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イスラエルとガザ地区。それぞれに友人がいます。

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ここ数日、非常に重たい気持ちでいる。パレスチナのガザ地区とイスラエルが戦争状態に突入したからだ。

両者の間には、歴史的に複雑かつ重層的な問題が絡み合い、とてもではないが、修復できることのない亀裂が走っている。この問題の経緯を、正確かつ詳細に説明しようと思うと、それこそ新書が一冊書けてしまうほどの分量になってしまうので、ここでは割愛させていただく。

ならば、何を書くべきなのだろうか。正直、こうして書き始めた今でも、何を書くべきなのか、何を伝えるべきなのか、私自身見出せずにいる。それでも何か書かずにはいられない気持ちでいるのは、2016年、2017年と2年続けてイスラエル、そしてガザ地区も訪れ、双方に友人ができたからだ。

両者が戦争状態に突入したというニュースを聞き、そしてこの記事を書いている今でも、イスラエルの友人、そしてガザ地区に住む友人、それぞれの顔が思い浮かんでいる。

大前提として押さえておかなければならないことは、イスラエルとガザはとても対等な関係とは言えないという点である。両者の間には圧倒的な戦力差があり、その観点から言えば、大人と子どもほどの違いがあると言っても過言ではない。だから、いくらガザ地区を支配するハマス政権が“奇襲作戦”に打って出て、イスラエルに一時的なダメージを与えることができたとしても、イスラエルが全面戦争に打って出れば、圧倒的な戦力差で殲滅させられてしまう。それくらいの戦力差があるのだ。

そもそもガザは“天井のない監獄”とも呼ばれていて、イスラエルが建設した分離壁やフェンスによって封鎖されており、人や物の出入りも徹底的に管理されている。だから私たちに日本人も観光で訪れることができず、ガザ地区を訪れることは容易ではない状況にある。

私はありがたいことに2016年と2017年に開催されたガザ地区の若者を対象に開催されたビジネスコンテストにゲストスピーカーとして参加することになったため、国連から招聘状を出していただくことができた。そこで感じたことや、ガザ地区に暮らす人々との交流については6年前に記事を書いているので、ぜひお読みいただきたい。6年前とはいえ、「ガザのリアル」を知ることができる貴重な記事だと自負している。


今回の紛争は、ハマスによる奇襲攻撃が発端となっている。この点だけを捉えれば、「ガザに非がある」「人道に背いた攻撃だ」と非難することもできる。だが、私はどうしてもモヤモヤしてしまう。

ああ、難しい。どう説明したら、うまく伝えられるだろうか。

クラスでずっと陰湿なイジメに遭っていた子がいたとする。殴る蹴るという派手な暴行を毎日受けているわけではないが、廊下ですれ違うたびに小突かれたり、毎日カバンの中身をチェックされたり、栄養失調になるギリギリのラインまで給食を制限されたりといった目に遭っていたとする。

時には文句を言ったり、小突き返したりといった“プチ反撃”を試みたりもしていたが、ある日、耐えきれなくなって、イジメ加害側の子に後ろから殴りかかったとする。たまたまその場面を見ていた先生が、「おい、おまえ何してるんだ」「そんな暴力が許されると思ってるのか」と叱り飛ばし、謹慎を喰らわせ、退学処分を下したとする。

さて、みなさんはどう思うだろうか。

たしかに暴力による反撃が好ましいとは思えない。それを目撃した教師が叱り、処分を下すことも仕方がないと思うかもしれない。

ならば、それまでイジメっ子がやってきたことは不問に付されるのか。それに対するお咎めは何もなしでいいのか。先生たちは、いや、なぜ国際社会はイスラエルによる日常的な“力の行使”について、何も言わずに見過ごしてきたのだろうか。

私は、そう言いたくなる。

とはいえ、イスラエルに暮らす人々を悪者に仕立てるつもりはない。海の見えるレストランで一緒に酒を酌み交わし、ビジネスや国際情勢についてなど熱く議論した友人たちとの時間はかけがえのないものだったし、彼らもまたガザに住む人々には同情を寄せていることがよくわかった。

そして、彼らは口を揃えてこう言った。

「ガザの人々には同情する。悪いのはハマスなんだ」

たしかにハマスがイスラエルにミサイルを撃ち込んだりしなければ、イスラエルが報復することもない。それなら大規模な紛争が起こることもなく、死者が出ることもない。

それはそうなのだが、ならばガザの人々はイスラエルによる日々の抑圧にただ耐えていなければならないのだろうか。じっと唇を噛んで、イスラエルの支配に甘んじていなければならないのだろうか。勝てない戦いだとわかっていても、文字通り“一矢報いる”攻撃をかましてくれるハマスに対して喝采を送る気持ちが、ガザ市民の中にないわけでもない。

さらに言えば、ガザの若者の有力な“勤め先”がハマスになってしまっている現状もある。人も物もイスラエルに封鎖され、まともな経済活動ができない現状においては、家族を養うためにハマスの一員となって食い扶持を稼ぐことは、手っ取り早い“就職先”なのだ。そして、そんな状況をつくり出しているのもイスラエル自身であるということも忘れてはならない。

イスラエルとアメリカは同盟国である。また、日本とアメリカも同盟国である。そう考えれば、日本はこの問題に対してイスラエル側に寄った立場にならざるを得ないのかもしれない。しかし、ユダヤ人が長らく土地を追われ、国を失い、迫害されてきた歴史を、今度は加害側となってパレスチナ人を追いやり、支配している現状を黙認せざるを得ないことに、心底納得できているとは言い難い。

冒頭で書いた通り、いつもとは違って、何か明確に伝えたいことがあって書き始めた記事ではない。ただ私の感情の揺れ、思考の行ったり来たりをみなさんに共有するだけの駄文となってしまったことはお詫びするしかない。しかし、ガザにもイスラエルにも友人がいる身として、それだけ今回の報道に心がかき乱されているし、彼らの安全を願う想いで胸が張り裂けそうでいるということだけ知っていただきたい。

何もできないことはわかっている。だからこそ、つらい。

一刻も早く紛争が終結し、またイスラエルを、そしてガザの地を訪れ、友人たちと笑顔で会える日が来るのを、ただひたすら待ち望んでいる。

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