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京都のプライドを感じた水路を巡る旅

 文章をもっと学びたい。その思いを実現するため春から通信大学で文芸を学んでいるが、元から旅行好きで歴史好きなこともあり「トラベルライティング」の講義を受講することにした。旅先の感動や出会いを綴る手法を学ぶことは、色々な地域に出向いて企業や人を支援している自分の仕事にも役立ちそうな気がしたのも受講の理由だ。

 小旅行の舞台は京都市東山区の蹴上。広島在住の自分が知らない町、知るはずの無かった町。だからこそ新しい出会いや体験を期待して蹴上駅へ降り立った。
 街中でも自然の香りがする。振り返ると山が近くまで迫っていてここが自然豊かな地であることがわかる。蹴上周辺には石川五右衛門のエピソードで知られる南禅寺、ローマ水道のような水路閣、古い歴史を持つ京都市動物園など様々な観光スポットが点在するが、今回は明治時代に琵琶湖からの生活用水調達や舟運を目的に整備された「琵琶湖疎水」を起点に川の流れに沿って京都の町をのんびり歩いてみることにした。人々の生活に欠かせない水を通じて京都の歴史や精神を知ることができないかと思ったこと、また、釣りが好きで川に引き寄せられたこともある。

 蹴上駅を出て左方向に坂道を登っていくと山側に安養寺の鳥居と階段が現れる。その少し急な階段を登ると琵琶湖疎水の運行船の陸上運搬を担っていた傾斜鉄道の史跡があり、周辺には明治時代を感じさせる赤レンガ造りの構造物が点在している。そこから水路を陸上で結ぶ傾斜鉄道の線路が残る蹴上インクラインに沿ってゆるやかな斜面を下っていくと京都市動物園が見えてきて、そのまま進むと動物園の手前に「南禅寺船溜」という噴水のある広い水場が現れる。ここから先は琵琶湖からの水を鴨川につなぐ「鴨東運河」と続いている。

 水路に沿って下流に歩いていくと、京セラ美術館やロームシアター京都といった近代的な建物が圧倒的な迫力で対岸に現れるとともに、遠目には歴史を感じる平安神宮が見えてきて京都の今昔を一度に感じることができる。
 また、歩いているとずいぶんと橋が多いことに気づく。橋の中央に立ち止まり水路をまっすぐ眺めると、京都の街並みをかき分けて伸びる水路の先は青空につながり、それが水面に淡く反射して美しい。思わずカメラに手が伸びる。都会でありながらも建物の背が低い京都は青空が広い。私の住む広島も川が多い美しい町だと思うが、それとはまた違った美的感覚や配慮を感じる。それは細部にもこだわった古都としてのプライドなのだろうか。

 ふたたび水路に沿って街中を延々と進んで行くと、やがて池のように広い水場「夷川船溜」に辿り着く。赤レンガ作りの水力発電所や事務所があり、狭い水路から抜け出した開放感が心地よい。どうやら水鳥や人が集う憩いの場となっているようだ。

 ふと気づくと道端に座って熱心に何か作業をしている高齢の男性がいる。キラキラと輝く銅線で何やらカゴのようなものを作っている。話しかけてみると銅細工を作る工芸師の方で、道行く人を相手に、売り込むのではなく興味を持ってくれた人だけに販売しているとのこと。楽しそうに作る様子は、この仕事が生活のためよりも生きがいが目的であること、また、営業しないスタイルに工芸師としてのプライドを感じた。

 銅細工の老人と別れて少し進むと、水路は道路下をくぐり鴨川へ流れ込んでいた。鴨川は平安京の東端だという。鴨川の向こうはこの町が「京都市」になる以前からある「京のみやこ」である。

 蹴上から始まった小さな旅は鴨川で終わりを迎えた。一本の水路を巡って眺めてきた赤レンガ造りの史跡の数々、どこを見ても隙の無い街並み、橋の上からの景色と広い青空、工芸師の手仕事。この旅で感じたのは古都としてのプライドだった。
 水が生活に不可欠な存在であるように、人々のプライドは古都京都を形作るのに不可欠な存在で、琵琶湖疎水の流れとともに脈々と受け継がれていくのだろう。


■コメント
 昨年度に受講した「トラベルライティング」で提出したレポートの原文になります。これをベースにして文字数を少し減らして講義中に手で書いたので、実際に提出したレポートとは少し異なります。
 点数は90点を超えていましたが、ゆるめの文字数制限と手書きというやや過酷な状況下でのレポートだったこともあり、時間が間に合わずに上手く書けない人も多かったと思うので甘めの採点になるかな…とは思います。私はレポートの準備をしてから授業を受けたのでちょっとズルいです(^_^;)

 この科目、とても楽しかったのですが、コース専門家科目のカリキュラム変更でなくなってしまいました。かなり残念に思っています…

 さて、事前準備の話になります。ちょっとズルいかも知れませんが、実は私は京都に前日入りしていまして、前日にこの道のりを歩いています。また、現地講義は午後からなのですが、当日の朝も逆方法に歩いています。
 また、全ての道のりをゴープロを使って動画で撮影していたこともあり、事前にレポートの準備ができていたわけです。
 ズルをするというよりも、「上手く書く自信が無かったこと」と、せっかくの機会なので「しっかりと京都の街並みを見てみたい」と思った気持ちが大きかったです。おかげで充実した2日間(前日を入れたら+1日)過ごすことができました。

 ここで撮影した動画、現地講義の前日に撮影したプライベートな動画で公開可能なので、動画編集してYouTubeでアップしようかなと、ちょっとだけ思ってます。仕事がらみで色々な動画を公開しているのでそのついでに。

 当日の現地講義についてですが、学友の方と3人で南禅寺や水路閣、哲学の道など別のルートを歩きました。別のルートを歩けたことは良かったですし、「ひとりで歩くこと」と「グループで歩くこと」と両方を経験できたことも良かったです。
 
 こうして書きながら「いつか同じメンバーで同じ道を歩けたらよいだろうな…」と思ってしまいましたが、そう思えるということは、きっと良い旅だったんだと思います。
 
 また何か旅について書いてみたくなりました。

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