【短編小説】曼珠沙華の花言葉
✼••┈死へのいざない┈••✼
するーーっとん するーーっとん
今夜も響く高下駄(たかげた)の音
ゆっくり しなやかに響かせる
『髑髏太夫(しゃれこうべたゆう)を見た者は魅入られ喰われてしまうとさ』
そんな噂が絶えまない
魅入られた者の行く末は…
いったい…どこへ消えたのやら…
するーーっとん するーーっとん
だんだんと近づく高下駄の音
作家:「貴女が、髑髏(しゃれこうべたゆう)ですか?」
上擦(うわず)った声で俺は たずねた
小さく頷(うなず)き微笑む太夫は
おぞましい通り名とは
かけ離れた 女(ひと)だった
ただ、彼女の着物の柄(がら)が異様で
不気味だった
闇夜に無数の髑髏(しゃれこうべ)が
幾重にも積み重なっている
その横には一輪の曼珠沙華(まんじゅしゃげ)が血を帯びたように
赤々と咲いていた
髑髏がガタッと動いた気がして
息を飲むと、それに気がついたのか
太夫が声をかけてきた
太夫:「髑髏が、お気に召したかえ?」
作家:「いやいや…ずいぶん変わった柄だと思いまして…ははっ」
太夫は、にこりと微笑み
太夫:「この子は魚屋の歳三(としぞう)
この子は髪結いの熊吉(くまきち)
それから…」
と髑髏を一つひとつ指差しながら
説明してくれる
作家:「へ〜名前を付けたんですね」
と俺が言うと突然
太夫は高笑いをして こう言った
太夫:「あはははっ!面白いことを
お言いになるっ
貴方も、わかっているざんしょ?!」
ニヤリと笑う太夫が恐ろしくゾッと
するほど美しかった
太夫:「あらあら我儘な子達♪
お仲間が欲しくなったかい??
こん御人(おひと)も……
そうかい そうかい…
悪事(あくじ)をしてるとな!?」
俺は、その場から逃げなければ命を取られると悟った
後ずさりをする俺の足もとに
いつの間にか猫が一匹
睨(にら)みをきかせていた
太夫:「むくろっ!ソイツを逃がすんじゃないよっ!!」
ギニャーア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ーー!!
耳障りな鳴き声をあげ襲いかかる
足に噛み付いて離れない
作家:「離れろ!離れろ!コノヤロー!」
俺は、猫を噛まれていないほうの足で
踏み殺した
太夫:「あ〜あ また殺(あや)めて
しまいんしたな」
作家:「この猫が悪いんだろっ!!」
太夫:「そうやって、あの娘(むすめ)も
殺めたのかっ!」
作家:「あれは…アイツが暴れるからっ…」
太夫:「愚か者は地獄へ落ちなっ!!!」
太夫が覆(おお)いかぶさってきた
目の前には、髑髏(しゃれこうべ)の群れ……
髑髏の口が パカッと開き
俺の喉元、首筋、腹、背中…
カラダのあちらこちらを噛んでくる
そして…
噛みちぎられ血が飛び散る
作家:「がっがっ…がはっ…」
薄れゆく意識の中で曼珠沙華が…
揺れていた…
するーーっとん するーーっとん
猫の鳴き声とともに高下駄の音が
静かに響いていた
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?