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オススメしたい変態ですが「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」~クローネンバーグ節全開の恍惚~

 お久しぶりのデヴィッド・クローネンバーグ、彼の変態度を遠慮することなく全開にした、その意味においての傑作です。しかも波長のあうヴィゴ・モーテンセンを主役に据え、あの007の奥様役のレア・セドゥに、あろうことかハリウッドのバリバリ美形スターであるクリステン・スチュワートが共演とあらば、どんなに悪趣味だろうと観に行きますよ。

 大昔の映画で恐縮ですが、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの「ケレル」1982 を思い起こさせるキッチュで黄昏感たっぷりなセット撮影に、この変態度は相応しい。フィジカルな痛みを克服した人類にとって、進化する臓器を生み出す者が現れ、公開手術で臓器を摘出すること自体をショーとするアーティストまで現れる。さらにそれらを監視する政府機関までも存在し・・・、なんて、実にクレイジーな設定です。

 こんなぶっ飛んだシチュエーションでも、眉まで剃ったヴィゴが苦悩に体を悶絶する描写により、あっさりと納得させられるから凄いのです。殆ど肉付きの落ちた端正なお顔を殉教者よろしく神秘性に昇華させ、「エイリアン」のH・R・ギーガーによる艶めかしい造形に似たベッドや椅子に囲まれ、馬鹿とキチガイの紙一重を画面に定着してしまう。それらをコントロールするレアとの公開ショーは、ほとんどセックスによる恍惚でしかない。逆に言えばここまで露悪に吹っ切らないと、エクスタシーに及ぶことが出来ないのでしょう。クリステン・スチュワートがファイバースコープのようなものを覗き込んでるシーンなんぞ、彼女の濃厚な見せ場でもありましょう、ゾクゾクものです。しかし折角の彼女もこのカットの他はさして見せ場ありませんが。

 開腹シーンには身構えましたが、拍子抜けするほどに人工感満載で、楽々直視出来ますね。とは言え中から出るのは、海岸に打ち寄せるゴミの塊のようで、ご丁寧にタトゥーまで入っているのですから。もとよりスプラッターではなく、肉体の変容が監督の長年の執念なんですから。基調はプラスチック食に繋げた現代への警鐘と見る事も出来ますが、クローネンバーグにとってそんなことはどうでもよろし。ひたすら変容を追求するのですから、「ザ・フライ」から何にも変わっちゃいません。だから凄いのですよ。

 観て、何じゃこりゃ~、なんて考えてはダメです。レア・セドゥの肉感に右脳で浸ればいいのです。

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