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短歌研究新人賞応募作① 第59回(2016年) 最終選考通過作

みどりの手帳
運転士へ手帳を示す一瞬に障害者らしくと思ふわれあり
車椅子の幅の通路に分かたれて各部署はあり島と呼ばるる
いくたびも捺印漏れを指摘せりあるべき箇所の空白を指し
障害をオープンにして働けるわれらは互ひのやまひを知らず
八年間診てもらひたる主治医よりいつしか下の名で呼ばれをり
洗ひたるカップを棚に伏せて置くおのづと同じ位置を守りて
車椅子の人の目線に貼られをり「熱湯注意」のシール一枚
始業より社内へ流るる音楽に密かに待てるカヴァティーナあり
加湿器の給水ボトルをのぼる泡午後の時間の水位が下がる
「バナナの木」と心に呼びし樹木の名図鑑に知りぬきみはユヅリハ

「短歌研究」2016年9月号

選考委員は栗木京子さん、米川千嘉子さん、加藤治郎さん、穂村弘さんでした。第二次選考の5位、6位、7位に票を入れていただきました。また、穂村弘さんより〈その他の作品群〉として評をいただきました。ありがとうございました。

角川「短歌」2016年11月号では、「歌壇時評」〈「若い人」と社会〉のなかで佐々木定綱さんに「障害をオープンにして働けるわれらは互ひのやまひを知らず」を引いていただき、評をいただきました。ありがとうございました。

はじめて短歌研究新人賞に応募した連作でした。当時の職場について詠んだものです。

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