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「鬼待峠の雨」・・・AIが書いてない物語。

AIの話が続いたので、ちょっとAIが書いたのではない物語を。

梅雨入りしたので、雨の物語、旅をしていて思いつきました。

鬼待峠の雨  作:夢乃玉堂

その峠は、余りの険しさに遭難する人が後を絶たず、
いつしか鬼が待つ峠、鬼待峠(おにまちのとうげ)と呼ばれるようになっておりました。

6月のある日、鬼待峠は、朝から激しい雨に襲われたのでございます。

峠のふもとにある宿場では、
行商人たちがなすすべもなく、降り続く雨を見守っておりました。

「このまま足止めを食っていたら、取引に間に合わない」

「大きな商いなのに、商売敵に先を越されてしまう」

皆、口には出しませんが、
心の中は不安に囚われていた事でございましょう。

夜半になり、雨が上がると、
無謀にも夜の峠越えを考える者も出て参りました。

「雨上がりの峠は、昼間でも危ないのに、夜に峠越えなどとんでもない。
おやめなさい。この先は鬼が待つという鬼待峠じゃ。悪い事は言わん。
夜が明けるまでお待ちなせい」

「いいや。行く。行かねばならんのだ」

宿の主人が止める声を聞くものなど、一人もおりません。
我先に勘定を済ませ、宿を立とうとする行商人たちで
笠木の宿はにわかに騒がしくなりました。

その時でございます。

宿場の中程にある小さな宿から
幼子が歌う数え歌が聞こえてきたのでございます。

「いちかけて、一歩一歩をおろそかにするな いつも鬼が狙ってる。
二かけて、逃げるは卑怯と思いもするが 大事な荷物を守らなならん。
三かけて、散々苦労を積みあげたとて 焦ってこけては谷の底。
四かけて、仕掛けを急ぐはただ空回り 果報は寝てまで・・・」

数をたぐり連なっていく数え歌の思いが
行商人たちのはやる心をなだめたのでございましょう。
皆一様に腰を落ち着け始めました。

「焦らずとも、一つ二つと積み重ねてきたものが自分にはある。」

「足止めは、骨休みのための天の恵みじゃ」

そんな風に話しだす旅人もおります。


その翌朝、鬼待ち峠の空は新たな旅立ちを祝福するかのように
晴れ上がり、行商人たち峠越えの道に入っていったのでございました。

        おわり


人間の作った物語 加筆改訂


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