「もし乙武さんが人事だったら、どんな人材を採りたいと思いますか?」
ここ数年、いくつかの政党や企業でも採用されているリバースメンター制度というものがある。通常、メンターと呼ばれる役割は経験豊かな年長者が務めるものだが、経験には劣るものの、若者ならではの視点や感性から学ぶべき点は大いにあるとの観点から、年長者が若者から定期的にアドバイスをもらおうという制度だ。
私自身、このリバースメンター制度の重要性については日々実感している。というのも、あえて「リバースメンター制度」などと名付けてはいないが、私自身も日頃から若者たちと接し、多くのことを学ばせてもらっているのだ。
「乙武塾」という大学生を対象にした私塾を立ち上げて、今年で10年になる。これまで「憲法」「エネルギー」「安全保障」など、様々なテーマで勉強会を行ってきた。勉強会だけでなく、毎年のように夏合宿を開催するなど、塾生同士の交流も活発に行われている。
特に“卒業”制度は設けていないので、現在でも上は33歳から下は20歳まで幅広い年代の若者たちが参加してくれており、共に学び、相互に刺激を与え合う、とても魅力的なコミュニティとなっているのだが、こうしたつながりに最も助けられているのは、ただ発起人というだけで“塾長”などと呼んでもらっている私自身である。
彼らのおかげで日常的に20代の若者たちと語らいの場を持つことができているのだが、先日も将来的に起業を目指している現役大学生と話をしているなかで、このような質問を受ける機会があった。
「もし乙武さんが企業の採用担当だったとしたら、どんな人材を採りたいと思いますか?」
これまで25年近く、教員時代を除いてはほぼフリーランスとして仕事をしてきた私にとって、あまり考えたことのない質問だったため、咄嗟には芯を食った回答をすることができなかった。仕方なく絞り出したのは、あまりに当たり障りのない、次のような言葉だった。
「そうだなあ、自分が所属している企業の規模やフェーズによって変わってくるかもしれない。例えば、まだ立ち上げたばかりのスタートアップなのか、それともある程度形になったビジネスモデルがある大企業なのか、とか」
あまりに参考にならない回答に自分でも失望していたところ、「なるほど、たしかにそうですよね!」と、さも素晴らしい答えを聞くことができたかのように、目を輝かせながら話を聞いてくれていた彼女に申し訳なさを感じていたら、ふと私の中で6年前の記憶が蘇ってきた。
あれはロンドンに滞在中、少し足を伸ばしてケンブリッジ大学に赴き、そこでMBA取得を目指して勉強に励んでいる何人かの日本人学生と語り合ったときのことだ。
------✂------
ここから先は
¥ 300
みなさんからサポートをいただけると、「ああ、伝わったんだな」「書いてよかったな」と、しみじみ感じます。いつも本当にありがとうございます。