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映画館での仔細な事「23 興行」

 映画に関する業態の最終が興行です、制作⇒配給⇒興行すなわち映画館ですね。興行場を営業するためには興行場法に基づき、都道府県知事の許可が必要です。映画館に限らず劇場・寄席・ホールのみならず野球場やサッカー場もその対象で、主に衛生面や消防面が要求されます。コロナ禍で当館は換気が凄いんですよ、とアピールしてましたよね。もう一つの側面は、昔からの反社勢力との関わりです。なにしろ当たれば大儲けですから組の皆様につけ込まれる余地があり、事なかれを貫くために「手なづける」必要から腐れ縁がありました。映画館と言えば繁華街の中心ですし、不特定多数の観客が集まることからも腐れ縁は本当に腐って続いてました。組組織ご自身が興行師を担う場合もあり、古い映画でも描かれてますね、芝居小屋の看板役者が巡業小屋に到着早々に「あちらの親分さんにご挨拶に・・」なんてシーンが。もちろん今は昔の腐れ縁ですが。

 仔細な事「12 メジャースタジオ」で既に触れたとおり、東宝・松竹・東映が我が国のメジャー映画会社であり、シネコン以前には同時に劇場を所有し興行も担ってました。東京のメイン館で言えば日比谷の映画街が東宝の所有です。なにしろ大阪の阪神電車のオーナーで宝塚を東京に持ってきた際に映画館も作ったのですから。有楽座・日比谷映画・日劇地下・みゆき座・スカラ座も、もちろん劇場も帝国劇場・芸術座そして日劇と。さらに全国の主要繁華街には必ず東宝の名のついた映画館がありました。

 対する松竹は東銀座の歌舞伎座周辺を筆頭に、昔からの金城湯地である浅草を抱え一大勢力に。東宝同様に繁華街ごとに直営館を擁してました。岩で弾ける水しぶきロゴの東映は、実は大阪の阪急と同様に沿線開発に余念のない、東急電鉄によって生まれた映画会社でもあるのです。その東急は興行面では地の利を生かし大きな映画館を擁してました。

 東宝の巨艦館は有楽座で大作映画は殆どここ、新宿プラザ劇場などキャパの大きな一流館を繁華街毎にチェーン化して東宝系一斉公開です。最大規模の興行が見込まれ東宝の超強気な姿勢は言うまでもありませんでした。ロマンス映画の多いスカラ座を筆頭にする場合、アクション映画中心の日比谷映画を筆頭にするチェーン化も構築し、さらにアート色の強いみゆき座・スバル座と最強布陣です。今もそうですが「東宝系公開」の映画新聞広告の上辺と右辺には五線譜が罫線として使われているのは余程のプライドが今もあるのでしょうね。

 これに対抗するのが松竹・東急系で、東銀座の松竹セントラル、渋谷パンテオン、新宿ミラノ座と、それぞれ2000席近くのキャパの巨艦をチェーン化し強固な興行網を構築。さらに丸の内ピカデリーを基幹とし新宿ピカデリー等を系列化して興行の優位性をアピールです。東映は自社の邦画系とは別に東映パラスの名で各繁華街をチェーン化しておりました。

 ハリウッド・メジャー各社は配給に際しどの興行網で出すかは大きな問題でしたが、特筆すべきはワーナー・ブラザースの作品は一切東宝系に流れず松竹・東急系の独占でした。「ダーティーハリー」も「エクソシスト」も「燃えよドラゴン」もここだけでした。興行側は供給元をしっかり押さえたかったのでしょうね、そうゆう契約を取り交わしたようです。

 シネコンの時代となり、興行勢力も大きく変わりました。米国のワーナー・ブラザースが日本の小売業・マイカルと組み、各地のモールへの出店を始め、既存の興行者は大慌てです。とは言え、米国の現況を鑑みればそれが時流で不可避なことでした。個人商店が廃れ、一か所で何でも揃うスーパーに置き換わったように。映画もそこへ来れば何かしら観たい作品と出会えるわけで。従来の興行会社も進んで自らの基幹館を潰して跡地にシネコンを建設に至りました。肝心のマイカル自身の経営が立ち行かずイオンに救済を求め、ワーナー・マイカルもワーナーの撤退の代わりにイオン自ら興行を担います。

 現時点で擁する館数の多い順に、イオンシネマ、TOHOシネマズ、ユナイテッド・シネマ、MOVIX(松竹)、T・ジョイ(東映)、109シネマズ(東急)、サンシャイン、コロナ となってます。その名のとおり東宝・松竹・東映・東急が相変わらずの勢力を競ってます。角川系のシネプレックスはユナイテッドに吸収されてます。もちろん現在は出資の系列とは関係なく配給され「バットマン」もTOHOシネマズで観られます。

 シネコンの寡占が拡大すれば小規模の単館系に打撃なのは言うまでもありません。象徴的なのは神保町の岩波ホールでしょう。一部のシネコンではスクリーンの余裕を活かし単館系の上映もやって頂いてますが、岩波程の文化発掘の気概はないでしょう。さらに物理的フィルムでなく、データでの上映によりマルチスクリーンをフル稼働、「鬼滅の刃」なんて、シネコンのスクリーンの半分を振り当て一日に20~30回の上映の凄まじさ。お陰で観たい作品の上映がたった1日1回にまで押しやられる始末。全ては利益の最大化のための経済活動なのです。

 各地のイベントで映画上映ってもの、興行での取り決め、配信への段取り、パッケージものへの転換など諸々の要件が障害となり、大変に難しい状況です。たかが一本の映画でも、それに携わった端役にまで興行の果実、配信の分け前が行き届くべきで、現在のハリウッドの役者組合のストライキへも私達は理解をしなくてはなりません。

ストライキの統一ロゴです

 「配信と言う名の興行」の仔細を明確にする必要が争点です。何回配信され何人の鑑賞を得たのか、鑑賞者の感動の対価を当然に支払うべきです。一部のスターが一本の映画で数十億円の収入ってのも、大袈裟ではありませんが、そんなスターはほんの一握り。健康保険すら入る事の出来ない大多数の役者にとって、そんなスターは自らの夢の支えなのですから、逆に数十億頂いても全然OKなのです。だから必死で収入途絶えてでもストライキを実施するのです。なりたい人々に支えられているのが今の映画なのです。 

   今日見た作品の対価をきちんと支払いましょう、それが制作に関わった人々の収入であり、そのシステムこそが「興行」なのです。

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