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ステロイド外用薬について

外用薬は皮膚科医の三種の神器のような重要な道具です。
内服は口から胃のなかに入り、小腸で吸収されて、血中にのり、そこから標的となる臓器へ届いていくのに対して、外用薬は届けたいところに直接載せることができるという強いツール(道具)です。
このツールを患者さんがうまく使いこなすことを応援することが、皮膚科医の役割と感じていますので、今日はアトピー性皮膚炎でまずは治療の中心となるステロイド外用薬についてお話ししたいと思います。ステロイド外用薬については、色々な思いがある方も多いかと思いますので、今日はこれだけでしっかりお話したいと思います。そのほかの抗炎症性外用薬や保湿に関しては、また後日書きたいと思います。


ステロイド外用薬

ステロイド外用薬とは?

皮膚科の塗り薬というと、これを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
ステロイドは、もともと人の体内の副腎という臓器で作られる副腎皮質ホルモンです。これを人工的に合成した薬がステロイド剤で、生体内のホルモンと同様に抗炎症作用、血管収縮作用、免疫抑制作用があります。
この作用がアトピー性皮膚炎の症状緩和に役立っています。1952年頃から外用薬として使用が開始されたので、半世紀以上の歴史がある薬です。

ステロイド外用薬の強さ


日本では強い順に1群から5群までの5段階に強さが分けられています。
市販のステロイドは3群から5群までの強さしかなく、強い1,2群はきちんと医師の監視のもと使うことが大切です。
1群:ストロンゲスト(デルモベート®軟膏)
2群:ベリーストロング(フルメタ®軟膏、アンテベート®軟膏、マイザー®軟膏など)
3群:ストロング(リンデロン®V軟膏、ボアラ®軟膏など)
4群:ミディアム(ロコイド®軟膏、キンダベート®軟膏など)
5群:ウィーク(プレドニゾロン®軟膏など)

ステロイド外用薬の塗る部位別の吸収率


皮膚科医は、ステロイド外用薬を塗る場所が、大人の皮膚なのか、子供の皮膚なのか、部位はどこかにより、吸収率が異なるので、それらを加味して、副作用が出にくく、十分効果がある強さを処方しています。
一般的に顔の皮膚は、脂腺が多く吸収されやすいので、体とは分けて処方することが多いです。顔には体より弱い強さのステロイドでも十分効果を発揮し、逆に強いものをつけると、副作用が出る可能性があります。
前腕の内側の吸収率を1としたときに比較したデータがあります。
頭皮は3.5倍、頬は13倍、下顎は6倍、陰嚢42倍となっています。
掌は0.83倍、足底は0.14倍とかなり吸収率が落ちます。

Feldmann RJ, et al., J. Invest. Dermatol., 48, 181-3, 1967

薬の袋に部位が書いてあると思いますので、確認して塗ってください。

大人と子供の皮膚の違い

吸収率に関連して、大人と子供の皮膚の違いについて、お伝えいたします。
まず乳児の皮膚は少なくとも生後2年までは、表皮と角質層が薄く、角質細胞が小さい状態です。乳児の角質層には水分は多く含まれていますが、天然保湿因子の量は少ないです。角質層が薄く、天然保湿因子が少ないということバリア機能が大人より弱いということになります。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19804498/

その後皮膚のバリア機能は成熟しつづけて、約6歳ころに経表皮水分喪失(TEWL)、角質層の脂質の密度、角質層の厚さ、角質細胞のサイズが成人レベルに達します。ただし、このころもまだ皮脂分泌は思春期になるまで少ない状態です。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37302006/

これらの違いから、大人と子供の薬の強さを分けて考えることが多いです。
ただし、6歳ころになると、上述のように成熟してくるので、赤ちゃんの時に使っていたロコイドが効きにくくなったということがよく起こるので、この説明をして、強さを調節いたします。決してどんどんステロイドの強さが強くないと効かないというわけではなく、お子さんの成長の過程で皮膚が強くなってきた証拠ですよとお話いたします。

ステロイド外用薬の塗り方

必要十分量塗ることの重要性が、日本皮膚科学会のガイドラインでも示されています。
十分な量塗らないと、皮膚の表面は凹凸があり、その凹凸の凹の部分にしか入っていかない可能性があります。

https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/ADGL2021.pdf

日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021

必要十分量とは、塗った後に皮膚がきらりと光る程度、ティッシュを1枚(2枚になっているものは1枚に分離したもの)引っ付けると落ちない程度と言われています。チューブから絞り出すときには、チューブの穴の大きさにもよってきますが、口径5mmのチューブを人差し指の先端から第1関節まで絞った量が成人の掌2枚分の範囲に外用できると言われています。
この量を1FTU(Finger Tip Unit)と呼びます。

年齢別、体の部位別の必要FTUを表にしたので、お示しいたします。

つまり、1,2歳児でも全身塗れば1回6.75g(5gチューブでいうと1本強)必要で、成人に至っては全身塗ると20g必要ということになります。
ただしこれは、凹凸、乾燥などによって量が変わってくることがあるので、個々の患者さんに合わせて、次回受診までの必要量を主治医の先生が考えて処方してくれると思います。
この十分な量を掌全体を使ってしっかり塗ることが大事です。
でも擦り込む必要はありません。掌全体でお薬を必要な場所に伸ばして載せてあげれば大丈夫です。初めは毎日塗る方がほとんどだと思うので、できるだけ、外用に時間をかけすぎないのも継続する上でとても大切だと思います。

さらに、お風呂上りにさっと塗れるように、脱衣所のすぐ届くところに置いて、すぐ塗れるようにするのも大事なポイントかと思います。

ステロイド外用薬の塗る期間

中止時期は、ぜひ主治医の先生に聞いてください。
どれだけ皮膚の症状が強いのか、どれくらいの期間続いているのか、皮膚の炎症のできやすさ、悪化因子の存在などにより、外用期間は異なってきます。リアクティブ療法といい、皮膚症状が悪い時のみ塗って、よくなったらやめる方法で、その後良好な皮膚状態が保たれる場合はそれでもよいとされています。ただし、やめるとすぐに再燃する方は症状が良くなってもしばらく塗り続け、少しずつ回数を落としていく事が必要と言われています。これをプロアクティブ療法と言います。

プロアクティブ療法について

プロアクティブ(proactive)療法は,再燃を繰り返す皮疹に対して,急性期の治療によって寛解導入(皮膚症状を改善させること)した後に,保湿外用薬によるスキンケアに加え、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏を間欠的に(週2 回など) 塗布し,皮膚がよい状態(皮疹ゼロの状態)を維持する治療法です。
2000年頃より提唱され、今では日本皮膚科学会のガイドラインでも再燃を繰り返すアトピー性皮膚炎の方に行うことを推奨されています。
私もアトピー性皮膚炎でプロアクティブを行ったほうがいいなという方には、説明を行なって、積極的にプロアクティブ療法を行なっています。
ステロイドやタクロリムス軟膏、デルゴシチニブ軟膏など、アトピー性皮膚炎に対して、炎症を沈める作用のあるお薬の外用回数を徐々に減らしていく方法です。この時、皮膚がいい状態つまり皮疹がない状態を保ちながら落としていくことが重要です。
プロアクティブを行ったほうがいいのか、リアクティブで十分いい状態の皮膚を維持できるのかは、普段診てくれている主治医の先生にきちんと聞いたほうがいいので、相談しながら行ってくださいね。


ステロイド外用薬の副作用

外用では全身的な副作用は起きにくいです。
全身的な副作用は通常内服した際に起きると言われています。
もちろん外用でもステロイドは吸収されるのですが、
ストロンゲストの軟膏を1日10g単純塗布した場合の副腎皮質機能抑制は、ベタメタゾン錠(ステロイドの内服)を1日0.5錠内服する状態に相当すると言われています。確かにこれを何か月も同じように続けると副腎抑制は生じる可能性はあります。
このような副腎皮質機能抑制が起こる1日外用量を表に示します。

先ほど成人に全身塗ると、20g必要とお伝えしました。
しかしこれが何か月も連日ということは少なく、徐々に回数を減らすことでその機能抑制が起こりにくくできます。
ベリーストロング(II 群)のステロイド 外用薬の長期使用試験結果から、通常の成人患者では 1 日 5 ないし 10 g 程度の外用を塗り、症状に 合わせて漸減する使用法であれば 3 か月間使用して も,一過性で可逆性の副腎機能抑制は生じうるものの 不可逆性の全身的副作用は生じないと言われています。


次に局所的な副作用についてお話いたします。
局所的な副作用は以下のものが挙げられます。

  • 皮膚委縮(皮膚の真皮部分が薄くなること)

  • 毛細血管拡張(細い枝のような血管が浮き出て見える状態)

  • 紫斑(真皮部分に血管から血液が漏れた状態で、紫色の斑に見える)

  • 多毛

  • にきび

  • 皮ふ線条(妊娠線のような皮膚に線がはいる状態)

  • 創傷治癒遅延(傷の治りが悪くなる状態)

このように列挙するととても怖く感じるかもしれませんが、皮膚科医はこのような副作用を出さないように、部位によって強さを変えたり、塗る回数を適切な時期に減らしていくことを行っています。
さらには、最近はステロイド以外の抗炎症作用のあるアトピー性皮膚炎に対する外用薬が増えてきたので、それらの薬を使いながら、ステロイドを減らし、副作用をより軽減できる可能性が増えてきました。


剤型

軟膏
ステロイド外用薬の基本の剤型になります。市販のお薬に比べると、ベタベタした感じを受けるかと思いますが、接触皮膚炎などのトラブルを起こしにくく、ひっかいて少し傷があるような病変にも使いやすいので、皮膚科医がステロイドを処方する時には、まずこの剤型を選ぶことが多いです。

クリーム
軟膏がどうしてもベタベタするのを好まない患者さんや、ニキビが多発してしまう場合、夏場などに処方します。前述のようにひっかいた傷部分に塗ると時にしみることがあるので、そのような病変は避けて処方します。

ローション
頭部に使用することが多いです。
時に体に希望されて出すことはありますが、ローションにするためにアルコールが基材として使われているものも多く、刺激性が高くなるので、体に使う場合はその旨説明して、大丈夫か確認しながら、使用します。

スプレー
背中などの手が届かないところに有用ですが、スプレーがあるステロイド薬は少なく、処方する機会はあまり多くありません。

テープ
手湿疹の亀裂や痒疹タイプ(ぽこっとした丸いふくらみが多発するタイプ)に有効なことがあるので、そのような場合に処方します。


最後に

最初にお伝えしたように、ステロイドはあなたの皮膚をいい方向に向かわせてくれる、大切なツール(道具)です。
人は生きていく中で様々な道具を使いこなしてきました。
それには正しく使うための知識が必要かと思います。
今は、ステロイド以外にもたくさんの道具がアトピー性皮膚炎の治療にはあります。ここ10年以内の進歩はめざましいものと感じます。
そして治らない病気ではないと感じております。
上手に道具を使って、皮膚疾患に悩まされずに笑顔で過ごす日々を増やすための知識の一つとしてお役立ていただければ幸いです。


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