見出し画像

この写真を見て、何か気づいたことはありますか?

先日、福井県の嶺南地方を回ったことは先月の記事で紹介した。

この時、最後に訪れたのが嶺南地方の最大都市である敦賀市だった。そういえば、人生で初めて福井県を訪れたのもこの敦賀市だった。大学を卒業してスポーツライターとなった私は、スポーツ誌『Number』で連載を持っていたのだが、後に読売ジャイアンツのエースとして活躍する内海哲也投手が敦賀気比高校に在籍していて、彼にインタビューをするために敦賀を訪れたのだ。

と言ってもそのインタビューは20年以上も昔のことだし、東京から日帰りだったために観光などする余裕はまったくなかったこともあって、正直、敦賀と言われてもその街並みを思い浮かべることすらできなかった。

だから、今回改めて敦賀を訪れ、杉原千畝がビザを発給したことで難を逃れることができたユダヤ人たちが敦賀港に到着し、敦賀の人々と交流を持った歴史に触れることができたり、東京にもいくつも店舗を構えるほど人気のある焼き鳥店が福井発祥で多くの人々に愛されていることを知ったりと、わずか数時間の滞在にしては敦賀の魅力に触れることができた。

だが、やはり敦賀最大の観光スポットと言えば気比神宮になるだろう。今から1300年以上も前に建立された気比神宮は敦賀の人々に愛されているだけでなく、そのシンボルでもある大鳥居は、“日本三大木造鳥居”にも数えられているのだという。

たしかに思わず見惚れてしまうほどの見事な鳥居だ。だが、みなさんはこの写真を見て、何か違和感を覚えることはないだろうか。何か疑問を抱く点はないだろうか。この記事を読み進める前に、もう少しこの写真をじっくり眺めながら考えてみてほしい。

ヒントとして、もう一枚、写真を追加したい。

「いやいや、せっかくの鳥居に小汚いおっさんが映り込んだだけじゃないか」と言われてしまいそうだが、私としては大マジメに“ヒント”を出したつもりだ。お目汚しをしてしまい、大変申し訳ない気持ちではあるけれど、もう少しこの写真を注意深く見てほしい。

そろそろ、“正解”を発表しようと思う。

私のような車椅子ユーザーがこの気比神宮を参拝しようと思った場合、いったいどこから中に入ったらいいのだろうか。鳥居へと向かう緩やかな橋には三段の石段が設けられていて渡ることができない。それ以外は濠で仕切られているので、これまた渡ることができない。

せっかく案内をしてくださっているのに、こんな質問をしたら空気を悪くしてしまうかなと気を揉みつつ、二日間にわたってガイド役を務めてくださっていた県職員の方に思いきって聞いてみることにした。

——これ、中に入ろうと思ったら私はどうしたらいいんですかね?

「えっ……あっ」

県職員の方は想定外の質問に意表を突かれたようでやや慌てた素振りだったが、少し間を置いて、「たしか向こうのほうに回り込むと車椅子でも入れるルートがあったように思います」と答えてくださった。

「でも、かなり向こうまで行かないとダメだったかもしれません。それに……車椅子の方だって、せっかくならこの鳥居をくぐって参拝したいですよね」

県職員の方は、申し訳なさそうな表情を浮かべて私の気持ちを代弁してくださった。

「私自身、じつは敦賀の出身なんです。だから、この気比神宮にも何度も訪れているし、この鳥居の前も何度も通っています。なのに恥ずかしながら、そのことには一度も気づきませんでした」

当然のことながら、この県職員の方が謝るようなことは何ひとつない。正面に車椅子用のルートがないことも、そのことに気づいていなかったことも、決して彼の落ち度ではない。おそらくこの記事を読んでくださっている方々も、1枚目の写真だけで“正解”にたどり着くことができた方はほとんどいなかったはずだ。

私たち車椅子ユーザーは、そうした世界に生きている。健常者がつくった街を歩き、健常者がつくったルールを生き、そうして健常者がつくりあげた社会に生きている。だから、とても不便だ。とても使いにくい。「使いにくい」ならまだしも、「まったく使えない」なんてこともザラにある。

だからこそ、つくる側に「異質な人」が必要だと思うのだ。男性だけで考えたルールでは、きっと女性が不便な思いをする。高齢者だけで考えたルールでは、きっと若者が不便な思いをする。それと同様に、健常者だけで考えたルールでは、きっと障害者が不便な思いをすることになるのだ。

これからも多くの建造物が新たにつくられ、商品やサービスが生み出され、ルールが制定されていく。そのとき、「つくる側」の人々に同じ属性の人しかいなければ、誰かが不便な思いをすることになる。その不便な思いをするのは、あなたかもしれないし、あなたの大切な人かもしれない。

建物も、乗り物も、あらゆる商品・サービスも、そしてルールも。誰もが使いやすいものにするためには、「つくる側」に様々な属性の人が参加することが必要不可欠だ。

考えてみてほしい。いまの日本は、いまの政治は、はたしてそうなっているのかを。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。記事の感想など、SNSでシェアしていただけると、とっても嬉しいです。

《フォロー&登録お願いします》

◆乙武洋匡公式YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCdclFGt02DO2DfjM_KCtT8w

◆乙武洋匡公式Twitter
https://twitter.com/h_ototake

◆乙武洋匡公式Instagram
https://www.instagram.com/ototake_official/

◆乙武洋匡公式TikTok
https://www.tiktok.com/@ototake_official

ここから先は

0字
社会で話題になっているニュース。「なるほど、こういう視点があるのか」という気づきをお届けします。

乙武洋匡のコラムやQ&Aコーナー、マネージャー日記や趣味(映画・ワイン・旅行etc.)の記録などを公開していきます。 「すべての人に平等…

みなさんからサポートをいただけると、「ああ、伝わったんだな」「書いてよかったな」と、しみじみ感じます。いつも本当にありがとうございます。