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アート作家支援で目指す、 多様な生き方選べる世界

#28 Createrminal代表 安藤直太郎さん

「アートの閉鎖的な業界を変える」という思いの下、カフェでの企画展示会開催などを行う団体、Createrminal。代表の安藤直太郎さんに、アート作家やファンをとりまく環境の問題点から、創造的なアイディアを生み出す秘訣、今後の展望までを伺いました。アート界の発展はもちろん、社会の多様性向上にも貢献する活動とは。

「現場」で繋げる アートと人

-Createrminalを創業したきっかけは。

安藤 「デザインフェスタ」という有名なアートイベントで、会場を埋め尽くすくらい大勢のアート作家さんがいるのを見て、「これだけ多様な表現があるのに、もっと身近に作品を好きになれる機会が少ないのは勿体ない」と感じたんです。著名な芸術大学で研鑽を積んだ方でさえもデザインやアートの職に就けず、お金の心配をしながら生活して、例えば死後はじめて作品が評価される、といった状況はなくしたい。そこで、共同創業者と2人でCreaterminalを立上げました。ITエンジニアなど、協力してくれる人が徐々に増えていき、今はアルバイトも含め総勢10名くらいでやっています。

-すごい行動力ですね!どのような活動を。

安藤 現在の主な活動は、カフェでの企画展示と、作家さんによるコラボデザインです。当初は作品マッチングサイトの製作から始めたのですが、理由がなければ人はわざわざ見に来ません。そこで、ネットの世界ではなく「現場」でのマッチングを志向し、カフェでの展示を始めました。当初から「固定資産を持たない」という方針で固定費を抑制しているので、紆余曲折の中でも黒字を維持し続けています。

-ずっと黒字経営とは、素晴らしいですね。カフェでの企画展示とは何ですか。

安藤 作品展示の経験がない一般的なカフェにノウハウを提供し、遊休スペースをお借りして作品を展示しています。これにより、現代アートに触れてこなかった方たちが、ギャラリーでしか見られないような作品を身近に見ることができるようになり、新たなマッチングの場が生まれました。

閉じたアート界変えるアイディア 皆で醸成

-ギャラリーって敷居が高いイメージがあるので、アートには多少興味があっても、行こうと思ったことすらないです…。

安藤 そうですよね、銀座の古めかしいビルにあったりして。私も最初、緊張しながら行っていました。カフェでの展示は、場所へのハードルを低くすることでアートを楽しむ環境を整え、アートと人とを繋げています。展示会でお金を儲けたり、作家さんを囲ってアート団体を名乗ったりする手法はよく見られるものですが、我々はそうした既存のやり方を採るのではなく、今までにないものを提供してアートの閉じた業界を変えていきたいのです。

-カフェなら気軽に行きやすいですし、偶然来たお客さんにも知ってもらうことができますね。

安藤 そうです。今、吉祥寺、高円寺、池袋、大塚など都内のカフェ8か所くらいと契約させていただいています。しかし、ただカフェに絵が飾ってあるだけではなかなか観てもらえないので、第2段階として、「コラボデザイン」の提供を行っています。最近では、プリンの美味しいお店として有名な池袋のSUNNY DAYS pudding cafeさんに、作品展示とコラボデザインの両方をご利用いただいています。

-コラボデザインとはどういったものですか。

安藤 作家さんとお店を仲介し、デザイン会社に頼むより手頃な価格でお店にデザインを提供するのです。例えば、お店の看板や、デパートの催事に出展する商品の限定パッケージなどにご活用いただいています。前述のSUNNY DAYS pudding cafeさんでは、期間限定のコラボメニューも提供しています。そうすると、作家さんの絵が飾られていることにカフェのお客さんが気づきやすくなります。今後は、例えば地方のお土産屋さんや道の駅で売られている個人農家さんの手作りジャムといった商品も、ラベルのデザインを変えれば人気が出そうなのに勿体ないと感じるものはたくさんあるので、カフェ以外にも展開していきたいです。

アート作家がデザインした、SUNNY DAYS pudding caféのメニューと商品(Createrminal提供)

-作家さん、お店、アートファンのいずれにとっても役に立つ活動ですね。崇高な理念と創造的な手法に感銘を受けています。安藤さんお一人でアイディアを出されているのですか。

安藤 私から発案することもありますが、メンバーと一緒にアイディア出しを行うことが多いです。他にも、イベントで関わる作家さんやカフェの方々と話をする中で新しいアイディアが生まれたり、ブラッシュアップされたりすることも多々ありますよ。お客さんの声を聴いて大きな構想を描き、それをITエンジニアなどの専門家にフィードバックして具現化する。そのプロセスは、コンサルティングや提案活動と良く似ています。

-関係者の思いやスキルが相互に作用し合って、新たな価値が醸成されていくのですね、素敵です。

ビジネス力育成で作家志望者の道拓く

-2つの事業でこれまでも多くの作家さんやカフェの役に立ってきたと思いますが、今後の展望は。

安藤 アート作家を夢見る若い人たちに、キャリアのロードマップを示してあげることで、より多様な生き方が認められるような世の中にすることが今後の目標です。今の閉じたアート界では、作家として生きていくノウハウは曖昧で外から見えづらいので、「自分のなりたい作家像になるためにはどんな経験をしてどんな能力を身に付ければ良いのか」がわからずに困ってしまうかもしれません。その結果、その道を目指すリスクが大きく感じられ、家族などの反対を受けて諦める人も多いでしょう。

-確かに、周りの反対は多そうですね。

安藤 はい。多様性を謳いながらも、アート作家のように人と違う生き方を選択する場合のキャリア開拓は本人に丸投げ、というのでは社会として無責任です。そこで、アート作家のモデルケースのようなものを示してあげたいのです。

-具体的に何か始めていますか。

安藤 まずは美術大学や専門学校とカフェを運営する企業様の連携を仲介して、アート作家志望者がビジネス的なノウハウを身に付けられるようなカリキュラムの提供を企画しています。学生さんが自らカフェに要件を伺って、展示会やデザインをプロデュースする経験を積む機会を作ってあげたいのです。カフェの企業様とは話を始めており、今後は学校様とも具体的な調整を進めていく予定です。

-夢を持つ人たちの可能性が広がりますね。

安藤 もう一つ、イベント管理システムの構築にも取り組む予定です。通常、大きなアートイベントがあると、主催者となるギャラリーやイベンターが個々に大勢の作家さんとメールなどでやり取りするので、情報管理は非常に煩雑です。特に作家さんはビジネス的なことが苦手な方が多いので、主催者は納期の管理などで大変な思いをします。そこで、登録データとワークフローを一緒に見られるようなシステムの提供を考えています。ギャラリー、イベンター、作家、ファンが繋がるサイトを作り、その機能としてサービス化できると思っています。

-実現すれば、作家さんがより生きやすい世の中になりそうですね。Createrminalは、ゼロベースで作家さんの支援活動を始められてから今年で8年目を迎えられています。現在まで困難もあったかと思いますが、そのモチベーションはどこから来るのでしょう。

安藤 多様な人がより生きやすい社会を作るために何かしたいという気持ちです。法哲学を勉強していた学生時代以降、「生きていると、閉じた世界の価値観に縛られることが多いけれど、本来はもっと開かれた多様な価値観で評価されるべきだ」という想いから、社会問題への関心を持ち続けてきました。それが私の原動力です。

※ 取材内容は2023年12月時点のものです。

Createrminal 

事業内容:クリエイターの作品展示、コラボデザイン、カフェグッズ販売 
ウェブサイト:
https://portal.createrminal.com
X:
https://twitter.com/createrminal
Instagram:
https://www.instagram.com/createrminal/

(余録)「アートの世界をオープンにする」という理念の中に、浮世絵など庶民向けの芸術が発展してきた日本文化の伝統に通じるものを感じました。カジュアルに作品を楽しめるカフェは、訪日観光客にとっても最先端の日本らしさを体感する魅力的な場となるはずです。Createrminalの活動は、文化の発信と発展に貢献する、とても大きな可能性を秘めているのではないでしょうか。(藤井真奈香)

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