということでした。

3:後ろ向きのがっかり その2

これは私が大学院も卒業し、しばらくだった時のことです。私自身が国内学会で、ポスター発表をした時に起こりました。国内学会のポスター発表だと、5分くらいの発表時間が与えられることが多いのですが、この時は発表内容ごとにグループを作り、その中で話し合うという形式でした。
話し合いの時間が終わった後、ポスターが隣だった方に個人的に質問をしようと思い、「あの…」と私が話しかけると、「ごめんなさい」と途中で話をさえぎられました。
そして「これ私の仕事じゃないんでよくわからないんです、ごめんなさい」と言い出しました。
実はこの先生、発表の前からたくさん下線を引いた論文を手に持っており、それをチラチラ見ていたので少し気になっていました。
でもポスターの発表者リストの一番目にその先生の名前が書いてあるしなと固まっていると、「ここに詳しく書いてあるんで」と、その下線がたくさん引いてある論文を私に手渡し、足早にその場を去っていってしまいました。
ちなみにその論文のファーストオーサーもその先生でした。私の仕事じゃないってのはどういう意味なんだろう。その先生は、一流大学の助教クラスの先生だったので、驚くとともになんだか、がっかりしました。

4:最後に

がっかりした話を書くつもりが、不思議な話を書いてしまいました。
色々と書きましたが、とはいえ色々な方との交流が図れる学会はとても有用な機会です。コロナの影響で学会もオンライン化が進み、本来なら遠くまで行かなければ参加できなかった学会にも自宅から参加できるようになりました。その反面、今回書いたような他の方とのやり取りや交流の機会は減ってしまいました。オンライン開催も一長一短がありますが、個人的には現地開催にみんなが参加できるような環境整備が早くなされるといいなと思っています。今回はこの辺で。お付き合いいただき、ありがとうございました。

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