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Page 3 .愛に飢えた少女のお話

昔々森の中にある小屋に、ある少女が住んでいた。
幼い彼女の眼にはきらきらと星が輝いていて、いつも世界は輝いて見えていた。
動物や植物はお話をしてくれるし、彼女にとって雲はふわふわと甘い綿菓子のようであった。

だが、少女はその幼い姿にそぐわず、
”本物の愛”とはなにかを常に探していた。

夜になると必ず、自分という存在の意義、愛す、愛されるとはどんなものかをひたすらに考えた。
しかし、愛を知らない少女はいくら考えても
答えなどわからなかった。
少女はその孤独さに身を震わせて、一睡もすることなく、
涙を流して一夜を明かした。

世の中の人たちは
「愛なんてものはない」「幸せなんてものを考えるから辛いんだ」
「子供のくせに考えすぎだ」「あんなにかわいいのにおかしな子ねえ」
と少女を変わり者扱いし、遠ざけた。

当然、少女には友達と呼べる人などいない。
(友達と呼ぶのことさえ、自分勝手な妄想なのではないか。相手はそうは思ってはないのではないかと思っていた。友達だと思っていた相手から、
友達ではないと告げられ傷つくことを恐れていたのだ)

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少女は17になった。彼女は相変わらず”本物の愛”を探していた。
変わったことと言えば、彼女の目にもう、きらきらと輝いていた星はなくなっていたということである。彼女にとって世界はモノクロであった。

その冬、とある少年が彼女を彼女を好きだといった。
少女が幼いころから知っていた、
心優しい少年であった。
その温かさは冷え切った彼女の心を溶かしはじめ、彼女の世界は少しづつ彩を取り戻していった。

だが悲しいことに、
少女にはそれが愛だとは思えなかった。
ここまで優しくするのには別の訳があるのだと考えていたからである。
しかし、彼女も人間の心があるので、好意には応えなければ。と
少年がいう言葉を繰り返して少年の心を満たした。
その言葉に心など籠っていないのであるが、それでも少年は彼女に愛されていると感じた。

少女は自分の放つ言葉が虚構であるのに気づいていた。その虚しさに凍え、耐えるために自分の手首に赤い線を入れた。その線は日に日に深くなり、数も、彼女の体ではもう線を入れる場所が残らなくなるほどであった。

年月が経つにつれ、少年の愛は大きくなり、将来のことをよく話した。
一方少女は夜だけではなく、一日中、一週間、ひと月と来る日も来る日も愛のことを考えた。

ほら、早く答えを出さなければ死んでしまうぞ。
さあ、お前はどうして生きているんだ?
お前のいる意味は?
お前を本当に愛してくれる人などいるのか?
両親にすら捨てられたお前を。

心の中にいるもう一人の彼女が耳元で囁く。
その焦燥感に息をつく暇もない。
いつの間にか少女は半年もの間寝ず、食わずで考えていたのである。

誰が救ってくれるのだろう。
寿命を削っていることすら頭のなかに残っていない彼女を。

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年月が流れ、少女は18になった。
18になると子供は大人になるために街で一人で暮らさなければならない。
少年は一緒に暮らそうといったが、少女は拒んだ。それが社会の規則だからと。少女にとって規則や決まりごとは絶対だった。

「お約束を守れない子はお母さんの子ではありません。」

彼女の母が幼いころによく言っていた言葉である。
幼い少女にとって母の存在はなくてはならないものだった。
そんな母から見放されたらと思うと恐ろしく、その言葉を忠実に守っていた。その言葉は呪いでもあり、次第に彼女を動けなくしていった。

その年の春、とある男が彼女を好きだといった。
その男は物書きであった。世の人々は彼を尊敬し、崇めた。
「僕は30歳で死のうと思っているのだが、君も一緒にどうかね」
と甘い言葉を吐き、彼女の心を蝕んでいった。
少女は「断らなければ」と思うと同時に「この人と命を終えてしまったらどんなに楽か」とも思った。

結果、その言葉を受け入れてしまったのである。
少年がいるのにも関わらず。
もう彼女は世の中の規則に従うことも、いい子でいることもほとほと疲れてしまったのである。
男は自分の描いた世界を見せ、少女はその世界に浸った。少女は幸せだった。男と一緒にいる間だけ、少女は考えることを忘れられた。

少女は両者を悲しませないための嘘をついた。
一緒にいると楽しい。幸せ。愛されるってなにかわかった。
その言葉を吐く度、心臓がえぐられるような痛みに悶える。
自分の気持ちとは真逆の言葉がペラペラと口からこぼれ出てくるのだ。

ああ誰か、助けて。私を止めて。
彼女の悲痛の叫びは誰にも届かない。

しばらくすると、少女の心は麻痺してしまった。
何かを判断する基準もわからない。だから、両者の喜ぶ顔をみて、少女はうまくやれていると勘違いしていた。

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ところがある日、そのことを風のうわさで聞いた、
目を真っ赤にした少年がやってきた。
少女はやけに冷静で、少年の表情を分析した。
怒り、憎しみ、悲しみ。
様々の感情がパレットの上でぐちゃぐちゃになって真っ黒になっていた。
ああ、人間てこんなにも複雑な感情を表せるものなのか。少女は人間の屑さながらの思考を巡らしていた。

少年が何か言っている。顔を真っ赤にして。
そんなに真っ赤になったら頭がはち切れてしまうよと心配する。

と、そのとき。視界がぐにゃりと歪んだ。
なんだ...?
少年の手が少女の胸ぐらをしっかりつかんでいる。
少女はその衝撃で世界が揺れたのだと理解するまでに時間がかかった。あの、心優しい少年がそのような事をするとは1mmも思いつかなかったのである。


「いいか、僕は夜が怖いと言った君のために”いい夢見てね”といったんだ!あの言葉は君のためだけに言ったんだ!」

「どうしてこんなことされても僕は君を見捨てずに叱ると思う?僕は君のことを心から愛しているからだよ!」

「きみと一生を過ごしたいからこうして怒るんだ!今君の心に響いているか?!」

少年は泣きながら訴える。
この、どうしようもなく壊れてしまった彼女の心が再び動き出すことを願って。
少年の拳が少女の心臓を強く叩く。
何度も、何度も。
痛い。どこが?心臓。いや、違う。




心だ。

少女はようやく気付いた。
私はあの男に恋していたのではなく、
"あの男が書く文章"に恋していたのだと。

心を揺さぶるその言葉をわたしも書きたい。
この灰色の世界が、昔のように彩づく世界になるように。追い付きたい。あの男に。

その気持ちが”恋”であると思い込ませていただけであった。
答えのない問題を考える苦しさから逃れたい。
もう終わりにしたい。そう願うあまりに。

しかし、ずっと彼女が追い求めていた”本物の愛”はあったのだ。すぐそこに。彼女が幼いころから。

「ああ、ピーター。ありがとう。愛されるとはこういうことなのね。私はあなたを心から愛しているわ!」

ソフィアの目から涙がこぼれた。
雪が春の日差しにあたって溶けだすように。
封じ込めていた記憶があふれ出す。
消えていた名前。ピーターの手の温かさ。
かけてくれた言葉。
幼いころから変わらない、太陽のような笑顔。
無意識に想像していた、ピーターとの未来。

忘れてはならなかったのだ。
いついかなるときも、ピーターはソフィアを心から愛していることを。

ピーターとソフィアは声を上げて泣いた。
お互いの愛を確かめ合うようにしっかりと抱き合って。
いずれ来る未来を話し、笑いあった。
そうして疲れきって寝てしまった。


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ピーターが目を覚ますと、真上にあった太陽は沈みかけていた。ピーターは幸せを嚙み締めた。
これからソフィアと暮らすのだ。
命の灯が消えるその日まで。

「ねえソフィア。今日は二人の好きなかぼちゃときのこのスープを作ろう!ごちそうだ!
ねえ、おきてったら!」

いくらソフィアに呼び掛けても返事はない。
揺さぶっても、おとぎ話みたいに唇にキスをしても。

そう。
ソフィアはピーターの腕の中でこときれていたのだ。
一番愛してくれた人の腕の中で。
人生で一番の幸福感に包まれて。
その顔は「ピーター。私はあなたと一緒にいることができて幸せだったよ」と微笑んでいるようだった。

ソフィアの20回目の誕生日であった。

あとがき🐾

ここまで読んでいていただきありがとうございました!
いかがでしたか?私の人生初の小説は。(小説と呼んでいいほど面白いものはできませんでしたが)
私が18年間の人生の中でずーっと考えてきたことを題材にしてみました。
愛するとは。愛されるとは。幸せとは。
まあ普通に生活していたらこんなこと考えないんですけどね笑
最近環境が変わって、私の考え方もそれなりに変わったのでそれを残しておきたくて。でもエッセイじゃつまんないし、せっかくなら小説書いてみたかったので書いてみちゃいました。

小説の細かい設定気になる方いましたら、別記事で出してみようかと思っています。終わり方には結構こだわりました。
ハッピーエンドも考えたんですが、それでは読者を幸せにすることしかできなさそうだったので、パンチのきいた終わり方にしようって。(最悪)
言い方悪いですが読者の心を乱す強烈な文章を書けるようになりたいです。
そのためにこれからも精進していきます!
温かく見守っていただけたら幸いです。

愛や幸せについてはしばらく間空いたら考えも状況も変わりそうなので、その時々の答えを残していこうかなって感じです。
最後に。
あなたにとって愛とは、幸せとは何ですか...?


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