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「キキラちゃんの帰還」・・・怪談。人形を拾ってから起こった事とは。


雨の降る夜、会社から帰る途中で、道端の茂みの中に
捨てられていた人形を拾った。
ソバージュの頭に色黒の肌。派手な色の服、ビニール製でどこか外国のお土産のようにも見えるが、まだ奇麗な状態だった。

足の裏に「キキラちゃん」とマジックで書かれていた。
何となく可哀そうになって家に連れて帰ったのだが、
それ以来、我が家に奇妙な出来事が続発した。

頻繁にラップ音がするようになり、閉めたはずのドアが開いていたり、
誰も居ないのにシャワーが流れたり、無人の部屋に人の気配がしたり
と枚挙にいとまがない。

俺は何となく原因が、キキラにあるような気がして、
元あった場所に捨ててくることにした。

元の茂みにキキラちゃんを丁寧に置くと、手を合わせて、
心の中で「ごめんね」と呟いた。

後ろ髪をひかれる思いで家に帰って来ると、
玄関の靴箱の上に、ちょこんとキキラが座っていた。

俺はキキラを掴んで家を飛び出ると、今度は近くの水路に捨てた。
息を切らせて家に戻ると、ずぶ濡れのキキラがドアのノブに引っかかっていた。

それから毎日、俺はキキラを捨てに行った。

隣町のゴミステーションに捨てたり、
長距離トラックの荷台に投げ込んだり、
最後はバーベキュー場の焼却炉に投げ込みもしたが、
必ず翌日までには戻って来た。

しかし、今日、キキラは帰って来なかった。
会社に持って行き、大型シュレッダーの中に放り込んだ。

俺はほっとした。
ところが、翌日には、ちょっとした暗闇を見つけると、
その中にキキラが居るのではないか、と探してしまうように
なってしまった。
玄関に何かが当たる音がすると、帰って来たのではないかと思って
いそいそとドアを開けようとしてる自分が恐ろしい。
いつの間にか、俺はキキラちゃんに心を惹かれていたのだ。

だが、最近ではそれも解決しようとしている。

常に俺の視野の隅に、キキラが居るようになったのだ。
見える世界の端っこに、こちらを見つめるように、
チラッと現れる。それをしっかりと見つめようと、
目を端に向けるが、かくれんぼをしているように視野の外に消えてしまう。

何度見ようとしても、視野の真ん中には現れてくれない。

俺は今でも、ずっと恋しい人を追い続けるように、
目線をぐるぐると廻し続けているのだ。

        おわり


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