ダンシング・ストーン

「ねえ、大学生っていいわね、暇そうで」
「大学、行かなかったの? 」
「高校だって途中でやめちゃったわ」
「どうして? 」
「子供ができたの」
「それが、今の旦那? 」
「そう。ねえ、あんまりいろんなこと聞かないでよ」
「ごめん」
「だからね、今のあなたみたいな生き方、憧れるの。君は私の知らないことをたくさん教えてくれるし、難しい言葉を使わないし。それって結構体力のいることでしょう? 」
「簡単な言葉で話すことが? 」
「そう」
「馬鹿なだけだよ」
「ねえ、どうして私は高校の時子供なんて作ったのかしら? 」
「知らないよ、ねえ、家に帰らなくていいの? 」
「そんなこと言わないでよ。今の私は、自由なの」
「旦那が家で寝てるからね」
「そう。起きる前に帰ればいいんだから。ほら、グラス二っつ持ってきて」
「まだ飲むの」
「飲まないの? 」
「飲むよ、ウィスキーかビールしかないけど、ビールってわけにもいかないよな」
「なんでもいいわ、早く持ってきて座ってよ」
「わかったよ、ちょっと待ってて。灰皿、使う? 」
「外で吸うからいいわ。じゃあ吸ってる間に準備してね、ウィスキーと、カシューナッツ。他のはいらないから、アーモンドなんか混ぜないでね」
「くさいんだよな、マルボロ」
「なにを、偉そうに」
「ごめんごめん、ほら、準備できたよ、カシューナッツ」
「ありがと。バーテンにでもなったら? 」
「こんなの誰でもできるよ、まあでも、就職するのもアホくさい」
「そんなこと言わない。君は早く大人の苦労を知った方がいいよ。そしてしこたま儲けて遊んでごらん。今の君の遊び方とは桁違いだし、金で得た自由は素敵よ。大学生みたいに、暇じゃないけど」
「はは、そうだね」
「話、聞いてた? 」
「カシューナッツの話でしょ」
「ねえ」
「あ、そうだ。渡したいものがあるんだ」
「なにこれ」
「ダンシングストーンって言って、ずうっと揺れて光ってるように見えるでしょう? 特別なカットをしてるんだって。それと君が好きって言ってた乗馬にちなんで馬の蹄の形をしてる。幸運をもたらす」
「高かったでしょ」
「ちょっとね」
「いらない」
「え? 」
「そういうんじゃないのよ」
「そういうんじゃない」
「君から言葉をもらうのが好きだったのよ。お金なんか、あるんだから」
「お金じゃない」
「お金みたいなものよ」
「じゃあ、言葉だってお金みたいなものだ」
「人はみんなお金のために生きているのね」
「そうさ」
「早く大人になりなよ」
「早く大人になりたいよ」
「じゃあね、今日は帰るわ」
「うん、またね」

ネックレスは寂しそうに光りながら踊っている。

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