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虚構日記2023/11/11

初雪の札幌。
肉が食べたくなったので焼肉ランチに出かける。

副店長のネームプレートをつけた男に入口の名簿に名前を書いて待っててくださいと言われる。
誰も待っている人はいないのに書けというのか。
目の前の空いている席は僕を案内できない席なのか。
不満を隠して言われた通り名前を書いて椅子に座って待つ。
もしかするとキレる老人がキレる理由はこういうことなのかもなと勝手に納得する。


三分ぐらい待ったら、「1名様でお待ちの冷狸さま、どうぞ」と副店長に案内される。
すぐ側にいるんだから「お待たせしました」だけでいいよ。
副店長は立ち上がろうとする僕の顔をのぞき込むように顔を近づけた。

「毎日愚にもつかない日記を書いて、まったく読まれていない冷狸さま、どうぞ」
「一人飲みが好きといっているけれど、飲みに誘える友達がいないだけの冷狸さま、どうぞ」
「趣味はゲームと読書とラジオと小学生の頃から変わっていない冷狸さま、どうぞ」
「まだ何者かになれるとたいして努力もしていないのに思い込んでいる冷狸さま、どうぞ」

席に案内され、周りの哀れみと見下しがまじった視線にさらされながら僕はただ無言でカルビを焼いていた。おいしかった。