見出し画像

1話完結ストーリー〈2割くらい実話〉#2 昭和も令和もオカルト大好き

東北在住のとある家族・竹井家の1話完結ストーリー(2割くらいは実話)
【竹井家】

竹井ヒデキ(父)
物事に動じない性格。野球で言えば松井秀喜世代。
竹井アユミ(母)
言葉遣いは荒いが穏やかな性格。野球で言えば 新井(貴)・里崎世代。
竹井リク(長男)
小学校低学年。おしゃべりでコミュ力抜群だが、少し怖がり。
竹井カイ(次男)
幼稚園児。おしゃべりが苦手だが、陽気なマスコット的存在。

「ねぇママ、これできる?」
学校から帰った長男のリクが、人差し指と小指をキツネのように立て、その2本の指先をくっつけてみせた。
「おぉリクすごいな。やわらかいんだな。ママは…うっ」
アユミも真似しようとしたが、指がつりそうになった。

「これができる人はさ、霊感が強いんだよ」
リクは大真面目な顔で言った。
「だから、おれも霊感が強いよ」
アユミは吹き出した。
「おぉ。今度霊が見えたら、どんなだったか教えてくれ」
リクは相変わらず大真面目顔で、首を振った。「違うよ」
「霊は、見えるものじゃない。感じるものなんだよ」
「なんか胡散くせぇな。どうしたんだ」
眉をひそめるアユミをよそに、リクは相変わらず思案顔で、また人差し指と小指をくっつけていた。

*  *  *  *  *

夜、ヒデキが帰宅すると、タブレットをみていたリクが話し出した。
「2025年に、大きな地震が来るんだって。東日本大震災より大きな地震なんだって」
「なんだ、また変な動画みてたのか」
ヒデキは笑って、リクの隣に座った。
「東日本大震災が来るのを当てた人が、言ってるんだよ」

「ノストラダムス的な話になってきたな」
夕食の支度をしていたアユミが、話に入った。
「何、ノストラダムスって」
リクは、カウンターキッチンで作業をするアユミを見上げて聞いた。
預言者よげんしゃだよ。パパとママが子どもの頃、すごく有名だったんだ。1999年7月に恐怖の大王が空から降りてきて、地球は滅びるって予言をしていた」
リクは、ヒデキとアユミを交互に見て言った。
「……どうなったの?1999年」

「なーんにも、起こらなかったよ」
ヒデキがあっさりと言った。
「なかったなぁ、本当に何も。皆、1999年になったら何かが起こるってずっと怖がってたのにな」
アユミは、当時を思い出した。社会人1年目だった。子どもの頃からオカルト本でさんざん見聞きし怯えていた1999年7月は、何事もなく、忙しさと共にあっさり過ぎ去ったのだった。

「ノストラダムスも、あれとこれを当てた人だ、なんて言われてたけどな」
「1999年に関しては、当たらなかったよな」
ヒデキとアユミは口々に言った。懐かしいのだ。彼らの世代でノストラダムスの予言を知らない者は、多分いない。

おぉ話がそれたな、とヒデキはリクに向き直った。
「リク、確かにまたいつか、どこかで大きな地震は来るよ。東日本大震災だって、来るはずないって言われてたような大地震だったからな。絶対そんなの来ない、なんて言えないよな」
「来たら、日本は滅びるのかな?」
リクはヒデキを見つめて聞いた。
「どうかなぁ。東日本のときも本当に大変だったけど、あのときも滅びはしなかったからな」

ふーん、とリクは、少し納得した顔で言った。
「日本、滅びないといいね」
そりゃそうだ、とヒデキは笑った。「お前、妙な怖い動画ばっかりみてんじゃねぇぞ」
「昭和も令和も、子どもはオカルトが好きだよなぁ」
アユミは笑って言った。

トイレに行きたい、とリクはもじもじし始めた。
行って来いよ、とヒデキが言う。
「嫌だ。トイレには霊がいる」
リクの言葉に、ヒデキもアユミも笑った。リクは大真面目だ。
「パパもママも、霊感がないからわからないんだよ。何かいる感じがするんだよ」
ぐずぐず言っているうちに粗相をされても困るので、ヒデキはトイレまでついて行ってやった。

リクはヒデキに、トイレの入り口で待つよう言った。
「あっ、ドアは閉めないで!」
リクは安心したのか、ドアを開けたまま鼻歌を歌って用を足している。
なんだ、トイレや暗い所が怖いだけじゃんか。
アユミは、キッチンで1人笑った。

それにしても、子どもはどうしてオカルトに魅かれるのだろう。あんなに怖がりなのに。
あの頃読んでいたオカルト本は、どこに行ったのだろうな。アユミは子ども時代を懐かしく思い出した。


おわり


↓ ヒデキさんとアユミさん…ではなく、我が家の「3.11」経験談です

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?