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1話完結ストーリー〈2割くらい実話〉#1 謎キャラはキラキラネーム

東北在住のとある家族・竹井家の1話完結ストーリー
■竹井家

竹井ヒデキ(父)
物事に動じない性格。野球で言えば松井秀喜世代。
竹井アユミ(母)
言葉遣いは荒いが穏やかな性格。野球で言えば 新井(貴)・里崎世代。
竹井リク(長男)
小学校低学年。おしゃべりで社交的だが、少し怖がり。
竹井カイ(次男)
幼稚園児。おしゃべりが苦手だが、陽気なマスコット的存在。

次男のカイは落書き用紙にカラーペンで、一心不乱に絵を描いている。
「これ、誰?」
母のアユミは指さして聞いた。
「さとう、ららもくん!」カイは、絵から目を離さず答える。

「さとう ららもくん」と「よねちゃん」はカイの創作した、民芸調のわら人形のようなキャラクターだ。いつも楽し気にブランコのような乗り物に乗っている。「ららもくん」が男の子で、「よねちゃん」が女の子らしい。

カイは5歳だが、同じ年齢の子どもに比べると、明らかに発語が遅い。長男のリクの3歳の頃くらいのレベルだな、とアユミは思っている。

「ねぇ、ららもくんって、誰?」
父のヒデキが聞くが、カイは何も言わない。
「幼稚園の、お友達?」
重ねて聞くヒデキに、カイは決然と答えた。
「ら・ら・も・くん!!」

絵が仕上がった。
「テープ!」
セロハンテープの要求だ。
「はいはい」
アユミはセロハンテープをちぎり、カイに渡した。テープカッターからテープを切ることがまだできないカイのために、ヒデキとアユミは要求されるたびに、セロハンテープを切って渡してやる。

カイはそれで、今描いた「さとう ららもくん」を、壁に貼った。

リビングの壁には、子どもの手のひら大に切った紙に、「ららもくん」「よねちゃん」他カイが自由に描いた絵が無数に貼られている。中には字だけのものもあり、「よねちゃん」「よねよねよ」など鏡文字で書かれている。

「魔除けみたいだな」
壁をしみじみと眺めて、ヒデキが言った。アユミも頷いた。
「どうにも、呪術系なんだよな……作風が」

「ららもくんって、幼稚園の同じクラスにいる?」
ヒデキはアユミに聞いた。
「いや、さすがにいないだろ。いくらキラキラネームでも、ららもくんは」
アユミは笑って答えた。
「じゃ、よねちゃんは?」
「よねちゃんはもっといないだろ。たまに古風な名前の子もいるけど、よねちゃんって」

いや、わからないよ、とヒデキは幼稚園の名簿をめくった。
「くっ、読み仮名が書いてない…皆なんて読むんだ」
ぼやきながら、ヒデキは名簿を目で追った。
「あっ、これ、よねちゃんって読めなくないか?」
そこには、「陽寧」と書かれていた。
「よう、ねい、で、よねか……ありうるな」
アユミはニヤリとしてつぶやいた。
「よし、今度お迎えの時確認してくる。下駄箱には、ひらがなで名前がついてるからな。この子の名字は、と… おっ、珍しい名字だから、きっと確認できるぞ」

*  *  *  *  *

翌日カイを連れて帰宅したアユミは、ヒデキに言った。
「下駄箱確認してきたよ。よねちゃんじゃなかった…」
「違ったか。ちなみに何ちゃんだった?」ヒデキはアユミに聞いた。
「ひなさちゃん、だってよ」
え?とヒデキは聞き返した。
「『さ』はどこからきたんだよ? 陽が『ひな』はなんとなくわかるよ。寧がなんで『さ』なんだよ?」
アユミはふっと笑って、諭すように答えた。
「どこからきたとか、なんでとか考えちゃいけねんだよ。今どきの名前は」

「とにかく、よねちゃんはいなかった。もちろん、さとう ららもくんも」
うーん。夫妻はうなって、カイを見つめた。
「おーいカイ。今日は自由時間、誰と遊んだ?」
ヒデキに聞かれ、カイは満面の笑みで答えた。
「さとう・ららもくん!」
夫妻は顔を見合わせた。
「もも組で、となりの席に座っているのは?」
今度はアユミに聞かれ、カイは、しつこい、というように大声で答えた。
「よ・ね・ちゃん!!」

「もしかして…」
ヒデキはつぶやいた。
「カイにしか、見えない子だったりしてな」
アユミは、こくっと頷いた。

おわり

※ 登場人物の名前は、全て架空です

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