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第96回アカデミー賞授賞式 2024年3月10日 ①受賞結果への私的なコメント

コロナ禍を経て昨年に引き続き無事に開催されました。2023年米国にて一般公開された作品を対象としたアカデミー賞授賞式、結果は以下の通りです。

作品賞⇒「オッペンハイマー」
主演女優賞⇒エマ・ストーン「哀れなるものたち」
主演男優賞⇒キリアン・マーフィー「オッペンハイマー」
助演女優賞⇒ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」
助演男優賞⇒ロバート・ダウニー・Jr.「オッペンハイマー」
監督賞⇒クリストファー・ノーラン「オッペンハイマー」
脚本賞⇒「落下の解剖学」
脚色賞⇒「アメリカン・フィクション」
撮影賞⇒「オッペンハイマー」ホイテ・ヴァン・ホイテマ
美術賞⇒「哀れなるものたち」
衣裳デザイン賞⇒「哀れなるものたち」
メイクアップ&ヘアスタイリング賞⇒「哀れなるものたち」
作曲賞⇒「オッペンハイマー」
歌曲賞⇒“What Was I Made for?”「バービー」
編集賞⇒「オッペンハイマー」
音響賞⇒「関心領域」
視覚効果賞⇒「ゴジラ-1.0」
長編アニメーション賞⇒「君たちはどう生きるか」
国際長編映画賞⇒「関心領域」(イギリス)
長編ドキュメンタリー賞⇒「実録 マリウポリの20日間」
短編ドキュメンタリー賞⇒「The Last Repair Shop(原題)」
短編実写映画賞⇒「ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語」
短編アニメーション賞⇒「War Is Over! Inspired by the Music of John & Yoko(原題)」

 最大の栄誉である作品賞は至極順当で、日本の興行に恐れをなしたユニバーサル(直接的には東宝東和)に変わって邦人配給会社のビターズ・エンドが3月下旬より公開してくれるのは実に感謝です。被爆国日本への言及が無いと騒ぎ立てても、所詮米国映画で米国にとっての原爆観に基づくわけです。確かに広島・長崎に言及しない原爆話はあり得ない、ですがタイトル通り本作は物理学者オッペンハイマーが主役の映画であり、彼自身は戦後に水爆開発に反対したために公職追放されているわけです。この文脈と向き合えばその点に不満を漏らす程度も程々で十分でしょ。多分そんな反発も想定内で、ベストはないでしょうがベターを追求した結果と思われます。予想された通りの最多7部門受賞の結果で日本公開は大いに盛り上がる事でしょう。ちなみにノーラン監督は従来ワーナー・ブラザースとの契約でしたが、コロナ禍での配信を劇場公開と同時に行うワーナーの愚作に怒り、ユニバーサルに変えたわけです。

監督賞と作品賞

 監督賞のノーラン初受賞もだから当然で、対抗馬たる大監督マーティン・スコセッシは既に監督賞に輝いてますから、ここでノーラン選ばずしてどこで選ぶ状態ですね。プレゼンターがスティーヴン・スピルバーグであった事は世代交代を感じさせました。ちなみに「バービー」のグレタ・ガーウィグがノミネートされなかった事を揶揄する向きがありましたが、監督組合のメンバー達がチョイスした上から5人が発表されるのみで、たまたま多分6位にランクされた結果でしょう。

 男優賞は主演・助演ともに順当でしょう。が、女優賞はいささかサプライズです。主演賞は誰が獲ってもおかしくない激戦で、頭一つ抜け出ていたのが「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」のリリー・グラッドストーンだったはず。眼力は強いが抑えた名演で、ネイティブ・アメリカン受賞となれば多様性に格好もつく。結果本番で呼ばれたエマ・ストーン自身は相当に驚いていた様子、なにしろ「ラ・ラ・ランド」で獲得済ですから。しかし結果からみれば、彼女でこそ実に順当に思えてきました。作家性の強い意欲作でオスカー女優が「あそこまで」体を張っての演技ですから。

 助演賞は、そろそろエミリー・ブラントにと個人的に思ってましたので。「プラダを着た悪魔」で主演のアン・ハサウェイに対し、完全に助演扱いだったエミリーの濃いメイクが印象的でした。が、以降のエミリーの大躍進すさまじくアンを逆転したどころか、有望な監督ジョン・クラシンスキーと結婚ですから。ダヴァイン・ジョイ・ランドルフは「ホールド・オーバー」を観てない事には何とも言えません。

 脚本賞のオリジナルは、この練りに練った傑作「落下の解剖学」の作劇を何とか顕彰したく、でも作品賞ではあまりに小品、って時に往々にしてこの賞に落ち着きます。脚色賞もどこかでこの良作をはめ込みたいライターの総意によって「アメリカン・フィクション」に収まる、奇妙ですがそうなってしまうのですね。

 美術賞・衣装デザイン賞・メイクアップ&ヘアスタイリング賞は、とんでもない空想ビジュアル世界を見事に造形した「哀れなるものたち」であれば実に納得です。 編集賞・音響賞・撮影賞・作曲賞は各分野の専門家が選んだのですから、左様ですかと有難く承るのみ。歌曲賞は、まあその時の勢いと言いますか人気度に左右され、どの曲がいいなんて完全に好みですから。授賞式でのビリー・アイリッシュはまるで女子高生のよう、実際まだ22歳の若さで、しかも007映画で獲得済なんですから、少々嫌味ですよね。

 そして国際長編映画賞です。「おくりびと」(2008)で滝田洋二郎と本木雅弘が狐につままれたような表情で受賞した賞です。世界各国から各1本の推薦作からアカデミーが5本に絞った結果のノミネートに「PERFECT DAYS」が入ったのは快挙でしょう。しかし早く観たいと思わせる「関心領域」がユダヤ人の収容所の隣でドイツ人一家の能天気な様を描くなんて、ぶっ飛んだ設定だけでも凄いわけで。ベンダースの描く平和なニッポンでは分が悪いのでしょうね。

 短編アニメーション賞はまるで分かりませんが、長編アニメーション映画賞は驚きです。見事に宮崎駿の2冠目となるわけですが、本賞は実質ディズニー及び傘下のピクサー等の作品にほぼ毎年独占されてしまっている。そこへ「スパイダーマン ・スパイダーバ―ス」が驚愕の新機軸でオスカーをさらってしまった。おまけに常勝ディスニーもピクサーもこのところの不調続きのスランプ混迷状態。この状況にジブリ作品が漁夫の利を得たと言っても差し支えないでしょう。「アクロス」も凄いけれど二作目ですから。受賞作は巨匠・宮崎の私的追憶ファンタジーで、イマジネーションの躍動と拡がりは素晴らしいものの、収束させる意志はまるでなく支離滅裂の残念作。初期の名作とは比べものになりません。

ゴジラのフィギュアを持って

 いよいよ視覚効果賞での「ゴジラ-1.0」は最大の歓びで快挙です。ノミネートされた他の4作品をもう一度見て下さい「ザ・クリエイター/創造者」、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」、「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」そして「ナポレオン」。すべてハリウッドメジャーの誇るVFXを駆使した大作ばかり。公開中の「デューン 砂の惑星 PART2」が当初予定通り2023年に公開されてればさらに強敵で。いずれも製作費は日本円にして200~300億円ですよ、対するゴジラが約20億円とか。10分の1の予算で、当然にVFXの使える金は推して知るべし。金掛ければより素晴らしいものに仕上がる、だから機器を開発してまで精緻な映像を追求する。確かにこれは真理ですが、そのために天井知らずの予算の高騰になってしまった。その反省がVFXに携わる人々によって、ゴジラの方法論が支持された結果と思われる。この賞が米国以外に渡るなんて誰が想像出来たでしょうか。その推進の要に山崎貴監督がいる。受賞のスピーチで、13歳の時に「スター・ウォーズ」と「未知との遭遇」に出会ったと。そのスピルバーグ監督の見守る中での受賞なんですから感無量です。

 長編ドキュメンタリー賞は無論鑑賞出来てなく、論評する立場も資格もありませんが、受賞作「実録 マリウポリの20日間」の現実の生々しいウクライナをアカデミー会員達は明確に支持する姿勢を明らかにしてます。受賞者が「本当はこんなの作りたくなかった」とスピーチしている姿には、心底うたれました。
 
 短編アニメーション賞を受賞の「War Is Over!」はあのジョン・レノンとオノ・ヨーコが歌った曲をモチーフにした創作アニメで、当然に反戦のテーマでしょう。受賞のステージに彼等の息子ショーンがジョンそっくりの風貌で現れたのには驚きました。「母ヨーコは91歳で元気」とも。

 短編実写映画賞、短編ドキュメンタリー賞はコメント出来ませんが、NETFLIXなどで観る事が出来る作品もあるようです。

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 アカデミー賞はそれぞれの分野の専門会員の「投票」によって上位5作品がノミネートとして、しかも順位関係なくアルファベット順で発表、本当に授賞式のステージ上でのみ開封される封筒にトップが記されて受賞となる。だからまるでアカデミー賞がひとつの人格のように、人種差別だ、女性蔑視だ、娯楽映画に冷淡だと攻撃されがちですが、投票結果の総意であることを理解しましょう。

 さらに映画界最高の賞なのだから、さぞ大感動作と勘違いされ、いざ日本公開で鑑賞して、期待に反し「なにこれ? これがアカデミー賞?」状態の日本人は多いですね。昨年の「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」がそうですよね。アカデミー会員が革新性を評価する層が多ければそうなるだけの事、ノミネート作のバランスによっても大きく結果は変わることはありましょう。

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