にしぞら いえひと

恥ずかしながらショートショートやエッセイなどを少々。

にしぞら いえひと

恥ずかしながらショートショートやエッセイなどを少々。

最近の記事

ショートショート 「人材」

「社長、お呼びということですが」  おお、いかにもスポーツマンという感じである。 これは使えるかも。 「さあ、入ってくれ。まあ、そこにかけ給え」  営業課長が少し緊張を見せながらソファーに座った。  私は、社長としての威厳を見せるため、まずは執務机の椅子に座ったまま話かけることにした。 「君、結構ゴルフうまいんだって。もしかして大学とかでゴルフ部だったとか」 「いえ、高校、大学と野球部でした。ゴルフは営業課長になった今、仕事でも必要だと思いまして自分への投資と言いま

    • ショートショート 「悩み」

       まだ俺を訴える奴がいるとは信じ難い。  何とも無駄なことを。  会長室で、弁護団のリーダーを務める子飼いの顧問弁護士から裁判勝利の電話を受けると静かに受話器を置いた。  すぐに裁判担当である本社の総務部長が裁判結果の報告をしたいと秘書を通して申し出てきた。  顧問弁護士が誰よりもまず最初に俺に直接報告することを知っているし、裁判に勝つことなど慣れっこになっているはずなのに、この総務部長はわざと勝利に興奮した様子を見せてくる。  そういった下手な芝居をしながら、さらに今

      • ショートショート 「クラック(亀裂)」

        「賛成多数で議題3『マンション管理規約の改定』は承認されました。次に・・・」  今日は俺が待ちに待ったマンション管理組合の総会の日。  総会の議長席に座っている管理組合の理事長であるA氏をこっそり盗み見る。 苦虫を噛み潰したようなその表情に、俺は思わず笑みがこぼれてしまった。  いかん、いかん。誰かに見られただろうか。 少なくとも一緒に来ている美人で自慢の愛妻と小学校1年生になる愛くるしい愛娘は気付いていないようでホッとした。 本当に俺はラッキーな男だ、この二人は俺の宝物

        • ショートショート 「恩人」

           退院して1週間ほど経った日、警察から電話があった。  私を刺した通り魔が捕まったらしく、犯人逮捕の報告に来たいとのことであった。  SNSに上がっていた動画や現場近くに設置された防犯カメラの映像が犯人逮捕に繋がったらしい。  場所が繁華街に近かったことから目撃者がそれなりにいて、通り魔の若い男が現場から逃走している様子の動画がSNSにいくつか上がっていることは知っていた。  かなりの重傷だったが、術後の経過が良く、入院の途中からはスマホを見る余裕もできていたからだ。

        ショートショート 「人材」

          ショートショート 「ファーストの塔(The Tower of First)

           20XX年、世界中の全ての国の人々、つまり全人類は極めて高度に発達した科学技術によって今の我々には想像出来ないほどの豊かな生活を送っていた。  その昔、とある国で湧き上がった「自国第一主義」の思想は、あっという間に各国に伝染していき世界中を席巻した。  そして「自国第一主義」という思想は「自国民が1番優秀」との思想に繋がっていったことから、科学技術分野を中心に1番になることでそのことを証明しようと各国間で熾烈な研究開発競争が始まったのである。  結果、世界各国が切磋琢

          ショートショート 「ファーストの塔(The Tower of First)

          ショートショート 「スーパーコーディネーター」

           昔、といってもそんなに遠くない昔、海運会社を設立したばかりの男がいた。  これからどうやって会社の実績を上げ、さらには売り上げを伸ばして行こうかと考えていたその男は、ある日、思い立って山口県のとある会社の門をくぐった。  その会社が掲げる看板には「化粧水の売上げ日本一!当社の『スーパー化粧水』を使えば乳液要らず!これ一本でスキンケアは完璧!」とあった。  受付で用向きを伝えた男は、運良く社長に会うことができた。 「飛び込み営業の方とはあまりお会いしないのですが、県外

          ショートショート 「スーパーコーディネーター」

          ショートショート 「プロフェッショナル」

           取締役会が終わった。 「おい、随分緊張していたようじゃないか、初めてだったし仕方ないか。まあ、これからもよろしく頼むよ。期待してるよ」 「はい、頑張ります」  私の横を通り過ぎながら声をかけてくれた後、会議室を出ていこうとしている代表取締役社長の背中に向かって言った。  まだ緊張しており思わず部屋中に響くような大きな声になったが、社長は片手をあげて答えてくれた。    会議室内にいる取締役の多くが驚きと羨望の眼差しを持って私を見ていることを肌で感じた。 きっと次の社長

          ショートショート 「プロフェッショナル」

          ショートショート 「誘惑」

           この店を手放すまであと1週間足らず。    思い起こせば、我武者羅に働き爪に火をともすような生活をして貯めた独立資金。  苦労して貯めたその資金を頭金にすることで銀行から融資を受け、自分の理容室を開業した時の喜びと誇りを一生忘れることはないとサトルは思った。  開業後、売上げは順調であった。  もともとサトルの理容師としての評判は高く、特に顔剃り部門では全国規模のコンクールで優勝するなどの実績があったことから地元誌などにも取り上げられることがあった。  そのため、前に勤

          ショートショート 「誘惑」

          ショートショート 「アッ◯ルウォッチ」

           あっ、今の女、チラって見た。  擦れ違い様、自分の彼氏を盗み見られる度にリコは喜びを噛みしめる。  リコの彼氏、ハルトは甘いマスクをしたイケメンだ。  リコよりも3つ年上だが、かっこいいというよりは可愛いという形容詞の方がハルトには似合うとリコは思っている。  5ヶ月ほど前、会社の女子会で行った居酒屋でハルトはバイトで店員をしていた。  リコの一目惚れだった。   リコはその店に通い詰めて、いわゆる逆ナンの形でハルトとの交際に発展することに成功した。  通い詰めた際

          ショートショート 「アッ◯ルウォッチ」

          ショートショート 「守り人」

           沙也加の記事が初めて新聞に載ったのは、小学校4年生の夏休みだった。 「沙也加、明後日なんだけどね、南西新聞の記者さんが沙也加の取材に来たいんだって」  かかってきた電話に応対しながら、やけに自分の方をチラチラと見てくるなと不思議に思っていた沙也加に、受話器を置いた母親は満面の笑みで話しかけてきた。 「えー、何で」 「ほら、校庭のあの木のことですって。沙也加が毎週欠かさず水をあげている。そのことを記事にしたいんですって」 「うそでしょう。大体何で記者さんがそんなこと知

          ショートショート 「守り人」

          ショートショート 「言霊(ことだま)」

           この街に着いて2週間。少し落ち着いたので、祖父に海を見せたいと思い港までやって来た。 「やっぱり、いいね、海。」私は、無表情な上に静止したままの祖父に話しかけた。  祖父を疎ましく思い始めたのは、中学生の頃からだったと思う。  それまでは、夏休みや冬休みなど、祖父母の家に泊まりがけで行くのが楽しみで仕方なかった。  私は父の一人息子で、父は祖父母の一人息子。  祖父母にとって孫と呼べる者は私一人で、祖父母の家に行く度に大歓迎された。  食卓には私の好み、もしくは好みだろ

          ショートショート 「言霊(ことだま)」

          ショートショート 「堪忍袋」

           立派なお屋敷の大きな居間、壁には大きなモニターが掛かっている。その前には、本物の雲をクッションにしたふわっふわの大きなソファーが鎮座している。  そのソファーの真ん中に、これまた偉い偉い神様がお座りになっている。 「おーい。そろそろ始まるぞ。お前もこっちに来いよ。で、どっちに賭ける。俺はやっぱり男の方かな。」  説明しよう。基本、神様は退屈である。  その退屈を紛らわすために、下界の人間を相手に「堪忍袋ゲーム」をしようとしているのである。  堪忍袋ゲームは、人間の目に

          ショートショート 「堪忍袋」