見出し画像

きまぐれ日記『フェードアウト(22/02/08)』

何日か前の深夜に急に思い立って、最新型の『Kindle Paperwhite』を注文した。

第11世代のシグニチャー・エディション。従来より画面が大型化し、このモデルはワイヤレス充電にも対応している。

僕はもともと小説本がそれなりに好きで、大学生の頃は大きな書店でもアルバイトをしていた。学生時代は年間50〜100冊くらいは読んでいたと思う(読書家の人はもっと読んでいるんだろうけど)。大きな本棚に整然と並ぶ小説本やコミックスが誇らしく、恥ずかしながら「本が好きな自分が好き」みたいなところも少なからずあったと思う。

それらの大半を、上京する時に一気に処分した。新たなワンルームは北海道の自室よりも狭く、そこに生活で必要なものを全て配置する必要を考えると、とても大きな本棚は置けなかったのだ。

ほどなくして僕は電子書籍で本を読むようになり、すぐにKindle Paperwhiteを購入した。2015年発売の第7世代。どうしても液晶で小説を読むのが慣れず、かといってこれからまた紙の書籍を集めるのも色々な意味で手間であった。

幸い、電子ペーパーによる読書は捗った。紙書籍とタブレット端末の良いとこ取りのような感じで、スマートフォンで文庫本を読むよりもはるかに集中することができた。

しかし、社会人としての忙しさか、それとも大きな本棚と一緒に本好きとしての自分を失ったのか。Kindleによる読書は長くは続かなかった。iPadで読むマンガの電子書籍は1,000冊を超えているというのに、小説は年に2〜3冊読めば良いほう。

学生時代は小説家やシナリオライターといった職業にも憧れていて、それもひとつのモチベーションになっていたのかもしれない。イヤホン販売おじさんに豊富な物語の知識は必要なく、あるとすればビジネス書や自己啓発本がせいぜいだ。

そんな僕も、勤めるにつれて記事制作などに携わる機会が多くなり、イヤホン販売おじさんからイヤホン評価おじさんになったかと思えば、いよいよ独立してそれが本職となった。しかも、ひょんなことから、今は作詞家としても活動している。

ライターや作詞家として活動していると、「やっぱり本とかよく読むんですか?」と訊かれることが多い。そのたびにここ数年の僕は、「あ〜……まあ、学生の頃はよく読んでましたね」というような、歯切れの悪い返しをしていた。事実、今の僕の文章力というのは、学生時代の積み重ねに支えられているようなところがある。

退職から1年半が経ち、どうなることやら、と思ったフリーランスの生活もなんとか今日まで続いている。安定しているとまでは言わないが、ありがたいことに継続的なお仕事をたくさんいただけて、「記事を書いたり、番組に出たり、歌詞を書いたりして暮らしている」。この一文で今の自分をある程度まとめられるようになったというか、なんとか生きてきた、その「なんとか」が少しずつ落ち着いてきているのを感じる。

そうなると、「ああ、なんか久々に本でも読みたいな」という気持ちがふと湧いてきた。書き仕事をする人間として常に文章に触れていたいのもあるし、単純に、活字の中に浸っていくようなあの感覚を久しぶりに味わいたいと思ったからだ。気がついたら、僕の手元には最新のKindleが届いていた。

最新のKindleは僕が持っていた物とわずかな違いしか無いように見えて、個人的にはその「わずか」が大きかった。

画面が大きくなったことや、ベゼルが狭くなって段差が無くなったこともそうだけど、一番気に入っているのはワイヤレス充電に対応したことだ。ワイヤレス充電器にポンと端末を乗せるだけで充電が始まる。最近のモデルはスリープ中の画面に読んでいる途中の本の表紙を表示してくれる機能も追加されていて、まるで読みかけの本を置きっぱなしにしているようで、それもなんだか気に入った。


最近気づいたことだけど、僕はケーブルを挿して充電する動作があんまり好きじゃないらしい。

iPhone、Apple Watch、AirPods、iPad、SwitchやPS5のコントローラー。いつの間にか、僕は普段使いすることの多いあらゆる物をワイヤレス充電にしていた。

パッと手に取れば使い始められて、置くだけで充電が始まる。そこに「ケーブルを抜く」もしくは「ケーブルを挿す」という一手間が挟まることが、自分が頭で考えている以上に嫌いだということが分かった。

まるで本を手に取るように、気が向いた時にいつでも読み始められる最新のKindleは、日記にも「気まぐれ」と付けるような僕の性分に合っているのかもしれない。

ゆっくりと本でも読みながら、僕という個人を見つめ直して固めていきたい。こうしてなんとなく日記を再開したのも、そんな気持ちの表れだろうか。

この記事が参加している募集

転職してよかったこと

わたしの本棚

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?