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絶対オススメ映画「首」~本年邦画のベストワン~

 久方ぶりの北野映画、おまけに桁外れの金をかけた大作で、上々の天晴作品ではないですか!! 初期の優れた感性による秀作評価を一身に、以降調子に乗っての駄作が続き、唯一売りの凄みのマンネリから抜け出せず、と思ってましたら、約8年ぶりの本格時代劇で見事に蘇りました。彼本来の詩的な映像が瑞々しいブルーに彩られ躍動する、映画的カタルシスに満ち興奮覚めやらずです。

 念のため先に申せば、構成的にシークエンスが団子状態で、総論的に纏めあぐねた感が露呈。大傑作の称号の一歩手前に留まってしまったのは実に惜しい。しかし、それらを補っても十分に足りる描写がテンコ盛り、圧巻の映像美に北野節炸裂です。

 なによりこれ程の大作を任せられ得る力量が素晴らしく、当然に海外マーケットを意識しての大金投資。幾度となく描かれた戦国の最大エポックを「首」の観点から敢えて矮小化する辺りがユニークではないか。敵の大将の首は、脅威存在の抹殺に留まらず、アナウンスの為の検分材料にしか過ぎないこと。よって本作はとんでもない量の「首」が画面狭しと転がっている。ラストに光秀の首を思いっきり蹴飛ばす秀吉(監督自ら演ずる)の心情が本作の肝であることが明確となる。

 百姓上がりと幾度となくセリフに登場し、しかも全編を通じてメインとなるのが侍大将になりたい農民出の難波茂助(中村獅童)となっていることから監督の意図は明確である。武家社会への皮相的観点の発露が「衆道(男色)」の顕著な描写に現れる。史実としても明確で、いたずらに気持ち悪いなどと評すのは困ったものです。NHK大河ドラマ的人畜無害な描写なんてもとより関心がない北野にとって、思う存分に活写した重要部分と思われる。

 さらに空前のエキストラを使った合戦の痛ましさは、実写ならではの迫力とともに、個々の戦いでの交え方の仔細にVFXを駆使しているであろう使い分けが素晴らしい。大軍のCG処理は「ロード・オブ・ザ・リング」の頃より常識となりましたが、余りの無数に既に観客は白けている現実をくみ取り、実写に拘った迫力は十分に満たされた。一方、タイトル通りの首はねのオンパレードにVFXを、刀が体を貫通する辺りでも活用し素晴らしい効果を上げている。撮影後の処置に時間を要するのもこのためかと思えば納得です。

 それにしても加瀬亮の弾けた信長ぶりは凄まじい。見た目華奢な役者が狂人を演ずるほど怖いものはない通説どおりの快演に拍手喝采です。本作のキーワードである荒木村重役の遠藤憲一の形相に至っては絵巻から飛び出したごとく。明智光秀役の西島秀俊は三角関係に困惑するウブを表現し、悪くない。どうにもこの方のなで肩に違和感を抱く身にとっても、彼の日頃の鍛錬による胸厚が見事に活きましたね。黒田官兵衛役の浅野忠信そして羽柴秀長役の大森南朋はほとんどコメディであり大人の軽いジョークが行きかう。信長が鑑賞する能舞台で観世清和がシテ方を務めた「敦盛」、それに呼応する「狂言」パートが秀吉・秀長・官兵衛となる。そして、難波茂助役の中村獅童、新左衛門役の木村祐一の生き生きとしたしぶとさにこそ監督のシンパシーが宿る。

 首をとった盗られたと騒ぎ立てる様は、前述した「ロード・オブ・ザ・リング」のリングと殆ど重なる。棚から牡丹餅、鳶に油揚、ひょんなことで首を持った寓話とも言え、おどろおどろしい看板とは裏腹に、いい意味で軽い仕上がりが素晴らしい。それにしても白粉ベタベタの柴田理恵扮する遣手婆が唯一の女性役とは思い切ったものです。本年もあと僅か、2023年のベストワンと思われます。

 北野映画と言えば久石譲、ですがプロダクション変わっての制作の為か、音楽:岩代太郎となり純正統派の音楽のもつ品格たるや凄い。

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