虚構日記2023/11/06
仕事の打ち合わせで先方の事務所へ。
事務所といっても賃貸のマンションだけれど、仕事部屋を借りるぐらいの収入があるのはうらやましい。
挨拶もそこそこに愚痴がはじまる。
この人は愚痴と陰口を言わないと仕事の話をはじめるつもりがない。
今日の愚痴は新しく上の階に引っ越してきた男が迷惑をかけているというものだった。
どんな迷惑なのかと聞いてみると、挨拶してもまともに返事をしないという。
そりゃ、いまどきサングラスとオールバックのおじさんが堅気の人だとは思われなかったんじゃないか。
ましてや昼間からパーカでうろついているようなフリーランスのおっさんに世間の理解はまだ遠い。
返事をしないぐらいのことは別に迷惑じゃないだろう。不愉快かもしれないけれど。
否定されたのが気に入らなかったのか他にもあるんだと言う。
他の部屋には挨拶にきたらしいけれど、俺のとこには来ていないんだと不満そうに言った。
それは警戒されたんじゃないか。
挨拶にこなかったからってそれは別に迷惑はかけてないだろう。それぐらいで怒るなよ、東京03じゃないんだから。
引っ越しの時、業者がうるさかったんだよ。これは本当に迷惑だったとまだ続けた。
それはその引越業者が配慮が足りていないだけで、引っ越してきた人には関係ないじゃん。
さっきから聞いているけど、別に引っ越してきた人迷惑かけてなくない。
むしろ、なにもしていないのに新しく来た人が迷惑だって話しているほうが、その上の人にとって迷惑なんじゃないか。
それっきり彼は黙ってしまった。
じゃ、俺はなにをしたっていうんだよ。
しばしの沈黙の後、彼はそうつぶやいた。
隣の部屋のドアの隙間からチノパンを履いた足がのぞいている。
誰か寝ているのか。
そうであってほしい。