日記 アラームで起きない、〜2024.2.14
2/14(水) 日記
仕事後、レイトショーで『夜明けのすべて』を見ていた。
鑑賞後にスマホを見たら知らない電話番号から着信が入っていて、調べたら横浜の病院だった。
父親が亡くなった、と知らされた。
電話口からは「駅で倒れて」とか「心肺停止」とか「受け入れがたいとは思いますが」とかいろいろな言葉が細切れに聞こえてきて、私ははいと大丈夫ですを何度も繰り返した。
今から病院まで来れますかと聞かれ、はい行きますと答える。
病院からの電話を切ったあと、TOHOシネマズ新宿の床にしゃがみ込んだまま元恋人・ヤマモトさんに電話をかけた。
ヤマモトさんの声を聞かなきゃだめだと思った。
「あれ、どうした?」の声に「どうしんだろう、どうしんだろうな」としか言えずにいたら涙が止まらなくなってしまい、やっとの思いで「パパが死んだ」と伝えた。今思えばもっといい言葉があった気がする。
この足で横浜の病院に向かうことを伝えたら「大丈夫?ひとりで行ける?」と言ってくれて、私は頷きながら大丈夫と答える。
ヤマモトさんの声を聞いたら冷静になり、もう一度大丈夫、ありがとうと言ってから電話を切った。
数分後、ヤマモトさんから「東北沢まで来れる?車借りたから一緒に行こう」と電話が来て、結局付き添ってもらうことにした。
私の大丈夫はこんなに簡単に崩れるのか、と思った。
病院以外の場所で亡くなった場合(父は駅のエスカレーターで突然倒れたらしい。後になって心筋梗塞だったとわかった)、病院では死亡届を出せないため一旦最寄りの警察署に引き取られるようで、目的地が病院から警察署に変更になった。
父親は一度大きな怪我をしてから「人間いつ死ぬか分かんないんだからさ!」が口癖だったのだけど、こんな盛大な伏線回収ないだろ!と車中でヤマモトさんとやいやい言って笑った。
そういうこと言う人って大概長生きするじゃんか。
署に着いたのは24時半過ぎだった。
署に着いてからは警察官の方と諸々(持病の話とかここ最近体調はどうだったかとか、あとはこのあとの流れについてとか)を話し、あとはただひたすら座って待っていた。
本部の承認が取れたらお父様に会えますのでと言われ、無限待機タイムもお利口にする。
父親と戸籍上で「親族」にあたるのは私だけなので、いろいろな局面の判断が私に任されることになる。
あまりにも唐突で感情の置き場が見つからない上にやらなくちゃいけないことの多さに面食らい、文字通り悲しむ暇もないな、、と思った。
と、各所で言っているけど本当はそんなこともなく、とてつもなく悲しいけどそれに蓋をして動き続けている、という感じ。
人の前では泣かないというよりは、人の前では泣けない、に近い。
ヤマモトさんは時折くだらない話を挟みながら葬儀屋さんを探したり(こんなにすぐに見つけなきゃいけないなんて知らなかった)、「身内 死んだとき」と検索する私に「亡くなったって言いなさい」と至極真っ当な説教をしたりしてくれた。
生前父は火葬だけでいい、墓はいらんから散骨してくれよ、とよく言っていた(し私もそのつもりだった)のだけど、いざ死なれるとそうもいかんだろ、、の気持ちになることが分かった。
時間だけがどんどん過ぎていき、さすがにヤマモトさんも疲れた顔をしていた。
明日も仕事なのにごめんね、と私は何度も言って、彼はその度に「ぜ〜んぜん」「連絡もらえて本当に良かったよ」と繰り返した。
「優しすぎる、いい男すぎる」と言ったら「まあね」と得意気な顔をされたので、どさくさに紛れて「結婚しよ」と言う。
笑いながら「ダメです」と返され、は?いいだろ別に結婚くらい、と思った。
父親に会えたのは署に着いてから4時間後だった。
こちらです、と駐車場を抜けた先の遺体安置所に案内される。
泣きませんように、動じませんように、と思いながらヤマモトさんよりも少し先を歩いた。
遺体安置所って本当にこんな感じなんだね、寒いのかなんなのか全身が震えて仕方なかった。
「多少傷はあるけども、とてもきれいですよ」と言われ、深呼吸を3回してからゆっくり顔を見る。
本当にきれいで、月並みな言葉だけど眠ってるみたいだった。
そういえばこの人シュッとしていてかなり男前なんだったわ、と思った。
どうしようもない、ろくでもないところもあったけれど、自由で賢くて口がうまくてユーモアがあって愛が深い、格好良い人だった。
面会を終え、また受付で待機。
ヤマモトさんに手を差し出したら両手で包むように握ってくれた。
あったかいことに安心して、前を向いたまま少し泣いた。
結局、署を出たのは5時過ぎだった。
署を出てすぐ、父のスマホが鳴っていることに気付く。
慌ててバッグから出すと「はっやっく♪おっき〜ろよ♪はっやっく♪おっき〜ろよ♪♪」というアホみたいに愉快なメロディーのアラームが鳴っていて、あまりのポップさにヤマモトさんと顔を見合わせてゲラゲラ笑った。
「早く起きなきゃ遅刻するぞ♪♪」と鳴り続けるスマホに、もう起きないよ、起きることはないんだよ〜〜と話しかけながらアラームを止め、ヤマモトさんにバレないようにこっそり泣いた。
めちゃくちゃ体張った笑いを提供してくるじゃん、勘弁してくれよ
ひとしきり笑ったあと、ヤマモトさんにハグして、と頼みハグしてもらう。
よく頑張ったねぇと言いながら背中を撫でてくれて、今日隣にこの人がいてよかったなと思った。
家に帰って数時間寝たあと、父の元恋人・アヤノさんに連絡した。
アヤノさんは子どもみたいにわんわん泣いて、こんな風に素直に感情を出せる人が父の近くにいてくれてよかった、と心底思った。
アヤノさんは昨日もラインしてたのにとしゃくり上げながら言っていて、本当ですよね、しか言えなかった。
その後も会社や親交のあった人たちに順に訃報を伝える。
みんな同じような反応で笑ってしまうけど、それくらい突然のことだったのよね。
当日は商談先に向かうために15時過ぎに会社を出たらしく、「じゃあ行ってきます〜」が同僚たちが聞いた最後の言葉だったとのこと。
私は「またね、次はチュクミ食べよ!」だった。
果たさず死ぬなよ。
できなかったこととかしてあげられなかったことなんて無限にあるけど、案外後悔は少ない気がする。
去年末に父と母が離婚して以来15年ぶりに(電話で)会話していたのだけど、それもデカいな〜
2023年の神回が人生の神回になったけど。
お葬式は18日。まだ喪主になんてなりたくなかったよ。
そういえば似ているところばっかりでわたしの中に確かなあなた #tanka
父親の彼女が二十七歳で ウケる、死ぬまで健やかでいて #tanka
もう二度と目覚めることのない人のアラームが鳴り 果てしなく朝 #tanka
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