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小説「ユースレス」【完結】

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正義の味方は楽じゃない。もういっそ猫になりたい。
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作品紹介 ~小説『ユースレス』~

あらすじ銀河系宇宙の辺境の星、制度も法律も届かない《フロンティア》。そこに、もう一人、無駄に高い戦闘能力を持て余す男がいた。バードック・ヘロッド連邦保安官。またの名を「ごくつぶし(ユースレス)」。 法律のないこの世界で、正義の基準となるのは、己の心のみ。荒野をさすらう彼の前に立ちはだかる敵の正体は!? イメージイラスト (イラスト:でんそう様) 作品情報■ 完結:2015.06.29 Pixiv ■ キーワード:SF 遠未来 男主人公 バトル アクション 保安官 西部

バードック ~小説『ユースレス』#1~

 見渡す限りどこまでも広がる大平原。緑の平野と空との境界線はゆるやかに上下を繰り返す山脈だが、それさえも遥か彼方であり、光に満ちた消失点近くで曖昧にかすむ影となり果ててしまっている。  ――雄大な大自然を初めて目にしたときは感動した。美しい緑、鮮烈な青空、不思議な香りのする空気。何もかもが興奮をもたらした。  そのうち、だだっぴろいだけの単調な風景に嫌気がさした。文明圏に帰りたくてたまらなくなった。  そして、今は、慣れてしまってもう何も感じない。 「クイーンと六のフル

ミモザ ~小説『ユースレス』#2~

 バードックは翌日さっそくワイズ町の代表者と会い、「麦の収穫を手伝いたい」と申し出た。 「俺、一人で十人分ぐらい働けるから、まかせて♪」 とまで言いきった。  その軽薄な言葉に、ワイズ町の代表者であるミモザ・ルーベンスという中年女は腕組みをし、難しい表情で彼をじっと見返した。  背の高い、肩幅の広い女だ。がっしりした体つきには女らしいところはまるでない。短く切りそろえた金髪は強い日差しを浴びすぎたのか色褪せているし、化粧っ気のない顔は「厳格」を絵に描いたようないかめし

葬儀屋 ~小説『ユースレス』#3~

 徹底的な規則正しさ。それがワイズ町の町並みの特徴だ。どの建物も、まるで同じ設計図を使って建てたかのように、似たりよったりの顔をさらしている。すべての建物が二階建てで、白塗りの壁と黒い屋根と丸い窓とを備えている。そんな画一的な建物が、完全な等間隔で整然と並んでいる。  整いすぎた町並みが醸し出すのは、猛烈な居心地の悪さだ。  そんな閉塞感に満ちた環境にあって、赤い塗料で「オルゲイ葬儀屋」と書きなぐられた大きな看板は、バードックの目には一服の清涼剤と映った。  お世辞にも

シャムロック ~小説『ユースレス』#4~

 巡回登記団による調査が開始されたフロンティアの惑星では、ゴライアス惑星開発公社の活動がにわかに活発になる。  惑星の可住陸地面積の三十九パーセントを手に入れ、所有権を登記することができれば、事実上その惑星を支配できる仕組みになっているからだ。ゴライアスはありとあらゆる手を使って土地の買い占めにかかる。  フロンティアは銀河連邦に加盟しておらず、国家も成立していない。つまり法律が存在しない。どんな悪どいことをしても罪に問われるおそれがないので、ゴライアスは時には実力行使で

アデリン ~小説『ユースレス』#5~

 アデリン・レイズウィッシュは夜明け前に目を覚ました。  足音を立てないようにそっとベッドから床に下りる。いつもの習慣で、まず隣の部屋をのぞいて愛娘ジェイが安らかに眠っているのを確認してから、身づくろいをし、一階へ下りた。  ――教義通り、日の出と共に労働を始め、日の入りと共に休息する。そんな生活を始めてもう二十年近い。  アデリンは今の生活に満足していた。現代文明の恩恵の大半を放棄した暮らしは不便なことも多いが、規則正しい生活習慣、常にこぎれいに整頓された家、秩序を重

馬面 ~小説『ユースレス』#6~

 バードック・ヘロッドの体のうち“自前”のパーツは脳とその周辺組織だけで、あとはすべてが機械だった。古代地球のレムナント・テクノロジーを総動員して《中央》の秘密機関が極秘裏に開発した、最高の強度と機能性を誇る機械体だ。  彼の機械部分は、猛火にさらされても、まったくダメージを受けていなかった。  脳も、高性能の耐熱・耐衝撃容器に格納されているおかげで無事だった。  唯一の問題は、彼の機械体を覆っていた生体皮殻が、燃えてなくなってしまったことだ。生体皮殻がないと機械体がむ

ジェイ ~小説『ユースレス』#7~

 コムロミーがさっそく移動のための便を手配したので、バードックは翌日便のシャトルで、惑星の衛星軌道上をめぐる軍艦へ「昇る」ことになった。  シャトルまで、バードックは医療用カプセルに入れられた状態で移動した。  伍長と愉快なポーカー仲間たちの手を借りて、さんざん苦労して生体皮殻を着込んだものの、「皮」が機械体になじみ、人工神経がうまく接続するまで二十時間はかかる。接続が完了するまで、なるべく体を動かさない方がいい。  バードックは、腹の上にトムを乗せて、カプセルの中で横