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No.2 荒野を駆ける(1)

Ⅰ.「分岐とか言うな!」

「え、分岐とか言ってないけど?」「分岐なんて言ってごめんなさい?」などと思わせただろうか。
勿論、この記録を読んでくれる人々への言葉ではない。アメリカ・ドライヴ中に「この先、分岐があります」などとのたまった、ナビ(地図アプリ)に向けた言葉である。ナビが行く先に分岐があると判断すればこのように警告するので、「分岐とか言うな!」と1日複数回叫ぶのは珍しくなかった。運転席と助手席両方からそんな台詞が飛んでくるのだから、きっとナビを作動させていた筆者らのスマホはさぞかし驚いたものと推察する。(まあ車内での台詞であって、Twitter(現X)への投稿ではないのだから一言一句同じことを何度言ったって問題はない。)

しかし本来、分岐しているよとナビがご丁寧に教えてくれているだけの台詞のはずだ。何故これほど分岐に敏感になったのか……今回はその経緯について、運転初日の出来事なども含めて記述する。


Ⅱ.そのときはやってきた

(図1)オークランド・ベイブリッジを抜けてすぐの道。曇りの日だった

「この先、分岐があります」 
ナビが恐ろしいことを言い放つ。アメリカ・ドライヴ開幕30分くらいの我々に対して。
助手席の筆者は景色から道路に視線を移す……先程まで片側5車線だった道路はいつの間にか筆者らのいる車線の右に1つ増えて、今は6車線ある。どれがどう分岐すると言うのだ。
ナビの表示を見る。6車線のうち、一番右を除く、右寄りの車線にいれば良いらしい。まもなく一番右の車線だけ、右に逸れていくのを確認した。なるほど、「分岐があります」というのはこの右車線のことだったか。

胸をなでおろした直後、筆者は混乱した。数十メートル先に新たに分岐が出現したからだ。
まだ道路は6車線で続いていて、一番右の車線は新たに出現した分岐の方向にしか進むことはできない。
しかし問題は筆者らのいる右から二番目の車線。先程の分岐を過ぎた直後、車線の右の白線は点線から実線に変わり、その実線は数十メートル先に出現した新たな右の分岐に続いていくのが見えた。ではこの車線は右方向しか行かないのかと思いきや、引き続き直進もできそうだ。実線に従って右に行くのか、それとも直進か……そもそもこのまま直進したら路肩とかにならないよな?
助けて、ナビ。アメリカの道わかんない。
しかしナビは右寄りの車線にいるよう促すだけで、筆者らのいる車線が良いのか悪いのか判断できない。
道路上の案内板は一瞬で見逃した。さて、この直進と右方向を選べる車線、どっちに行くべきか……右にしよう。

直後、ナビがルートを再検索し、予測所要時間が増加した。ああ、もう道間違えた。ナビの言う分岐って、いま間違えたこの分岐のことだったのだ。
こうして我々の迷走が発生した。アメリカ・ドライヴ開幕約35分後のことだった。

Ⅲ.アメリカ・ドライヴ開幕

そもそも最初から予定調和など気配すら微塵もなかった筆者らのアメリカ・ドライヴ、少し遡って開幕直後の様子も記しておく。

1.行く手を阻むケーブルカー

宿泊したホステルで預けていた荷物を受け取った後、筆者らは交代しながら簡単に車の操作を確認した上で出発した。アメリカ・ドライヴの開幕だ。計画より1時間は遅れが生じていたが。

出発直後に立ちはだかった壁が、ケーブルカーである。
サンフランシスコの有名なケーブルカーは路面電車のように車道を走っている。滞在中はフリーパスで大いに利用させてもらった楽しい思い出があるが、こちらが車を使うとなると話は別だ。車がケーブルカーの走行の邪魔などしたらどうなるか? 車は鐘をけたたましく鳴らされ催促される。運転者を焦らせる効果は十分だろう。
一方、ナビ(地図アプリ)の方は最速ルートを優先し、運転者が初心者であろうと観光客だろうとお構いなしに、ケーブルカーの通る道を提案してくれる。こういう時にはナビにしっかり背いて線路を意図的に避け、ルートを検索し直すのがベストだ。

(図2)ケーブルカーの線路。ケーブルカー乗車中に撮影

2.開幕20分程度で左から合流

右車線を走る国なので、基本的には右から合流、かつ左側の車線の方が車の流れは速い。しかし筆者らがサンフランシスコのオークランド・ベイブリッジのあたりに合流した際、左から合流だったため、開幕20分程度で車が最速で走る車線に割り込む必要があった。制限速度は時速50マイル(約時速80km)だったが恐らくあの車線の車は時速100kmかそれ以上は出ていたのではないかと思う。運転していた友人、GJ。

3.雨も降っていないのにワイパーが動きまくる車の誕生

右車線の走行よりも慣れるのに時間がかかったことがある。
ワイパーとウインカーのレバーの位置が左右逆という点だ(走行する車線が左の国か右の国かで位置が異なる)。つまり日本の感覚でウインカーを出すと、ウインカーでなくワイパーが作動する。これに慣れるまでは雨も降ってないのに突然ワイパーを作動させながら右左折したり合流したりする車が爆誕する。

(図3)ウインカーが左
(図4)ワイパーが右

でも心配はいらない! ウインカーも出さずに車線変更、などその後のドライヴでたくさん目にすることになったから。車線変更でウインカーを出すという志がもう既に立派なんだなと思っていた。(アメリカ・ドライヴ中、だんだんこういうマインドになっていく)

Ⅳ.到着:ソノラ

(図5)ソノラの教会

交代しながら運転すること約5時間(途中の休憩も含む)。
序盤にやや迷走したものの、他はそれほど大きくミスすることなくソノラに到着した(したとすれば、宿泊先のインをうっかり通り過ぎたくらいか)。最初の分岐を間違えず元のルートをずっと使う場合でもソノラへは結局同じ道を使うようだったので、迷走は大したロスではなかった。
予定が押し気味でスケジュール担当(筆者)としてはヒヤヒヤしたが、日が暮れる時間にはまだ余裕がある状態でたどり着けたのはアメリカ・ドライヴ初心者としては満点と言えよう。

アメリカはどうしても治安がそれほど良くないという印象が強く、どの都市や地域でも日が暮れてからの活動は避けた。しかし旅行全体を振り返ってもソノラは雰囲気が良く、住民も静かに暮らすのどかな街という印象でとても好感が持てる街だったように思う。

Ⅴ.おわりに

今回はアメリカ・ドライヴ中で最も記憶に色濃く残った初日について紹介した。2日目以降のエピソードなどについてはまた別の記事で。

アメリカ・ドライヴ、出だしこそ緊張する場面の多かった筆者らも、昼食のため休憩を入れる頃からは落ち着いて運転できるようになっていった。都市は交通量も車線も多く道も複雑になるので運転の難易度は上がるが、都市を離れればルートの大半はハイウェイ(フリーウェイ)をひたすら走るので比較的気軽に運転できる。そのため運転者の好きな音楽をかけたり、風景を楽しむ余裕が出てきたのだ。

それでも運転中の筆者らにナビが恐るべきあの言葉を発したら──この先、分岐があります──迷わず叫ぶようになってしまった。

「分岐とか言うな!」

No.2 荒野を駆ける(1) 終


【追記】

前回記事(No.1 煙るマグレブに降り立つ|GymSlideBoy (note.com))、本日時点で「スキ」を10以上もいただけて驚いております。
読んでくださった皆さん、ありがとうございます!

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