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「読みたくない本」は、「読まなければいけない本」なのかもしれない

Xで書店のアカウントをいくつかフォローしていると、複数のお店が同じ本をレコメンドしていることがしばしばある。ひらいめぐみさんの『転職ばっかりうまくなる』も、繰り返しタイムラインで目にしたことで認知した。

タイトルを見ただけでも自分に無関係でない本なのは明白で、目次を調べて「私の話だ」と確信めいた気持ちになった。
だからこそ、読みたくなかった。今の私がこれを読むことは、人並みに社会人生活を送れているとは言い難い自分を肯定することとイコールのような気がして、それはよくないんじゃないかと思ったのだ。そして同時に、これほど読んでおかなければいけない本はそうそうないとも感じていた。


ひらいさんと私に大きく共通するのは、新卒で就職活動をしなかった点と、複数の業種・職種を渡り歩いている点だ。年齢もおそらく2つも違わないし、何が心地よくて何が苦しいかの感覚も近いと思う。ひらいさんからアクティブさを取り除いてちょっとうじうじさせると、私に近い感じになりそうだ。

大学卒業からしばらくの間、私はアルバイトや契約社員の仕事を掛け持ちしていた。くだらない理由で大学生活に半年のアディショナルタイムを生んでしまっていたものの、条件的に新卒としての就活ができないわけではなかった。単純に道を決め切れない・決め切れずともとりあえず就活するという割り切りができなかったのだ。
掛け持ち時代はいずれもシフト提出制の職場で、趣味のダンスや、たまにもらえるデザイン仕事の都合に合わせて予定を立てられるのはやりやすかった。身体を壊すほどの無理なスケジューリングはしていなかったけれど、本にもあるように、それで稼げる金額は限られており、収入と生活リズムをもう少し安定させたいという考えで派遣社員になった。1つめの派遣先で正社員登用のお声がけをいただき、全部で3年半近く勤めた。さらに紆余曲折あり、その後の1年で3つの職場を経験することになる。

唯一長く(といっても4年いかないが)続いた会社は、派遣から正社員になったITスタートアップだ。フルフレックスで勤務場所も基本自由、休暇も柔軟に取らせてもらえて、業務も経験を活かせてやりがいがあり、人間関係もおおむね良好。どう考えても働きやすい条件が取り揃えられた職場をなぜやめることにしたかというと、自分のメイン業務をどのように続けていけばいいかわからなくなったからだった。

SaaSプロダクトの開発・提供を行う会社の中で、サービス導入事例を紹介する記事の編集チームにいた。記事は自社のWebメディアで公開後、冊子の形にして営業・広報ツールとして使用する。Indesignを使って冊子版の誌面を作るのが私の主な業務で、ほかに同じ業務に当たる人はいなかった。さまざまな雑誌や専門書を見ながら組版の研究をするのはとても楽しかったが、その業務をひとりで担当するということは、それを同じ温度感で共有できる人がいないということだった。
会社全体としては、専門知を積極的に社内共有して汎用化する風潮があったが、組版についてIT企業で何を・どのように共有したらいいか当時の私にはわからなかった。プロダクト部門にデザイナーはもちろんいて、Webも紙も経験豊富な方だったが、なかなか一緒に動く場面はない。ほかにはポートレート撮影なども担当したが、自分がDTPやカメラの専門技術を極めることがはたしてどのくらい会社の役に立つのかわからなくなり、取り組みに自信が持てなくなった。
冊子作りを通して、より専門的に印刷物・特に読み物づくりに携わりたい(ずいぶんざっくりしているが)と考えるようになった私は、大好きで思い入れのある会社を卒業した。


その後のことはここでは割愛するけれど、率直に言って今の仕事を長く続けても自分のほしい暮らしを得ることはできなさそうで、すなわち私はまた近いうちに職場なり働き方を変える必要に迫られている。
次のビジョンが定まっておらず、また、私がここで真っ当にできないことは今後どこで何をしても必要になるスキルかもしれないと感じることもあり、まだ具体的なアクションには踏み出せていないけれど。ひとまずは、ちまちまと頑張ってとっておいたお金で、ライター養成講座を受講するところから始めようと思っている。

ただ、どうなっても何かしらで食い扶持を稼いで生きていくことはできる。私もこれまでの実体験をもってそう言えるのは救いかもしれない。
本書で書かれていた、人生のほとんどの時間を差し出すことになる仕事の中身を蔑ろにはできない、という考えにも激しく同意している。

『転職ばっかりうまくなる』を読んで、将来への不安感が薄らいだとか、この世界には同じような境遇で悩んだ人がいると心強く感じたとか、そういった安心感は正直ない。著者と感覚が近いからか共感できることが多く、逆に言えば私にとっては特段新しい発見があったわけでもなかった(おこがましいのは百も承知で)。
でも、やはり今の私が出会うべき、「読まなければいけない本」だったことは間違いなかったと思う。自分の働き方を諦めるな、とエールをいただいた。


働くってなんだろう。仕事ってなんだろう。
ほぼすべての人が向き合ったことがあるだろう問い。
今自分の仕事に悩みがない人も、何かを変えたいと思っている人も、ちょっと立ち止まって働くことについて考えたいときには「これも読んでみてよ」とおすすめしたい。


おわりに

冒頭から、間接的にひらいさんが人並みに社会人生活ができていないような表現になってしまっているけれど、それは誤りです。
彼女が現在いかにして社会とつながりを持ち、ご自身の役割を果たしているか、本書を読んでいただくのが一番伝わると思います。
よろしくお願いします。

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