見出し画像

虚構日記2023/11/02

今日もフードコートにテーブルを直すおじさんがいた。

テーブルと椅子をガタガタと音を立ててまっすぐにしているが、そこまで神経質にこだわるわりには音には無頓着なようだ。
この人はフードコートに来るたびにうどんとコーラを頼み、執拗にテーブルを直しているのか。
なんの仕事をしているのか、していないのか。その大きなリュックにはなにが入っているのか。
興味はあるが話しかけたいとは思わないし、彼とリアルな交流は望んでいない。
おじさんもこの町に住む愉快な人のひとりだ。
遠くから眺めているぐらいでちょうどいい。

テーブルのまわりを何周もして納得するまで直して、それで満足して帰るのかと思ったら他のテーブルも気になるらしい。
コート内をうろうろして誰か席を立たないが待っているようだ。
すでにコート内を徘徊する不審者になっている。
誰も動こうとしないのでおじさんは諦めてフードコートから離れていった。

僕も出ようかとテーブルの上を片付けていたら、三つ離れた席で勉強していた中学生らしい女の子二人組の声が聞こえた。

「あの人、昨日もいたさ」

そうなんだ。もしかしたら明日もいるかもね。確かめようとは思わないけれど。


帰り道、公園近くのゴミ捨て場でゴミを漁っている男性がいた。
近づくと漁っているのではなくゴミ袋をきれいに並べて揃えていた。
彼が背負っているリュックに見覚えがあった。さっき見たばかりだ。
気づかれないように引き返して帰った。
遠くから眺めているぐらいでちょうどいいのだ。