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「楽しさの伝染」・・・戦後の悲劇は・・・朗読劇「帰郷」。


朗読の聖地となりつつある野方のブックトレードカフェ「どうひん」で、浅田次郎原作「帰郷」の朗読を拝聴した。

「拝聴」というのは少し間違っているかもしれない。

本を持って読む場面はあるものの、ほとんどが内容を暗記しての芝居スタイルである。
衣装から照明、冒頭の資料映像の投影など原作の時代背景へのイメージ補完にも力がそそがれている。

開演直後、出演者の神由紀子さんの「ほ~しの流れに身を占って・・・」という「星の流れに」の歌詞が聞こえてくると、一気に懐かしさが湧き上がった。

勿論私は戦前戦中の世代では無いが、この「星の流れに」の歌詞は小学生の時に、藤圭子や八代亜紀がカバーしていると映画にも使われているので、いつの間にか焼け跡の風景と派手な化粧の女性たちのイメージとともに刷り込まれている。小学生のくせに歌の最後に「お兄さん。遊んでかない」とセリフまで口ずさんでいたのだから、知らないという事は恐ろしい事である。

話はそれたが、神さんのたくましい歌声と朗読は、毎回背筋の伸びる思いがする。凛としていて、こちらもしっかり聞かなければ、と思わせてくれる。

後半オーバーラップするようにもう一人の出演者中野順二さんが登場。
主宰でもある中野さんは、朗読会でも本を持たない。
それに賛否がある事も十分承知で、自分のスタイルを貫いている。
役者としてのパフォーマンス向上という意味もあるのかもしれないし、
何よりそのスタイルが好きなのであろう。
今回は、よりはっきりと「好き」が感じられた。

さらに物語の進行に合わせて二人の出演者が交錯して芝居は続く。
クライマックスは、最後に中野さんが朗々と歌い上げる「清く正しく美しく」である。

本当に気持ちよく歌っていて、
ああ。これがやりたくて企画したんだな、と素直に感じとれる。

出演者の思いが強すぎると、やや引き気味になるところだが、
今回は中野さんの気持ちよさが観客にも素直に伝染し、楽しめた。

終演後、「生きてきて今が最高の気分!!!」と叫んだ気持ちも良く分かる。
観客の中には、感極まって号泣している人もいたのである。

これまで幾度か朗読会や芝居にかかわらせて頂いたが、
作品を作り上げていく方法にはいくつかあると思う。
ひとつは、出演者を徹底的に罵倒し、時には灰皿を投げつけ、
「こんちくしょう」という気持ちをエネルギーとする方法。
もう一つは、とにかく出演者が楽しめるように持って行く方法。
さらには、相手の気持ちの裏をかいていく方法など、演出や出演者によって
違いがあるのである。

それぞれ、出演者が委縮したり、楽しむことに重点が置かれ過ぎて観客が置いてけぼりになるなどの問題点もあるが、
今回はそんな心配がなく、本当に出演者の楽しいという心が会場いっぱいに伝染した会であった。

中野順二さん、神由紀子さんともに、多忙なお二人で、今後様々な芝居朗読会が予定されている。まだご覧になっていない方は、是非検索してご覧になって頂きたい。


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