ジャズ喫茶Shazam日記 - 吉祥寺ファンキー
ジャズを聴くようになったのは高校生くらいから。当時はポスト・パンクとかインダストリアルとかにハマっていて、そういうフリーキーな音楽のひとつとしてフリー・ジャズを聴きはじめた。図書館で借りたオーネット・コールマンのライブ盤がいちばんお気に入りで。ほかにも聴き心地よいものが見つかったら受験勉強や読書のBGMに流していた。
成人したくらいからHIPHOPにハマった。その流れでサンプリング・ソースやDJ-Mixの素材としてもジャズを聴くようになっていく。フリーな激しさからチルアウトやスモークへ。流しっぱにするとクサクサした気持ちを落ち着けてくれて。
ジャズ喫茶に行きたくなったきっかけは、映画Blue Giantを見て。やっぱりヘッドホンではなく大音量で音楽を聴くのは気持ちいいなと思った。低音がブンブン身体にぶつかってくる感覚。
でもふつーの集合住宅ずまいじゃ、ボリューム上げて音楽を流すのは気が引ける。スピーカーやアンプの機材をそろえるにも金がかかる。
ここはひとつ大人ぶってジャズ喫茶とか行ってやろう。ははは。とそういう気分だった。
Bar & Kitchen Funky
昼下がりの吉祥寺はよく晴れていた。5月の頭だけれど初夏ばりの陽気。駅前の賑わいを見てふと気づいたけれど、誰も日傘をさしていない。吉祥寺は日傘を差さない街なのか。井の頭公園じゃ陽の光を浴びない奴はモグリなのか。100%偶然だね。
駅から五分くらい歩いたところに Bar & Kitchen Funky がある。ジャズ喫茶というと渋すぎて敷居が高いイメージがあるかもしれないけど、ここはちょっといい雰囲気のカフェって感じだ。コンクリートの外観がかっこいい。誰でもふらっと入れるような。
はじめての飲食店に入るときは少し緊張する。ジャズ喫茶みたいな個人店って有象無象の客を機会的に処理するのではなくて、ひとりひとりしっかり対峙してるイメージがあって、まるで店に入った瞬間から「はじめまして」と改まって名刺交換でもするような気分になってしまう。——絶対に考えすぎだけど、緊張するものはしょうがない。
2Fへ案内される。暗めの落ち着いた店内にジャズが流れてる。フロアにはバーカウンター。テーブルには談笑しているグループの先客がいる。ストイックにジャズを傾聴する場ではなく(そんなところあるのだろうか)BGMにジャズが流れているカフェといった感じ。
わたしは下戸なのでこういうバーに来ることがない。酒を飲めるひとは羨ましいと思う。単純に活動範囲が広がるから。ひとりでバーに行けたら素敵だろうな。まさかカウンターに座ってジンジャーエールでは格好がつかないから。きっと世の中のバーではジュークボックスを鳴らして初対面のひとと踊ったり、廃棄寸前のピンボールを弾いてハイスコアを競ったりしてるんだろう。わたしもやってみたい。
ランチメニューはパスタと紅茶の種類を選べて、サラダもついてきた。パスタは豚のなんかを、紅茶をケニアを頼んだ。美味しい。
落ち着いたところで、流れている音楽をShazamにかける。Shazamは音を認識させるだけで曲を検索できるアプリ。ヒットした音楽はサブスク配信されていればすぐプレイリストに追加できるし。
図書館でディスクガイドを借りたり、店頭POPのレビューを頼りにCDを吟味していた昔に比べたら、あり得ないほど便利。当時それはそれで風情があったけれど。
その日、その店で流れている曲をとっかかりに、自分のライブラリを増やしていくのが楽しい。とくにジャズ喫茶のような店では、DJが選曲するみたいに細かいニュアンスで流す曲を変えているだろうから、一期一会の曲を日記みたく残しておきたい——そう思ってこのnoteを書くことにしたんだった。
The Dave Brubeck Quartet
最初に流れていたのがThe Dave Brubeck Quartet。”Take Five”は聴いたことがあったけれど、他のアルバムを聴いたことはなかった。
たぶん流れていたのはこれのA面。
午後のリラックスタイムによりそうようなピアノ。仲間たちとの語らいもはかどる、ラウンジを彩るムード。
Bobby Timmons
つづいて流れたのがこちら。アルバム”Soul Food”。これはサブスク未登録みたい。
不勉強にしてこのヒトは知らず。
ジャケットの印象がそうさせるのか、なぜか食欲が高まるソウルネス。まるで場末のダイナーのようなトマトの香り(行ったことないけど)。夏バテのときに聴きたいな。
後で調べてみると、クラシック・ナンバーの “Moanin’” を作曲したひとらしい。そうなんだ……。アート・ブレイキーとかチャールス・ミンガスとかが演奏してるアレですよね。いろいろ聴いていると知らなかった繋がりを知ることができて楽しい。
番外編:ジャズを聴いたあとはジャズの本でも
食後、吉祥寺をぶらぶらしているとひっそりした古本屋を見つけた。
“古書 防波堤”さん。入ってみると店内にはルー・リードが流れていてテンションが上がってしまう。棚も好みのチョイス。思わず2冊買う。
音楽本コーナーには清水俊彦の『ジャズ・アヴァンギャルド』『ジャズ・オルタナティヴ』が置いてあって、降って湧いたジャジーなバイブスに買ってしまいそうになったけど、我慢。気になっていた方はぜひ。
さらに番外編:sound cafe dzumi の思い出
吉祥寺といえば、わたしがはじめて足を踏み入れたジャズ喫茶が sound cafe dzumi だった。
もう7〜8年くらい前になるか、『デレク・ベイリーを聴く会』というイベントがあって、当時の大学の先生に誘われて行った。
本棚には間章とかが置いてあった。ホームページを見てもわかるとおり、ジャズのなかでもフリーやアバンギャルド系のサウンドを志向する店だったようだ。
この日は足を伸ばすことはできなかったが、お店はまだ健在なのだろうか? SNS等の更新は止まってしまっている。次に吉祥寺に行く機会があれば立ち寄りたい。
椅子の感触やコーヒーの香りとともに記憶に残る音楽。
たぶんSpotifyのプレイリストでレコメンドされるだけだったら、スキップしておしまいだったであろう曲。
じっと聴くことで(聴かざるを得ない)新しい耳がひらかれる。
ジャズ喫茶ってのは、そういう出会いの時間を過ごす場所なのだと思った。
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