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「海の向こうに見た夢」・・・ある寺に残る東方見聞録の記憶


旅での出会いで生まれた物語の数々を紹介していきます。


旅には、幾通りもの始まり方があり、幾通りもの終わり方がある。旅に出る時は決して内向きになってはいけない。

『海の向こうに見た夢』

旅の終わりにあって、男は我が身の置き所を迷っていた。

「鶏口牛後。
このまま都に帰り、組織に収まって楽に生きようか
それとも外の世界に挑み、苦労を枕とする生き方を選ぼうか。

男は、あてもなく彷徨い、報恩寺の山門をくぐった。

伽藍の中に、たくさんの仏像が飾られていた。五百羅漢だ。
五百人の僧が、ひとり一人信念と志をもって
釈迦の教えを広めていったことを表す五百羅漢。

この像の中には自分と似た顔つきの羅漢像があるという
それを見つけた時、救いを求める者は、自らの生き方について
何を考えるのであろうか。

男は、端から羅漢像を眺めていった。

怒り、笑い、喜び、悩み。
モノ言わぬ羅漢像だが、その表情は多弁だった。


ふと男の目が一体の羅漢像に止まった。

僧衣の像の中にあって、珍しい洋風の衣装に身を包んでいる。

脇に書かれた名前は・・・マルコポーロ。


「あの東方見聞録のマルコポーロなのか」

男はその羅漢像を凝視した。

遠く海の向こうを見据えているようなマルコポーロの羅漢像は
男に何かを問いかけてくる気がする。

「お前の羅針盤は、外への道を示しているか?」

男はどこまでも広がる大海原の真っただ中にいるような気がした。

「航海の果てには、新たな地平が待っている」

男は、迷う事を止めた。

迷っているのも、分かった気になるのも時間の無駄だ。
そんな時間があれば、未知の世界に少しでも触れたい。

男は伽藍を出て歩き出した。


信念も目標も歩いているうちに見つければ良い。
今はただ、外へ向かうのだ。


                 おわり

報恩寺は、岩手県盛岡市にある曹洞宗のお寺です。
五百羅漢は、享保16年(1731)に京都の仏師9人が4年の歳月をかけて製作したそうです。
仏陀に常に付き添っていた500人の弟子を表すものとも言われています。
この寺の五百羅漢は、印度や中国の僧の姿をしているものもあり、マルコポーロや
フビライハンであるといわれるものが有名です。


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