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サカ親の矜持

ブブブ

デスクの隅に置かれたスマホが短く振動した。上司から今日中と無茶ぶりされたPowerPoint資料は、さっきから全く進んでいない。終業まであと1時間だ。今日も残業か。半ば観念してスマホを手に取った。LINE通知である。

「何書けばいい」

遠征中の息子(14歳)からの素っ気ないメッセージだ。家族LINEに届いている。 やれやれ。もう少し伝わる日本語が書けないものか。だから国語の勉強をきちんとしなさいと言っているのだ。だいたい本を読まないからこういう文章しか書けないんだ。苦々しい気持ちでスマホを元の場所に戻し、PowerPointに視線を戻す。

ブブブ

「なんのこと?」再び家族LINE。今度は妻だ。

すぐに息子の返信がある。

「今日の試合のコメントを募集してるんだけど何か書いたほうがいいよね?」

ようやくわかった。どうやら参加している大会で、選手コメントを求められているらしい。JFAやゲキサカでよく見るあれだ。参加選手が意気込みや感想をコメントする、あれに違いない。

いよいよ来たか。わたしは喜び勇んでスマホを左手に持ち直すと、息子になり切って入力を始めた。

この大会に向けた意気込みと課題認識、そして自分(息子)が目指す姿についての模範コメントだ。もちろん大会を主催いただいた皆様への感謝の意も忘れてはならない。

PowerPoint資料は手つかずのままだ。


 ナショトレや代表活動に参加すると、メディアからインタビューを受けたり、WEBサイトに掲載するコメントを求められることがあります。 私たち家族もかつて、先輩たちのインタビュー記事やコメントに強い憧れを抱いたものです。

しかし、いざ息子がコメントする立場になると心配でたまりません。お願いだから原稿チェックさせて頂けないか。サカ親の本音です。

こうしたインタビューにスラスラと答える選手は、日ごろから自分の課題や目標を言語化できているのだなあと感心します。

ファンを喜ばせるヒーローインタビューではなく、自分自身に矢印を向けたコメントができるように努めてほしいと思います。 わたし自身も、子どもとの関わり方をきちんと言語化できるように努力します。

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