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第96回アカデミー賞授賞式 2024年3月10日 ②式典への所感

 例年より1時間早く開催、司会はジミー・キンメルが昨年に引き続き続投。総じて望ましい運営が出来たようで、十分に楽しめました。記録としてショーの際立ったところを記しておきます。

主演男優賞の際のステージ

 なにより舞台の装飾やしつらえの上品な事!単一カラーで統一し、ステージに寄り添い淡くカラーを変える演出、豪華であり知的でもありました。先日の日本アカデミー賞のステージの安っぽさとは比較するのも憚れます。予算が違うなんてレベルでなく完全にセンスのレベルですね。そうそうこれを見ているWOWOWの日本のスタジオもこれ見よがしのキラキラで、シャンデリア吊るせばってOKみたいな田舎っぽさ。洗練のセの字もありゃしない。

ジミー・キンメル

 あちらのテレビ・ショーのМCをされる方は、往々にして少々の毒を持ってまして、角を立てない日本とはまるで異なり個人的主義主張も明確のようです。オスカーの司会も過去をみればずっとそんな感じでしたね、チクりチクりどころか強烈な嫌味も。ジミーももちろんそんなでしたが、比較的無難な印象が今回は際立ちました。当然に昨年秋の俳優組合のストライキへの連帯を示し、さらに業界の裏方に関わる人々をステージに上げ顕彰したのも好印象でした。

受賞時は名前が入っていないけれど、後で名を刻印したものを正式に渡します

 受賞式の形式も意外と毎年改善を施し、前例主義は排してます。受賞者のスピーチこそがハイライトであり、それを尊重するために開始時間を前倒しと相成った。ショー的演出は歌曲賞ノミネート作品を披露の5回だけ、ただし各曲ともフルコーラスではなく、短過ぎとも思いましたが。プレゼンターの人選も理想的で、ことにも俳優の4部門には過去の受賞者それぞれ5人にノミニーを褒め称えるスピーチを披露して頂く演出は昨年同様に素晴らしい、何故ならノミニー達が感極まった様子だったから。けれど演技のハイライトシーンが観られなかったのは残念でしたが。

両袖のボリュームが凄い

 早々の助演女優賞獲得の「ホールド・オーバー」ダヴァイン・ジョイ・ランドルフのスピーチは、自らの苦難を乗り越えた自信と、周りへの素直な感謝の気持ちに溢れ感動的でした。ただ、彼女は最前列のシートに座っていましたが、あの体格でさらにボリューミーなドレスが左右に飛び出し、彼女の両隣りの席の方が気の毒でなりませんでした。

 アニメ賞のプレゼンターはクリス・ヘムズワースとアニャ・テイラー=ジョイの美男美女コンビ。今年公開予定の「マッドマックス フュリオサ」の主演コンビですね。ここでアニャから「The Boy and the Heron(君たちはどう生きるかの英語タイトル」が読み上げられたがご本人が不在とは残念。宮崎駿はともかく制作の鈴木敏夫くらいは渡米すべきでしょうが、相当に変わり者のようですからね彼は。

全裸と言いながら腕時計とサンダル着用

 次なるエポックは衣裳デザイン賞に全裸男の登場でした。オスカー受賞者の名を記した封筒で股間を隠してのステージですが、無論演出でしょうし、まさかの事態に備えてミニマムなものは着用してたでしょう。それにしても全裸で困惑する男に「大切なものは衣装」と言わせるジョークが効いていました。筋骨隆々でしかもタトゥー無し、厭らしさはまるでなかったですね。彼の名はジョン・シナでプロレスラーの人気者だそうですが、どこかで観たようなと思ったら、「バンブルビー」や「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」に役者として出てました。役目を終えてハケる際に袖で、次のプレゼンターであるドウェイン・ジョンソンとばったり。プロレスラーの先輩でありマネーメイキング・スターの彼に恐縮そうに握手を求める姿もテレビに映り、良い人イメージ爆上がりでした。

安心してください、

 いよいよ視覚効果賞のプレゼンターとしてアーノルド・シュワルツェネッガーとダニー・デビートの凸凹コンビが登場しゴジラ受賞に向かいます。2人の共通点はバットマン映画での悪役として、で初期のバットマンを演じた客席にいるマイケル・キートンを弄るお笑いです。シュワちゃんが「ゴッ・・」と発して私は本当にびっくり仰天になりました。予算10分の1のゴジラ特撮がハリウッド製の巨額予算VFXに勝てるなんて、まるで思ってませんでしたから。山崎貴監督が受賞後のインタビューで「オッペンハイマー」の日本からの「アンサー映画」を是非とも作りたいと。原爆を唯一の被爆国である日本として総括したい趣旨と思われます。大いに期待したいものです。

 長編ドキュメンタリー賞を受賞した「実録 マリウポリの20日間」はAP通信のウクライナ人ジャーナリスト、ムスティスラフ・チェルノフ氏の撮影によるもので、圧倒多数の観客のスタンディングオベーションを得てました。ご本人のスピーチも真摯で冷静「映画は記憶を形成し、記憶は歴史を形づくる」と、授賞式最大の心にしみるシーンでした。

ライアン・ゴズリング

 圧巻は「バービー」からの歌曲「I’m Just Ken」をライアン・ゴズリングが披露する一大パフォーマンスがこれでもかのド迫力で最大のショーとなりました。「ラ・ラ・ランド」以前にライアンが「初めてレイノルズに間違えられなかった」と言っていたのをたまたまYouYubeで見ましたが、もはやゴズリングの方が上かもの勢いです(オニールさんの方は昨年物故しメモリアムに遺影で登場)。映画そのままにシム・リウ、キングズリー・ベン=アディルらも一緒にダンス、いったい何人の男性ダンサーが登場したのだろうか。最後は客席のグレタやマーゴットにもマイクを向け、さらにエマ・ストーンにまでマイクを向けるる大サービスです。ただ、ピンクの主役を取り巻くひな壇の赤い帯までしっかり着用の正装紳士達に見覚えが・・マリリン・モンローの「紳士は金髪がお好き」(1953)でのナンバー"Diamonds Are A Girls Best Friend"のパロディでした!フェニミズムの権化のような「バービー」にモンローを比喩でライアンが扮するなんて、壮大な皮肉をこめた、とんでもなく素晴らしい仕上がりでした。

クリストファー・ノーラン

 監督賞はまったく予想通りのクリストファー・ノーランですが、司会より彼がインターネットも使わずEメールも使用しない堅物ぶりを明かされ、ステージ上のスピーチも実に真面目なものでした。もし役者をすればナチスの将校役なんて完璧に似合いそう。プレゼンターのスピルバーグとのハグがちょいと長く感動的でした。

清楚なミントカラーがお似合い

 主演女優賞は意外にもエマ・ストーンがご自身も驚く二度目の受賞。ルイ・ヴィトン製ミントグリーンのドレスの背中のフックが外れた事もあり、相当にパニックった様子が生中継ならでは。過去数度のノミネートもむなしくキャリー・マリガン、私のお気に入り女優ですがまたしても獲得出来ず、あの繊細な美が維持されるうちの受賞を願ってます。同様にアネット・ベニングも歳からしてこのチャンスをものにして欲しかったですが、いかんせん作品自体が有力候補にも入らず、スターの受賞はまずは作品自体が注目を浴びなければ成し得ない事を証する結果でした。それにしてもドイツ人のザンドラ・ヒューラ―は英米女優と比してまるで雰囲気が異なる美しさでした、冷静で堅く、忍耐が滲む。

 で、最後の作品賞のプレゼンターにアル・パチーノが登場、ゴッドファーザー50周年なんて言いながら客席のロバート・デニーロにカメラは振りませんでした。発表の前にノミネート作品を改めて紹介するのが常でしたが、いきなりアル・パチーノは封筒を開け、おやおやボケた?と心配しましたが、どうやらこれは予定通りの演出だったようでした。受賞の「オッペンハイマー」製作者にクリストファー・ノーランも名を連ねているのに、他の2人にスピーチを任せる、これまた上品なお人柄がよく出てました。

ジミーが裏方さん達をステージに

 途中に賞とは関係なく、スタントマンらを讃えるコーナーもあり、ストライキにより俳優のみならず、制作がストップすることの余波による多大の損害を被った人々に、ハリウッドとして感謝の連帯を示す意向が働き、近年にないまとまりを見せつけました。邦画が2作品も受賞だなんて前代未聞の快挙ですが、根底にはアカデミー会員の拡がりの結果すなわち多様性によるものでもありましょう。中継の最後のカットはハリウッド ウォーク オブ フェイムにあるマット・デイモンのサインに「落下の解剖学」の犬がオシッコをかけてました。これは司会のジミー・キンメルの持ちネタのようなものでした。来年にはキャスティング賞も創設されるとのこと、時間が延びたって構わないと私は思うのですがね。

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